
ラムサール条約 第10回締約国会議
決議Ⅹ.3「人間の福祉と湿地に関する昌原(チャンウォン)宣言」
- 日本語訳:
- 『ラムサール条約第10回締約国会議の記録』(環境省 2011年)より了解を得て再録.
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"Healthy Wetlands, Healthy People"
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第10回締約国会議
大韓民国 昌原(창원),2008年10月28日−11月4日
決議Ⅹ.3
人間の福祉と湿地に関する昌原(チャンウォン)宣言
1.「ミレニアム生態系アセスメント(MA)」で報告されているように、土地利用の変化及び水の過剰利用から生ずる多くの圧力が、温暖化及び変動が増加しつつある気候により激化しており、このことは、湿地が世界の多くの場所で他の生態系よりも早い速度で引き続き消失あるいは劣化することを意味し、湿地が提供しているサービスや人間の福祉の基盤を脅かしていることを懸念し、
2.生態学的特徴を維持し再生することにより湿地が生物多様性のみならず人間の福祉、生活、健康に大いに寄与していることを踏まえ、ラムサール条約締約国及びその他により地元レベル、国レベルそして国際レベルで、現状に対処するための多くの取組がなされていることを意識し、現在の悪化傾向を止める、あるいは逆転させるため、そして2010年生物多様性目標及び2015年ミレニアム開発目標を達成するためには、これらの取組を倍増せねばならないことを認識し、
3.本締約国会議のテーマが「健康な湿地、健康な人々」であることを意識し、
4.国連事務総長から2008年10月28日に本会議宛に送られたメッセージを歓迎し、湿地と世界中の人々の生活と福祉の関係を強調したメッセージ内容及び、この重要な結びつきを支持する指針と仕組みを与えるラムサール条約の重要性と、ミレニアム開発目標を達成するために湿地生態系サービスが大いに寄与できることに留意し、
5.ラムサール条約の下における国際的な公約に関連して、政府、国際機関、民間企業及び市民社会が、湿地の将来における健全性の確保、そして湿地の生態学的特徴を維持するために担うことができる、そして担うべき役割について十分に理解することが緊急に必要であること、そして一層効果的な分野横断的な活動を発展させる必要があることを認識し、
6.湿地の保全と賢明な利用のために、政府と地域住民との協働とパートナーシップの重要性を強調し、ラムサール条約履行における政府と地域住民との間で共有された責任について強調し、
7.「昌原(チャンウォン)宣言」の主たる目的は、ラムサール条約コミュニティを越えて、湿地の保全と賢明な利用に関係する多くの利害関係者及び政策決定者に対し、その活動と政策決定が情報に基づいたものとなるよう、湿地に関連して鍵となるメッセージを伝えることであることを承知し、
8.本宣言は、条約と条約機関に対し今後の取組と実施すべき優先事項を提供する『ラムサール条約2009−2015年戦略計画』を補足するものであること、そして戦略計画に定められた目標の多くは「昌原宣言」の実施によって効果的に進展することに留意し、
9.世界中の人々のため、将来の湿地における行動に包括的な方針を与えるため「昌原宣言」の準備に携わり、指導力を発揮した韓国政府に感謝し、
10.「昌原宣言」が、科学技術検討委員会(STRP)、国際パートナー機関(IOPs)、COP10開催国である韓国政府及びラムサール条約事務局らの専門知識を活かした連携により準備されたことを認識し、韓国政府が将来的にこの宣言の普及と理解を支持する意思を明らかにしたことに感謝し、
締約国会議は、
11.本決議の付属書である「人間の福祉と湿地に関する昌原宣言」を歓迎する。
12.締約国及びその他の政府に対して、国家元首、議会、民間企業、市民社会が「昌原宣言」に着目するようにし、これに加え、全ての政府の関連部局(特に、水管理、保健、気候変動、貧困削減、土地利用計画策定等)と湿地に影響する活動の責任当局が、特に本宣言に含まれる「Call for Action(行動へのよびかけ)」に応えることを奨励するよう強く要請する。
