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ラムサール条約 第9回締約国会議
決議.1付属書B:条約湿地拡充の戦略的枠組みの改正

日本語訳:
「ラムサール条約第9回締約国会議の記録」(環境省 2008年)より了解を得て再録. 

  PDF  (208,環境省)

条約事務局原文:
 英語   フランス語   スペイン語 

「湿地と水:命を育み,暮らしを支える」
"Wetlands and water: supporting life, sustaining livelihoods"
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第9回締約国会議
ウガンダ共和国カンパラ,2005年11月815日

決議.1付属書B
「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」の改正

.国際的に重要な湿地のリスト(ラムサール条約湿地リスト)に関する展望、目標、短期目標

決議.1付属書Aにおける『生態学的特徴』の最新定義に照らし合わせて、ラムサール条約湿地リストに関する展望(ビジョン)を以下の通りに修正する。

展望(ビジョン)

生態系の構成要素、過程及び恩恵/サービスを維持することにより、地球規模での生物多様性を保全し、人々の生活を維持するために重要である湿地の国際的なネットワークを構築し維持すること

「ラムサール条約湿地リストに関する2005年までの短期目標」(現行の段落21に続く枠内に記載されている)を削除し、代わりにCOP8の決議.26で採択された2010年に関する目標を記載する。

条約湿地リストに、2010年までに少なくとも 2,500ヶ所、延べ2億5千万の湿地が登録されるようにする。

.優先的に条約湿地に指定する湿地を特定するための体系的方法の採用に関するガイドライン

現行の段落45の後に、下記を追加手引きとして加える。

A1.目に見えにくい利益であっても見過ごしてはならない。魚類は、水域生態系の不可欠の部分をなすばかりでなく、世界中の人々にとって極めて重要な食糧および収入源になっている。しかしながら、世界各地にて、持続可能ではない漁獲方法および産卵・生育地域を含めた生息地の消失及び劣化の結果として、漁業生産が低下している。魚類や他の水生動植物に水面下の生物種は、目にすることが比較的容易な動植物と異なり、ラムサール条約湿地の指定をする際に、しばしば見落とされる可能性がある。そのような水中の利益も、注意深くかつ体系的に検討されなければならない。

現行の段落51の後に、下記を追加手引きとして加える。

A2.生態系の構造及び機能と、それらがもたらす恩恵との間の相互作用によって重要である湿地。湿地は、湿地及び湿地が供与する生態系からの恩恵/サービスによって人々の活動が影響を受ける景観の中に、そしてまた、湿地自体が湿地に依存している地域社会による恩恵/サービスの利用(例えば、伝統的な管理形態等)によって影響を受ける景観の中に存在するものである。湿地の生態系構造及び機能の果たし方が、文化的特徴や文化遺産の結果として発展してきたという事例は沢山ある。同様に、湿地の生態系構造及び機能の維持が、人間活動と湿地の生物学的、化学的、物理的な構成要素との相互作用に依存しているという事例も多くある。

『戦略的枠組み』を読み易く活用し易くするために、.節(「個別湿地タイプを特定し指定するためのガイドライン」)を節の後に移動する。また、以下の通り新しくD節を加える。

D.人工湿地を特定し指定するための手引き

D1.条約の第1条1項は、「この条約の適用上、湿地とは、天然のものであるか人工のものであるか、永続的なものであるか一時的なものであるかを問わず、さらには水が滞っているか流れているか、淡水であるか汽水であるか塩水(鹹水)であるかを問わず、沼沢地、泥炭地又は水域をいい、低潮時における水深が6を超えない海域を含む」と規定している。

D2.人間によって作られた湿地であっても、世界の幾つかの地域では、特に人為的に改変された景観において、その湿地が誕生して以来、生物多様性にとっての国際的な重要性を育んできたのであれば重要であり、既存のラムサール条約湿地にも多くの(全てもしくはその一部が)人工湿地がある。

