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ラムサール条約 第7回締約国会議

会議文書24 侵入種と湿地

日本語訳:琵琶湖ラムサール研究会,2001年.

 英語   フランス語   スペイン語  (以上,条約事務局)    PDF  (256


「人と湿地:命のつながり」
"People and Wetlands: The Vital Link"
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第7回締約国会議
1999年5月1018日 コスタリカ サンホセ

ラムサール条約 第7回締約国会議 文書24
Ramsar COP7 DOC. 24
背景文書

侵入種と湿地

湿地条約(ラムサール,イラン,1971)第7回締約国会議への基調講演の概要

by Geoffrey Howard, Programme Coordinator,
IUCN East Africa Regional Office, Nairobi

1.ラムサール条約のいう湿地の「ワイズユース」,すなわち湿地の持続的な活用は,湿地の生物多様性や生態学的な統合性に及ぼす脅威を管理することを含んでいる.既に知られているように,侵入種が湿地に及ぼす脅威が増大しており,条約の政策的な枠組みの中でこの用意に対応する方法について以下に検討する.

2.侵入種については生物多様性条約とラムサール条約の共同作業計画のなかの協力活動のひとつの分野に識別されていることに注目し,この文書は,第7回締約国会議ならびに1999年6月に続いて開かれる生物多様性条約の科学上及び技術上の助言に関する補助機関の会合を通して,侵入種によってもたらされる問題に対処するための取り組みがうまく調整されることを目ざしている.IUCN侵入種専門家グループならびにIUCN侵入種に関する世界的イニシアティブの協力のもとに本文書が作成された.

緒言

3.種の絶滅や,野生生物ならびに家畜化された生物の個体群へのダメージ,あるいは生態系の有意な改変を引き起こした侵入種には数多くの例がある.侵入種が起こす破壊は,捕食や病気の移入,食物や他の資源の競合,交雑ならびに生息環境の劣化といった要因によってもたらされる.これらの問題は,地球レベルでの貿易の増大や地球レベルでの変化,土地利用形態の変化にともなってより著しくなっているようものと思われる.それは特に湿地環境にあてはまり,熱帯と温帯の両方においてこれまでも多大なダメージを受けてきた.侵入種の湿地への侵入を理解し,認識し,管理する必要があり,その他の点では役立つような種の渡来と状況の変化に備える必要がある.湿地環境は陸系と水系のあいだの移行帯で両方の側からの侵入をゆるす位置にあるために,特に侵入種の影響を受けやすい.

侵入種とは?

4.侵入種とは,その自然分布の範囲外へ,意図的ににあるいは偶発的に移入された生物で,IUCNの移入種に関する指針案では次のように在来のものと外来のものを区別している:

5.これらの定義は他の生態系と同様に湿地環境にも適用でき,植物,動物,微生物にあてはまる.湿地では,陸域から水域(および海域)までの範囲がたいへん広く,また湿地の改変や汚染,富栄養化などの結果としてその環境が変化する可能性が高いため,侵入種をゆるしてしまう機会が多くある.たとえば,農業のために低湿地を干拓すると,ある種の植物をそれまで抑制することができていた地下水の機構が変わってしまう.その結果人為的に生態系が変えられてしまい,役立つ在来種が外来の侵入種に置き換わってしまう.同様に,河川やその氾濫原の洪水機構を改変すると,魚類群集の構造を変えてしまい,外来の移入種が突然優位にたって侵入種になってしまう.

6.汚染物質や栄養の湿地系への負荷は,それまで栄養に飢えていた(生存していただけの)外来種に,その生長を制限することがもはやできなくなるために,侵入種となる機会を与えてしまう.あるいは,汚染物質は在来種の多様性と生息密度を減少させてしまって競合がなくなり,外来種の侵入種化をゆるしてしまう.これらは,外来種が在来種よりも競合力が高かったり,完全には占有されていなかった生態学的ニッチェに外来種が入り込むことで侵入種となるというよく知られた侵入過程に加えられるものである.

湿地およびその他の水に依存する生態系への侵入種の影響

7.湿地システムの中のさまざまなところに侵入種は定着することができるが,淡水・汽水・海水に関らず少なからず水に関係するところに定着することが最も多い.水自体がその定着を可能にし,多くの真に陸性のシステムよりもそのような種の蔓延を促進することがしばしばである.侵入種は湿地の水中や水上に生息し,水を分散や分布の拡大のための媒体に利用している.このような湿地の水から,侵入種は,浸水した土壌や水域と陸域の境界域,また沈水性・抽水性の湿地植物自体へも侵入することができる.湿地の侵入種は生態系や人々の暮らし,生物多様性にさまざまな影響を与えており,次にその主要なものを述べる.

8.水への影響

9.湿地生産物や湿地利用,利用者への影響

10.生物多様性への影響

11.侵入種による湿地におけるこれらの害がおよぼす経済的ならびに社会的影響は強く,そして短期間のものでたいしたことがないと見受けられるようなものでも時間とともに深刻な結果になってしまうことさえある.劇的な侵入の古典的な例がふたつ,東アフリカのビクトリア湖にある.外来の浮葉植物であるホテイアオイ(ミズアオイ科,Eichhornia crassipes)と,意図的に移入された捕食性魚ナイルパーチ(アカメ科,Lates niloticus)である.ホテイアオイは(ビクトリア湖もその一部となっている)ナイル川流域に数十年来分布しているが,問題を起こすようになったのは1990年にビクトリア湖周辺に分布を広げはじめてからである.1998年後半までにホテイアオイは湖面面積の1%を覆うと推定された.ところがこの1%の面積はまた人々が市町村の街地や漁場として利用する場所でもある.ビクトリア湖の気象条件や栄養条件のもとにこの侵入種はよく生長し,いまや,漁業や水運,水の供給,水力発電,人々の湖へのアクセス,人々の健康に数百万ドルもの損害を与えている.また湖の生物多様性へはかりきれないほどの影響を与え,湖岸の湿地生態系を変化させている.