13.締約国及びその他の政府に対して、ラムサール条約以外の外部過程に向けた政府代表団の立場を含めた各国の国家政策、政策決定に際して、またラムサール条約とその他の過程、特に「国連持続可能な開発委員会」、国連機関、多国間環境協定や「世界水フォーラム」等との間での相互支援・協働が見込まれる、地元、国及び国際レベルでの特定の機会を通じ、「昌原宣言」を活用して情報を与えるよう同じく強く要請し、条約事務局に対し、これを支持するための行動の機会についての総括を準備するよう要請する。
14.常設委員会、科学技術検討委員会(STRP)、条約事務局、CEPA(広報・教育・参加・普及啓発)の各国担当窓口、条約の枠組みの下での地域イニシアティブ、国際団体パートナー(IOPs)等に対して、将来における活動及び優先事項の決定において「昌原宣言」を活用し、独自の手段やその他の機会を利用して積極的に本宣言の普及を促進するよう、さらに強く要請する。
15.湿地の保全と賢明な利用に関連した活動を行う、その他の団体、主体、機関及び事業が、それらの支持基盤に対して「昌原宣言」のメッセージの普及を促進することを奨励する。
16.締約国その他に対して、「昌原宣言」を地元の言語に翻訳するための資金を確保し、できるだけ広範にわたり普及と理解を促進することを奨励する。
17.戦略計画に関する指標は、一部、「昌原宣言」の指標としても意味があることに留意しつつ、条約事務局及び常設委員会に対して、本宣言がどの程度広められ理解されたかを評価する指標を可能であれば開発し、次期締約国会議(COP11)に提出する国別報告書の様式に加えることを検討し、これを締約国その他に報告することを指示する。
18.常設委員会、STRP、CEPAの各国担当窓口、条約の枠組みの下での地域イニシアティブ、国際団体パートナー、その他関心を有する者が、本宣言の理解に関する経験を次期締約国会議(COP11)に報告できるよう、条約事務局に助言することを要求する。
19.条約事務局に対し、専門用語の整合性を図るため、必要に応じて本締約国会議で採択された文言の言葉遣いを、本決議に統合するよう指示する。
決議Ⅹ.3
付属書
人間の福祉と湿地に関する昌原(チャンウォン)宣言
なぜこの宣言を読み、利用するべきなのか?
湿地は食料を供給し、炭素を貯蔵し、水の流れを調節し、エネルギーを蓄え、生物多様性に不可欠なものである。湿地のもたらす恩恵は人類の将来的な安全に必要であり、湿地の保全と賢明な利用は人々、特に貧困層にとって不可欠である。
人間の福祉は、生態系が提供する多くの恩恵に依存しており、その一部は健康な湿地がもたらすものである。国際レベルから地元レベルまでの各レベルの幅広い主体による政策立案、計画策定、政策決定及び管理活動は、ラムサール条約が提供する世界的な合意により恩恵を受けることができる。これは湿地の関連性の特定、湿地保全及び賢明な利用の重要性、湿地が水・炭素貯蔵・食料・エネルギー・生物多様性及び生活の観点から人々にもたらす恩恵の確保を含む。これはまた、この知識を実用化するための専門知識、手引き、モデル及び支援網をも含む。
昌原(チャンウォン)宣言は優先行動の総括と同時に、世界で最も重要な環境上の持続可能性に関する目標を実現させる「方法」を提示している。
昌原宣言は、2008年10月28日から11月4日、大韓民国昌原市にて開催されたラムサール条約第10回締約国会議の声明及び行動への呼びかけである。
昌原宣言は、将来の環境に関心がある世界中の人々に関係する宣言である。
あなたが計画策定者、政策立案者、政策決定者、選挙によって選ばれた代表、あらゆる環境、土地又は資源利用部局の管理者、あるいは、教育及びコミュニケーション、保健、経済又は生活の分野で働く人であれば、この宣言はあなたに向けて発信されたものである。あなたの行動が湿地の将来に影響を与えるのだ。
この宣言の由来は?