D3.しかしながら、条約の法的な意味合いにおいて、いくつかの人工湿地が、最終的には生物多様性にとっての重要性を育むかもしれないという事実があるからといって、それをただちに、自然の湿地、あるいは自然度が高い湿地を破壊したり、大幅に改変したり、他の種類の土地利用のために転換してしまうことを正当化する論拠としてはならない。

.国際的に重要な湿地を特定するための基準並びにその適用のためのガイドラインと長期目標

基準1の適用に関する手引き

現行の段落 167の後に、下記を追加手引きとして加える。

A3.どの生物地理区の分類方法を適用するかを選択する場合には、国家や(国家の下の)地域的な範囲よりも、大陸的、(大陸の下の)地域的すなわち超国家的な範囲を活用する方が、一般的に最も適切である。

現行の段落 168を、以下の通りに修正する。

168.「実施目標」1、とりわけ1.2に(上記段落10)は、この基準に基づき考慮すべきもうひとつのこととして、主要な河川流域や沿岸域が自然に機能するにあたり、その生態学的特徴が重大な役割を果たしている湿地を優先すべきであることを示している。

基準2の適用に関する手引き

現行の段落 171を、以下の通りに修正する。

171.ラムサール条約湿地は、地球規模で絶滅のおそれがある種及び生態学的な群集の保全において重要な役割を担っている。関わる個体数や湿地の数は少なく、利用できる数量的なデータ及び情報は貧弱なものかも知れないが、基準2あるいは3を活用して、地球規模で絶滅の危険にさらされている群集や種を、その生活史の特定の段階において支える湿地をリストに登録するために、特別な配慮をしなければならない。

CITES(ワシントン条約)の附属書及びへの言及を削除するため、現行の段落 172を以下のように修正する(これらの附属書は、特定の場所における保全策によって効果的な保全がなされうる種というよりは、取引によって絶滅するおそれがある種を掲載しているため)。

172.『戦略的枠組み』の「実施目標」2.2は、絶滅のおそれのある生態学的群集を有している湿地か、絶滅危惧種を保護する国内法や事業、あるいはIUCNのレッドリストやCITESの附属書及びボン条約付属書のような国際的な枠組みのもとで、危急種や絶滅危惧種として認識されている種の生存に極めて重要となっている湿地を、ラムサール条約湿地に登録するよう、締約国に対して強く促している。

現行の段落 174を、以下の通りに修正する。

174.危機にさらされている生態学的群集を有する湿地を特定する際には、以下の特徴をひとつもしくは複数持つ生態学的群集を有する湿地を選定することにより、最大限の保全価値が得られる。それらは次のとおりである。

)地球規模で絶滅のおそれがある群集、あるいは環境変化をもたらす直接的・間接的な要因により危機にさらされている群集で、特にこれらの群集が高い質を有しているか生物地理区において極めて典型的である場合
)生物地理区において希な群集である場合
)移行帯(エコトーン)、連続的な段階、そして特定の過程の例となるような群集を含んでいる場合
)(例えば、気候変動や人為的な干渉により)現在の条件下ではこれ以上生態学的に発達できない場合
)長い発達の歴史があって現時点での状況をよく表しており、よく保持された古環境の資料となっている場合
)他の(おそらくより稀少な)群集や特定の種の生存にとって極めて重要な機能を有している場合
)近年、その分布範囲や出現頻度等が著しく減少している場合

現行の段落 174の後に、下記を追加手引きとして加える。

A5.段落 174()もしくは()の下でどの生物地理区の分類方法を適用するかを選択する場合は、国家や(国家の下の)地域的な範囲よりも、大陸的、(大陸の下の)地域的すなわち超国家的な範囲を活用する方が、一般的に最も適切である。

現行の段落 175の後に、下記を追加手引きとして加える。

A6.多くのカルストや地下の水文学的水系の生物学的な重要性にも留意すること(下記の具体的な手引き参照)。

基準3の適用に関するガイドライン

現行の段落 177の後に、下記を追加手引きとして加える。

A7.多くのカルストや地下の水文学的水系の生物学的な重要性にも留意すること(下記の具体的な手引き参照)。

A8.どの生物地理区の分類方法を適用するかを選択する場合は、国家や(国家の下の)地域的な範囲よりも、大陸的、(大陸の下の)地域的すなわち超国家的な範囲を活用する方が、一般的に最も適切である。

