まいどこの面
所蔵面について

酒井神社は、浅野長政が、永禄年中征伐凱旋にあたって寄進されたと伝えられている阿吽の二面とさらにもう一面の、計三面を所蔵していますが、現在はその保存のため委託しており、新嘗祭と共に斎行される「まいどこ」では阿吽二面の複製の面を使って子供さんの手により奉仕が続いています。


大津市歴史博物館で展示されました
ー企画展ー
能・狂言のふるさと近江
 1997年9月13日〜10月19日


蛇面
この面は眼球が大きく、口も大きく開いて、顎をグッと突き出たせ、そのうえ、下顎の周りには彫りがある。仮面分類上の名称でいうなら、「蛇」の面であります。他の神社祭礼に使われる邪気払いの鬼神阿面は、普通は飛出という面を使用するのを原則であるそうです。飛出とは名称の示すごとく、眼球を飛び出させて口を大きく開けた面で、能では天上の神役に使います。
竜神信仰の厚いこの近江地方には、室町期作の蛇面の佳品がかなり多く現存しています。この面も、そのーつであります。
現在は彩色はすっかり剥落し、鼻頭も少し損じ、下の歯列の牙も 欠いていますが、彫刻はかなりすぐれており、眼の縁に残る質の粗い白土や、ロ端にみえる白土の上の明るい丹の性質から考えても、恐らく室町末期は下らないといわれています。面裏は、木地のままであるが、鼻裏のあたりには、縦の刻線五本がみられ、これによって、この面が越前地方で制作された面であることがわかります。この面には、作者が誰であるかを示す署名こそありませんが、この刻線はある特定の作者群であることを知らせ、これによって越前の面打の作であることが知られます。
べしみ面
「べしみ」。この名称のいわれは、口をムッと強く結んで、いわゆるへし口をしているからである。能では地獄の鬼神役に使う。眼も鋭く、眉間をしかめてなかなか力強い。右眼の金具は立派に残っているが、左眼のそれは残念ながらなく、さらにその下辺も欠き、またその左眼を中心にして面は縦に割れているのがおしまれる。彩色もかなり剥落しているが、蛇の面に比べれば、白土下地に明るい朱を混ぜた褐色彩色が、まだまだ残っています。面裏は、黒漆を薄手に塗り、額の中央には作者の銘と思われる、刻印の花押がみられ、花押の様式からすると、この面も、十分室町期の作品であると考えてよいといわれています。
鬼神面
太くて長い眉が、目尻をつりよげた上瞼にそって頭頂に 向い縦状に盛り上がっている。一方、口端を動物のそれのように 後方に引き深く切りこみ、上下の歯列も頑丈に、そのうえそれぞれ一対の牙をもつ。さらに、鼻柱も太く、小鼻は左右に怒り、表情はなかなか力強く、鬼神面として、いかにもふさわしい。
表面 全体を、朱塗で彩色。目・眉・歯列は、黒漆塗りである。頭頂の左右に、角を差しこんであったと思われる穴がみられるので、もとは立派な角が差しこまれていたのであろうと判断されます。なお、頭頂には、がって粗い植毛があったらしく、その残欠を示す多くの穴がみられます。相貌は、角を除けば舞楽面の「抜頭(ばとう)」に近い。裏面は、黒の拭き漆。この面の制作時代も、少くとも室町末期。
天狗面
両社神社でも「まいどこ」神事が行われている。(神社総代・宮世話で奉仕)その所蔵されている天狗面。天正十六年戊子浅野幸長寄進」と伝えられています。
縦と横はそれぞれ二十二・四糎と十八・九糎で、表面は、丹を薄手にさっと塗った程度。目は白土下地に黒。眉も黒。丸い眼球の上に大きく立派な眉を彫り出し、口端を左右に引き、口をムッと結んでいる。二本の小さい角と額の細い皺状にやや弱さを感じさせるが、頬の肉取りは簡素ながら、力強く面白い。鼻はいわゆる天狗鼻で太くて長い棒状だが、残念ながら根元から折れている。裏面は、黒塗り。室町末期から桃山時代にかけての作といわれています。


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滋賀県大津市下阪本
 酒 井 神 社
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