ラムサール条約は、世界中の湿地の保全と賢明な利用に関する、世界的な多国間協定であり、1971年2月2日にイラン共和国にて制定された。
ラムサール条約(1971年、イラン・ラムサール市)[原注1]の使命とは:
「世界中の持続可能な開発の達成に向けた貢献の一つとして、地方や地域、国内や国家間の協力を通した、すべての湿地[原注2]の保全と賢明な利用[原注3]である。」
ラムサール条約は、誕生してから40年近く経た今も、世界的、国家的、地方レベルの環境問題の最優先事項に重点的に取り組み、発展し続けている。2008年10月28日から11月4日まで、大韓民国昌原市において、「健康な湿地、健康な人々」[原注4]というテーマのもと、人間の福祉と湿地の働きとの間のつながり及びこれに関連する積極的な行動の特定に焦点を当て、ラムサール条約第10回締約国会議が開催された。
誰がこの宣言を利用するべきか?
締約国会議は、環境の管理に関わる全ての利害関係者、特に、各国首脳など、国際レベルにおける関連会議等で指導的立場にある者、そして等しく、地元・河川流域レベルでの実践において指導的立場にある者に、この宣言を呼びかける。
これが「ありふれた宣言」でない理由は?
これまで、多くの国際環境会議において宣言が行われている。昌原(チャンウォン)宣言は「標準」を踏襲するのではなく、下記により価値を高めることを狙いとしている:
- 主として、ラムサール条約関係者を越えた対象者と、行動の機会に向けられている。
- 積極的で実践的な行動の方法を提供する。
- 宣言の影響を確実なものとする方法を明示する。
昌原宣言には何が書かれているのか?
昌原宣言は、5つの優先テーマに関する表題の下、将来の人間の福祉と安全を保障する、積極的な行動を強調する。その後に、分野横断的な実現手段の重要な2分野が続く。
実践上何を意味するのか?
1.水と湿地
湿地生態系の劣化と喪失は、他の生態系と比較して速く進行しており、土地利用の大きな変化、水の利用、基盤(インフラ)整備により、この傾向は加速している。世界中の10-20億の人々にとって淡水を得る手段が悪化しており、結果的に食料生産、人間の健康、経済発展に悪影響を及ぼすこととなるほか、社会的対立を増加させることもある。
水管理の改善が緊急に必要となっている。水管理は、需要により決定されると、水の過剰な配分が促進されてしまうが、そうではなく、湿地を河川流域規模での水資源管理に不可欠な「天然の水のインフラ(基盤)」として扱うべきである。「これまで通り」という選択はありえない。
増加し続ける水需要と過度な水利用は、人間の福祉と環境を脅かしている。水の需給ギャップ(需要と供給の間の隔たり)の急速な拡大に伴う湿地の劣化により、安全な水の入手手段、人間の健康、食料生産、経済発展及び地政学的安定がおぼつかなくなっている。
人間の直接的な必要を満たし、湿地を維持する水は、往々にして不足している。現在、生態系のために水量を維持する試みがなされているにもかかわらず、清潔で安定した水の供給をはじめとした、人々と生物多様性に持続的恩恵をもたらす湿地の能力が低下している。水配分に上限を設ける(水リミット制)「環境水量確保(Environmental flow)」のような生態系への水配分を確保する行動や、新たな水管理のための法制度が強化されなければならない。
この「水ギャップ」を埋めるため、以下を実施することが必要である。
- 利用可能な水をより効率的に使用すること。
- 湿地が劣化あるいは消失することを止めること:我々は皆、水の安全保障のため、健康な湿地を必要としていること、そして現在、湿地の生態系サービスがあらゆる生態系の中でも特に速く失われつつある、という明確な認識に基づく。
- 既に劣化してしまった湿地を再生すること:これは、地下水や地表水の貯水量を増加させ、水質を高め、農業や漁業を維持し、生物多様性を保つために効果的かつ効率的な方法である。