基準5の適用に関するガイドライン

現行の段落 183の後に、下記を追加手引きとして加える。

A9.基準5は、複数の種群の集合のみならず、単一種であっても定期的に 20,000羽以上の水鳥が生息している湿地についても適用されるものとする。

A10.総数が 200万羽以上である水鳥に対しては、20000羽を維持する湿地は基準5の下で重要であるという考え方に立ち、1%基準値として 20000羽が適用される。当該水鳥種にとっての重要性を反映させる為には、基準6に基づきその湿地を登録することも適切である。

現行の段落 184の後に、下記を追加手引きとして加える。

A11.特に渡り期間中について、個体の入れ換わり数は、ある一時点にて数えられる個体数以上の数の水鳥が湿地を利用していることを示すものであって、水鳥個体群を維持する上で湿地が果たす役割の重要性は、しばしば単純な鳥類センサス(個体数調査)情報から想定される以上に、大きなものであることを示している。

A12.しかしながら、入れ換わり数と湿地を利用している水鳥の個体総数や個体群の総計を、正確に推計することは難しい。(例えば、一定数マーキングをして再目撃による推定方法、時系列における増加を総計する方法等)時折活用されている方法が幾つかあるが、統計的に信頼出来る数値もしくは正確な推定値を出すものではない。

A13.入れ換わり数に関し信頼しうる推定値を提示しうるものと考えられ、現時点で利用しうる唯一の方法は、渡り鳥が留まっている湿地での独自の捕獲/マーキングとマーキングされた水鳥の再目撃/再捕獲による方法である。しかしながら、この方法が、渡り鳥の総個体数に関して信頼できうる推定値を出せるようにする為には、通常、多大な能力と資源が必要とされ、渡り鳥が留まっている所が、広大か、もしくはアクセスが不可能な地域(特に一つの個体群で、鳥が広く分散している場所)では、この方法を活用する場合、実際的に克服しがたい困難が伴うものであると認識することが重要である。

A14.湿地で、入れ換わりが生じることが分かっているが、渡り鳥の総個体数に関しての正確な情報を入手することが可能ではない場合、締約国は、管理計画策定において(当該湿地の)重要性が十分認識されるように図る根拠として、基準4の適用を通じ、渡りの中継地としての湿地の重要性を引き続き考慮しなければならない。

基準6の適用に関するガイドライン

現行の段落 188の後に、下記を追加手引きとして加える。

A15.いくつかの湿地では、特に渡りの期間中、もしくは主要な湿地において異なる個体群の渡りのルートが交錯する所では、同一種の生物地理学上の個体群が複数生じるということがありうる。そのような個体群が現場にて識別できない場合には(識別出来ないことが通常であるが)、どの個体群の1%基準を適用すべきかという実務的な問題が生じることになる。このように個体群の混在が生じている場合(そして現場にて識別が不可能な場合)には、湿地を評価するにあたり、より大きい方の1%基準を使用することが望ましい。

A16.しかしながら、特に当該個体群のうちのどちらかが保全の必要性が高い場合は、この手引きは柔軟に適用されるべきであり、締約国は、基準4の適用を通じて、両方の個体群にとっての湿地の全般的重要性を認識することを考慮し、管理計画策定において、(当該湿地の)重要性を十分認識する基礎にしなければならない。この手引きは、個体数としてはより少ないものの保全の必要性が高い個体群にとって、不利になるような形で適用されるべきではない。

A17.この手引きは、個体群が混在(混在は、渡りの期間中に生じることが多いが、他の期間には生じないというものではない)している時にのみ、適用されるべきことに留意すること。それ以外の時期は、そこにある単一個体群に対して正確に1%基準を適用することが、一般的に可能である。

A18.特に渡り期間中について、個体の入れ換わり数は、ある一時点にて数えられる個体数以上の数の水鳥が湿地を利用していることを示すものであって、水鳥個体群を支えるうえで湿地が果たす役割の重要性は、しばしば単純なセンサス(個体数調査)情報から想定される以上に、大きなものであることを示している。入れ換わり数についての推定のさらなる手引きとして、基準5での手引きの段落A12A14を参照すること。

