長引く不況により、昇給のストップ、残業代や賞与のカット、生産調整のための休業などが行われ、収入の減少した労働者が、生活のため、終業時間後や休日に副業を始めるケースが増えています。
 こういったとき、事業所はどう対応したらいいのでしょうか。兼業を認めるとした場合、どういったことに注意しなければならないのでしょうか。今月号では、兼業(二重就業)にまつわる諸問題について考えていきましょう。

●◎ 兼業は禁止できるか?
 
  公務員は法律によって兼業が禁止されていますが、民間企業にはこのような法的な規制はありません。よって、民間企業の従業員は、自由に兼業ができることになるのですが、だからといって、従業員が事業所の知らないところで勝手勝手に副業を始めてしまうと、事業所の経営活動にさまざまな悪影響が出てきます。
・ 疲労、睡眠不足などにより、体調を崩したり、遅刻・早退・欠勤が増えるなど、
本業への労務の提供が不完全になる。
 ・ 企業秘密が漏れる可能性がある。
 ・ 副業のため、残業を拒否される可能性がある。
 ・ 風俗店など、副業の内容によっては、事業所のイメージダウンにつながる。
などが考えられます。
 そのため、ほとんどの事業所では、就業規則等に定めることにより、兼業に一定の制限を設けるとともに、それに違反した場合の懲戒規定を設けています。

 【就業規則の規程例】
(服務規律)
第○条 会社の許可なく、他の団体の役員に就任し、又は他に雇用され、もしくは自ら事業を行ってはならない。 

(懲戒事由)
第○条 会社の許可なく、他の団体の役員に就任し、又は他に雇用され、もしくは自ら事業を行ったとき。

このような規定を設ければ、前記の例のような悪影響が生じると判断されるような場合には、許可をしないことも可能ですし、許可を得ず無断で兼業を行った従業員に対して、程度に応じて懲戒処分をすることも可能になるわけです。

 では、兼業を全面的に禁止することは、可能なのでしょうか。過去の判例(裁判の先例のこと)によると、「就業時間外は本来労働者の自由な時間であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除いて合理性を欠く」
とされており、兼業の全面的な禁止には問題があると考えられます。

               
●◎ 兼業を許可した場合の注意点
 
 
 1、労働時間の取扱はどうなる?
 「労働基準法」では、従業員の労働時間は、原則として「1日8時間以内、1週間40時間以内」とするよう定められています。兼業をしている人の場合、この規定は、それぞれの職場で適用されるのでしょうか。答えは「NO」です。「労働基準法」では、「別々の事業所で働く場合でも、労働時間は通算する」と定められているのです。
 つまり、通算した結果、「1日8時間、1週40時間」を超えて労働することとなった場合は、超えた部分は、「時間外労働」いわゆる残業扱いになるということです。下の例を見てください。

  本業A社7時間+副業B社2時間=通算して9時間 → 
1時間の時間外労働発生

この場合、法定時間である8時間を超えて労働させたB社での1時間が時間外労働となり、B社において割増賃金の支払いが必要となります。
 また、B社では時間外労働をさせる際に必要な手続である「時間外労働、休日労働に関する協定書(36(さぶろく)協定(きょうてい))」の締結と労働基準監督署への届け出が必要です。

こんなケースはどうでしょう。A社のCさんが、社長にこんな相談を持ちかけました。「残業代とボーナスが激減し、家のローンの返済が厳しい。週2回、出勤前の2時間、自宅近くのコンビニでアルバイトをしたい。」社長は、「Cさんの事情もよくわかる。週2回、それも2時間だけなら、本業に影響はないだろう。仕事内容もいかがわしいものではないし。」と考え、許可しました。ところがそこに、思わぬ落とし穴が…。

  コンビニ2時間+本業A社8時間=通算して10時間 →
2時間の時間外労働発生
 
 A社の所定労働時間は8時間。つまりA社では残業をさせていないのに、最後の2時間については、A社が割増賃金を払う必要があるのです。
 現実的には、掛け持ちをしている2社間で連絡を取り合ったり、本人にいちいち自己申告させたりして、それらの調整をすることまではできていないケースがほとんどかと思われますが、法律上はそういうことになっているという点を知っておいていただきたいです。

 また、事業主には、労働者に対する「安全配慮義務」(労働者を労働災害から守り、安全に労働させる義務)が課せられています。十分な休養や睡眠が確保できないような兼業を認めた(あるいは黙認していた)結果、労働者が病気になったり、労働災害を起こしたりしたときは、事業主が安全配慮義務違反を問われかねません。

  
  
2、通勤災害の取扱は?
 通勤中のケガ等については、「通勤災害」として「労災保険」から治療費や休業補償が受けられます。従来は、「通勤」とは、住居と職場間の往復だけに限定されていましたが、兼業を行う者が増加してきたことから、平成18年4月の法改正により、職場から職場への移動中の災害も「通勤災害」として労災保険の給付の対象となりました。
 給付の請求手続は、今から向かう予定だったB社が担うことになります。


 
 3、雇用保険の取扱は?
 雇用保険は、1週の所定労働時間が20時間以上の場合加入することになりますが、両方の事業所で週20時間以上働いたとしても、両方で加入することはできません。「その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける一の雇用関係についてのみ被保険者となる」と定められています。つまり、収入的に「主」になる方の事業所でのみ加入することになります。


   4、社会保険の取扱は?
 社会保険(健康保険・厚生年金保険)については、加入要件が、「1日の勤務時間および1ヶ月の勤務日数が、その事業所の正社員と比べて概ね4分の3以上の場合」とされているため、両方の事業所で加入要件を満たすことはあまり考えられませんが、もし、両方で加入要件を満たすということであれば、所定の手続を踏んで、両方の事業所で加入することになります。健康保険証はいずれか片方の事業所名で発行されますが、保険料は、両方の賃金を合算して算定し、按分してそれぞれの事業所で徴収することになります。



  「従業員がこっそりアルバイトをしていることが、同僚間で噂になっており、社長も薄々感づいているが、ボーナスがあまり払えないことのひけ目もあり、気付かないふりをしている。」といった話を聞くこともありますが、前記の通り、従業員が兼業をする際には、さまざまな注意点があります。放置はせず、必ず貴事業所の就業規則等に従い、必要な届出をしてもらってください。その際には、兼業先の事業所名、事業所所在地、仕事内容、勤務日数、勤務時間などの把握が必要となってきます。「兼業許可申請書」といった書面を提出させるのがよいでしょう。