- 湿地を賢明に管理し、保護すること:湿地が、食料生産や飲料水、公衆衛生に必要な水の質と量を供給し続けるため、常に湿地に十分な水を確保すること。湿地は、我々が容易に利用できる唯一の水源であるため、それを行わなければ水問題はさらに悪化する。
2.気候変動と湿地
多くの種類の湿地が炭素を隔離し、貯蔵する重要な役割を担っている。湿地は特に気候変動による影響を受けやすい。また人によって湿地システムが乱されると、莫大な炭素が放出されてしまう。
湿地は気候変動に対応するために必要な、天然のインフラとなっている。湿地の劣化と喪失が気候変動を悪化させ、より多くの人間に洪水や干ばつ、飢饉等の気候変動の影響が及ぶようになる。気候変動政策の多くは、より多くの水の貯蔵、移送及びエネルギー生成に対応するものだが、実施段階で失敗すれば、湿地に悪影響を及ぼすことになる。
気候変動は水管理の不確定性を増大させ、水の需給ギャップの解消をより困難にしている。我々は、湿地の健全性に対する圧力を増加させる、水の分配と入手しやすさの変化を通じて、気候変動の影響を最も直接的に感じている。気候変動対策や洪水緩和、水の供給、食料供給及び生物多様性の保全に対応する上で、湿地の再生と水の循環サイクルの維持が最も重要である。
沿岸湿地は、海面上昇による沿岸部の問題に対処する為に策定される戦略において、重要な部分を担うことになる。
国レベルでは、政府は気候変動に対応する効果的な戦略に、水と湿地管理を含める必要がある。政策決定者は湿地の天然のインフラとしての機能が、気候変動の緩和と適応における貴重な資産であることを認識しなければならない。
水及び良好に機能する湿地は、気候変動への対応と気象現象の制御に重要な役割を果たす(水の循環、生物多様性の維持、温室効果ガス削減及び悪影響の緩衝を通して)。湿地の保全と賢明な利用は、気候変動や気象現象による経済、社会及び生態学的な悪影響を軽減する上で役立つ。
特に湿地、水、気候のつながりについて、共通の理解と調和のとれた分析のため、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やラムサール条約STRP(科学技術検討委員会)等といった、気候変動に関連する国際的な専門機関が協働する機会を設けるべきである。
3.人々の生活と湿地
部局間の政策が調和しないと、貧困削減に向けた多くの重要な開発やインフラ整備が湿地の劣化につながってしまう。その結果、地域社会に極めて重要な生態系サービスを供給する湿地の能力が損なわれ、貧困のさらなる促進につながってしまう。
経済開発と特に貧しい人々の生活のため、湿地の恩恵を維持するための行動が必要である。湿地よりもたらされる生態系サービスの維持に対する投資は、貧困削減戦略文書及び関連する政策や計画に不可欠である。
湿地の賢明な利用、管理、そして再生が、人々の生活改善の機会を構築するよう実施されるべきである。特に湿地に生計を依存している人々、社会から取り残された人々、社会的弱者のために実施されるべきである。特に社会に取り残された弱者の人々の生活に対して、湿地の劣化は悪影響を及ぼし貧困を悪化させる。
湿地と人々の生活の関係について分析し、記録する必要がある。これらの関係について学び、知識を収集し共有するため、様々なレベルにおいて能力育成及びパートナーシップ促進に取り組まなければならない。
湿地の持続可能な管理は、先住民の知識や伝統的な知恵、湿地に関係する文化的独自性(identity)の認識、経済的奨励策で促進される主体的管理(stewardship)、そして生活基盤の多様化により支援されるべきである。
4.人々の健康と湿地
湿地は人々に健康上の効用をもたらし、教育、娯楽、エコツーリズム、精神的・文化的経験、または単に自然の美を堪能するための場として重要である。
湿地生態系と人間の健康の相互関係は国家的・国際的な政策、計画及び戦略において重要な構成要素とされるべきである。
鉱業、その他の採取産業、インフラ整備、水と公衆衛生、エネルギー、農業、運輸等の開発部門は、直接または間接的に湿地に影響を及ぼす。これは人間の健康と福祉をも支える湿地の生態系サービスに悪影響を及ぼす。これらの開発部門の管理者や意思決定者はこのことを認識し、あらゆる手段を使ってこれらの悪影響を回避しなくてはならない。