下記の新基準及びガイドラインを追加する。

他の種群に基づく個別基準

基準9
鳥類以外の湿地に依存する動物種または亜種の個体群で、その個体群の1%を定期的に支えている場合には、その湿地は国際的に重要であると考えることとする。

ラムサール条約湿地リストに関する長期目標

A19.鳥類以外のひとつの動物種または亜種の、生物地理学的な個体群の1%以上を定期的に支えているすべての湿地をラムサール条約湿地リストに含めるようにすること。

基準9の適用に関するガイドライン

A20.締約国が、この基準に基づいて指定する湿地の候補地を検討する際には、地球規模で絶滅のおそれのある種や亜種の個体群が生息している一連の湿地を選定することによって、最大の保全効果が達成される。上述の段落[44]:「種の存在に関しての展望」、上述の段落[52]:「補完的な国際的な枠組み」も、参照のこと。データがあれば、累計数を得られるように、渡りの期間中における渡り性動物の個体の入れ換わり数を考慮してもよい(鳥類以外の動物に関連する基準9にも適用されうる水鳥に関連する段落[A11A14]の手引きを参照のこと)。

A21.国際比較をするために、可能であれば締約国は、この基準に基づく条約湿地の候補地の評価基準として、IUCN「生物種情報サービス(SIS)」を通じてIUCNの専門家グループが提供し定期的に更新するとともに、「ラムサール技術報告書」シリーズにおいて公表される、最新の国際的な推定個体数及び1%基準を用いるものとする。

A22.国レベルで個体数について信頼しうる推定値がある場合、この基準は、その国の固有種や固有の個体群についても適用できる。そのような基準を適用する場合は、この基準の適用を正当化する説明資料中に、個体数推定値を公表している出典に関する情報を含むものとする。このような情報はまた、「ラムサール技術報告書」シリーズで公表される、個体数推定値と1%基準値に関する分類上の情報範囲を拡大するのに貢献するものとなる。

A23.この基準は、特に、哺乳類、爬虫類、両生類、魚類及び水生の大型無脊椎動物を含む、鳥類以外の多様な動物個体群と種とに適用されることが期待されている。しかしながら、この基準を適用するには、信頼できる個体数推定値が提供され、それが公表されている(段落A21とA22)種または亜種のみが、基準適用を正当化する資料中に含められるものとする。そのような情報がない場合、締約国は、鳥類以外の重要な動物を有する湿地の指定を、基準4に基づいて考慮しなければならない。この基準の適用をより適切に行うために締約国は、可能であれば、国際的な個体数推定値の今後の更新及び改訂を支援するために、そのようなデータをIUCNの種の保存委員会とその専門家グループに提供することで協力するものとする。


原注1:条約における生態系の恩恵は、「ミレニアム生態系評価(MA)」における生態系サービスと合致するものであり、「人々が生態系から受ける恩恵」として定義される。


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[英語原文:
ラムサール条約事務局,2005.Resolution IX.1 Annex B "Revised Strategic Framework and guidelines for the future development of the List of Wetlands of International Importance", November 2005, Convention on Wetlands (Ramsar, 1971). http://ramsar.org/res/key_res_ix_01_annexb_e.htm.]
[和訳:
表紙「ラムサール条約第9回締約国会議の記録」 「ラムサール条約第9回締約国会議の記録」(環境省 2008)[この付属書のPDFファイル: http://www.env.go.jp/nature/ramsar/09/9.01_B.pdf]より了解を得て再録,琵琶湖ラムサール研究会,2008年.]
[レイアウト:
条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページに従う.]
[フォロー:
国際的に重要な湿地のリスト拡充の戦略的枠組み,第3版(2006年版).]

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URL: http://www.biwa.ne.jp/%7enio/ramsar/cop9/res_ix_01_annexb_j.htm
Last update: 2008/06/25, Biwa-ko Ramsar Kenkyu-kai (BRK).