12.ナイルパーチは大型で食用になる捕食性の魚種である.原生している別の支流域のアルバーティン・リフト湖沼群ならびにトゥルカナ湖から1950年代にビクトリア湖へ移入された.これが湖に持ち込まれたのは,漁獲量を高め,湖岸に生活する数百万の人々が大型の魚を得られるようにするためであった.最初の放流後20年間はこの魚を目にすることはほとんどなかったが,最近20年間に急速に増加し,現在では漁獲量とともに湖内の魚類生物量においても優占するようになった.この外来の侵入種はいまや,湖の他の魚種の多くを減少させ,詳しくはわかっていないが,いくつかの魚種の絶滅など湖内と周縁の湿地の生物多様性に変化を与えているかもしれない.またビクトリア湖の漁業の特徴も変化してしまい,地元住民は他の魚種の多くを獲ることができなくなった.ナイルパーチは欧州や北米など遠い国々の市場向けの大型輸出産業のもととなっており,この輸出のために地元住民の生活や食料に深刻な状況をもたらしている.また毎年数十万トンもの魚が輸出されて湖に還元されなくなって,湖内の栄養条件に大きな影響を与えていると考えられる.

湿地に対して侵入的になりうる生物

13.以下に水に依存する生態系において侵入種の役割を果たす可能性のあるものを示す:

藻類とコケ植物

  • Cyanophyta - 藍色植物門;Anabaena(ネンジュモ類の一属),アオコ Microcystis など,
  • Chlorophyta - 緑藻植物門;アオミドロ Spirogyra ならびにその仲間,赤潮を起こすオオヒゲマワリ Volvox の仲間,シャジクモ Chara,フラスコモ Nitella
  • イチョウウキゴケ属 Ricciocarpus などの(浮葉性の)苔類.

維管束植物

  • (浮葉性の)シダ類 - サンショウモ属 Salvinia, アカウキクサ属 Azolla
  • (抽水性の)シダ類の淡水性および汽水性湿地の種の多く,
  • (浮葉性,抽水性,および水際の陸上性の)イネ科草本 - Vossia 属など多数,
  • スゲ類 - カヤツリグサ科のすべてのもの,
  • ガマ科 - ホタルイ類やヨシ類,
  • サトイモ科 - 特にボタンウキクサ属 Pistia
  • ミズアオイ科 - ホテイアオイ属 EichhorniaPontederia 属など,
  • Limnocharitaceae 科 - Hydrocleys 属[ミズヒナゲシの仲間],
  • トチカガミ科 - Elodea 属[コカナダモの仲間],Lagarosiphon 属,Stratiotes 属など,
  • ウキクサ科 - さまざまなウキクサ類,
  • その他の湿地性の顕花植物の(小さな)科のもの,特に単子葉のものと,例えばミソハギ科のエゾミソハギ Lythrum salicaria などの一部の双子葉のもの,
  • マメ科やセリ科,タデ科などの多くの大きな科のもの.

無脊椎動物

  • 軟体動物 - 特に淡水性(および汽水性)の二枚貝類や腹足類[巻貝類],病気の媒介動物も忘れないこと,
  • 甲殻類 - 淡水性のエビ類,カニ類,養殖場から逃げ出したもの,
  • 昆虫 - 特にハエ類,カ類,病気の媒介動物も忘れないこと.

脊椎動物

  • 魚類 - 湖沼,河川,ダムへの意図的な移入 - 外来のものや,その地域には在来するが当該の水域や湿地には原生しない種:
    • 養殖場や水族館などからの偶発的な逃げ出し,
    • 移入による入り込み,
    • ペットや池,水族館からの非偶発的な逃げ出し,
    • 海域の養殖場からの逃げ出し,
  • 両生類 - 有名なカエル Cane Toad など,
  • 爬虫類 - 島嶼性のヘビ類やトカゲ類,
  • 鳥類 - 外来のハッカチョウ類やカラス類など水鳥を追い出すもの,
  • ほ乳類 - ヌートリアや半水生の小型げっ歯類など.

防除手段

14.湿地における侵入種の防除は他の生態系での標準的な手段と同様であるが,多くの場合水が特にかかわってくる.

解決策

15.湿地管理者やプログラム担当者が侵入種を理解しその害に対処するためには,何が必要か?

16.国々および政府機関の役割

17.NGOや市民組織の役割

18.ラムサール条約の役割

勧告

19.ラムサール条約第7回締約国会議決議案,侵入種と外来種に関する文書15.14参照.[決議 VII.14].


[英語原文:ラムサール条約事務局,1999.Ramsar COP7 DOC. 24 "Invasive species and wetlands", May 1999, Convention on Wetlands (Ramsar, 1971). http://ramsar.org/cop7/cop7_doc_24_e.htm.]
[和訳:宮林 泰彦,雁を保護する会,2001年.]
[レイアウト:条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページに従う.]

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Last update: 2006/09/27, Biwa-ko Ramsar Kenkyu-kai (BRK).