保健部局と湿地部局は、湿地の生態学的特徴[原注5]と人間の健康との関連部分を共同で管理する必要がある。湿地と水の管理者は、湿地の生態系の健全性と人間の健康の双方に利益をもたらす活動を特定し、実施しなくてはならない。
近年、人間の健康に影響を及ぼす湿地への絶え間ない圧力の多くは、水の問題、例えば水を介する伝染病や媒介生物、そして食料生産や公衆衛生、飲用に適した水の減少等に起因していることがすでに明らかとなっている。
5.土地利用の変化、生物多様性及び湿地
湿地を変化させることの費用対効果に関するより良い知識と理解がより良い政策決定につながる。土地利用の変化の決定に際し、湿地が人々及び生物多様性にもたらす様々な恩恵とその価値に対する十分な知識を統合させるべきである。
政策決定の際に、可能な限り、自然に機能している湿地とそれがもたらす恩恵の保護が優先されるべきである。人工の湿地システムが、水と食料の安全保障の目的に貢献できることを認識する一方で、特に湿地の生態系サービスの維持を優先すべきである。
生物多様性の損失の根本原因に対処し、回復させるためのさらなる行動が求められている。生物多様性の損失速度を顕著に減少させるという「2010年目標」[原注6]の次期目標として採択される目標等、合意に基づく回復目標を参照することにより実施されるべきである。
どのようなタイプの分野横断的仕組みがこれらの全てを実施するために最も役立つか?
1.計画、政策決定、財務及び経済
本宣言に述べられている各事項に対応して政策立案や政策決定を行うにあたっては、しばしば複数の部局の政策目標の間でのトレードオフが必要となる。十分かつ詳細な情報が入手できなくとも、健全な政策決定は、相互に関連した合理的な目標間のバランスを保つことで成り立つ。
迅速かつ実践的な政策決定のためのツール(例えば簡易評価、争点解決、調停、意思決定の樹形図、費用便益分析)の利用は、課題及び政策の選択肢を特定する上で、しばしば極めて重要となってくる。
土地利用計画においては湿地、特に国際的に重要な湿地(ラムサール条約湿地[原注7])の重要性が十分認識されるべきである。そうすることで、それらの湿地が代表する価値が、土地利用及び投資の優先順位の設定と、必要な保護対策の採用に際し適切に考慮される。
費用便益分析は、湿地の経済的価値を最もよく反映するよう十分に包括的であるべきである。また通常、湿地の生態学的特徴の維持に対する投資の方が、失われた湿地の生態系サービスの回復より、はるかに費用対効果の高い戦略である事実をも考慮に入れるべきである。
湿地の保全及び賢明な利用に対する十分で持続可能な資金提供が不可欠である。そのためには、これまでラムサール条約の枠外にいて湿地問題に取り組んだことがないような利害関係者や部門間のパートナーシップ、そして革新的な財政支援策の活用が役立つ可能性がある。特に資源が限定されている場合、湿地の保全と賢明な利用に関する活動は、入手可能な資源を最大限効率的に利用するよう努めなくてはならない。
2.知識と経験の分かち合い
湿地の地球上での広がりや特性に関する基本情報の増強が緊急に必要である。発展しつつある地球観測技術や、その他の情報技術を有効活用できる機会が増えている。
本宣言で対象とされている事項に関するデータ、情報及び知識(先住民による知識及び伝統的知識を含む)について共通の関心を有する機関は、共通で整合性があり、利用しやすい方法を模索するための努力を強化すべきである。適切な情報技術を適用するなどして、知識と経験(例えば優れた実践例)をより効果的に共有することができるよう努める。
行動への呼びかけ
我々一人一人が、本宣言の支持する結果に関係している。
既に世界中の多くのグループが、この宣言が呼びかけているような、湿地の賢明な利用に取り組んでいる。我々皆が真の目に見える進歩を生み出すため、共有されるべき貴重な経験及び知識がある。手を伸ばし、つながり、湿地に手を触れてみよう!
確実に影響をもたらす
本宣言の成功を測る物差しとして、下記が挙げられる:
- 宣言の存在が広く知れ渡り、報告され、翻訳され、記憶されること。
- そのメッセージが、地元及び河川流域レベルの管理過程における、計画策定と意思決定の中に取り上げられること。
- その関連要素が、国レベルの計画、決定及び実行計画に組み込まれること。
- その要素が、関連国際会議における政府代表団に対する概要説明等を通して、国際的な政策綱領、決定及び実行計画に組み込まれること。
注釈:
- [原注1]
- ラムサール条約は、湿地に関する中心的な政府間機関であり、人間の福祉のあらゆる側面への湿地の貢献が、あらゆる部門及び社会階層において認識され、強化されるように努めている。
- [原注2]
-
「湿地」はしばしば認識されている以上に、生態系の広い範囲を包含する。ラムサール条約第1条1項は、「
天然のものであるか人工のものであるか、永続的なものか一時的なものであるかを問わず、更には水が滞っているか流れているか、淡水であるか汽水であるか鹹水であるかを問わず、沼沢地、湿原、泥炭地又は水域をいい、低潮時における水深が六メートルを超えない海域を含む。
」と定義している。 - [原注3]
-
湿地の賢明な利用は、条約の下、「
持続可能な開発の考え方に立って、生態系アプローチの実施を通じ達成される、湿地の生態学的特徴の維持
」として定義されている。(「持続可能な開発の考え方に立って」という言いまわしは、湿地の開発の中には避けることができないものもあり、開発の多くが社会に重要な利益をもたらすものであるとしても、条約の下でこれまで工夫されてきた手法により、開発は持続可能な方法で行うことができるということを認識するためのものであり、「開発」がすべての湿地にとって目標であるとするのは適切ではない。)。 - [原注4]
- 近年、ラムサール条約締約国会議では、テーマに基づいた標題が与えられており、それらは条約の発展のその時々での優先課題を反映したものとなっている。これまでのテーマは、人間と湿地のつながりの異なる側面を強調しており、COP10のテーマである「健康な湿地、健康な人々」は、湿地と人間の健康との間の重要な結びつきに関する新たな理解に関連して本条約を位置づけ、この分野における新たな決議を採択する背景を提供した。。
- [原注5]
-
湿地の生態学的特徴はラムサール条約の主要概念であり、次のように定義づけられている。「
湿地を任意の時点で特徴付ける、生態系の構成要素、過程及び恩恵/サービスの組み合わせ
」(生態系の恩恵とはミレニアム生態系アセスメントにおける「人々が生態系より受ける恩恵」という生態系サービスの定義に沿ったものとなっている。) - [原注6]
- 「2010年生物多様性目標」は、「生物多様性条約」及び「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)」において採択されたもので、「貧困の緩和と、地球上の全生物の利益への貢献として、2010年までに世界、地域及び国レベルにおいて、現在の生物多様性の損失速度を顕著に減少させることを目標とする」ものである。
- [原注7]
- ラムサール条約湿地(国際的に重要な湿地)は、ラムサール条約の締約国政府により承認・指定されている。ラムサール条約湿地は、地球規模では最大の「保護区」ネットワークを構成し、2008年11月現在、1,822ヶ所の湿地が指定されその総面積は1億6800万㏊を占めている。。
- [英語原文:
- ラムサール条約事務局,2008.Ramsar Resolution X.3 "The Changwon Declaration on human well-being and wetlands", Convention on Wetlands (Ramsar, Iran, 1971). [Word] http://www.ramsar.org/doc/res/key_res_x_03_e.doc, [PDF] http://www.ramsar.org/pdf/res/key_res_x_03_e.pdf.]
- [和訳:
-
『ラムサール条約第10回締約国会議の記録』(環境省 2011)[この決議のPDFファイル: http://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/ramsa/ketugi3.pdf ]より了解を得て再録,琵琶湖ラムサール研究会,2012年.]
- [レイアウト:
- 条約事務局ウェブサイト所載の標準的な英語ページにおおむね従う.]
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