安藤元一.2000.ラムサール条約登録湿地として見た琵琶湖.

表1. ラムサール条約本文からみた琵琶湖の現状

要求事項 条約本文の関連部分
琵琶湖の現状
ラムサール登録湿地の設立 2条1: 各締約国は,適切な湿地を指定するものとし,国際的に重要な湿地にかかる登録簿に掲げられる. 琵琶湖は1993年に登録湿地となっているが,私有地の混じる西の湖など一部が対象外となっている.
国際的な責任 2条6: 各締約国は,渡りをする水鳥の保護,管理及び適正な利用についての国際的責任を考慮する. 琵琶湖の渡り鳥に関してNGOによるフライウエイ保全活動はあるが,行政の国際的取り組みはない.
賢明な利用に関する計画 3条1: 締約国は,登録簿に掲げられている湿地の保全を促進し,できる限り適正に利用することを促進するため,計画を作成し,実施する. ヨシ条例,富栄養化防止条例,鳥獣保護区,国定公園をはじめ,多くの規制措置がかけられているが,これらが同条約の求める「賢明な利用」であるという認識が不足している.
モニタリング 3条2: 締約国は,登録湿地が人為的干渉の結果,既に変化しており,あるいは変化するおそれがあるときは,これらの変化に関する情報をできるかぎり早期に入手できることのできるような措置をとる. 水質に関するモニタリングは十分だが,生物についての「早期警戒」は個別研究のレベルにとどまっている.地理情報(GIS)的な手法による生態系情報とりまとめと公開も始められている.
4条1: 締約国は,湿地が登録簿に掲げられているかどうかに関わらず,湿地に自然保護区を設けることにより湿地及び水鳥の保全を促進し,かつその監視を十分に行う. 湖面については上記の網がかかっているが,概して陸域生物に関する取り組みが不十分である.
報告 3条2: これらの変化に関する情報は,遅滞なく条約事務局あるいは政府に通報する. 水質に関する連絡体制は,県・国の間でも整っているが,生態系に関する定期・不定期の連絡メカニズムは弱い.
代償措置 4条2: 締約国は,登録湿地を緊急な国家的利益のために廃しまたは縮小する場合には,できる限り湿地資源の喪失を補うべきであり,相当する新たな自然保護区を創設すべきである. 琵琶湖のラムサール登録を廃止縮小するような動きは将来的にも考えがたい.代償措置的な対策は琵琶湖保全にあまり用いられてこなかった.
調査研究 4条3: 締約国は,湿地及びその動植物に関する研究および資料および刊行物の交換を奨励する. 水質及び陸水学的な個別研究は多いが,保全生物学的な応用研究はまだ始まって日が浅い.
水鳥増加措置 4条4: 締約国は,湿地の管理により,適当な湿地における水鳥の数を増加させるよう務める. 啓発活動やヨシ群落造成などの試みを除いて,積極的に水鳥個体数を増やす生息環境改善対策はない.
研修 4条5: 締約国は,湿地の研究,管理および監視について能力を有する者の訓練を促進する. × 行政職員の研修は単発セミナーへの随意参加にとどまっており,達成目標を設定した計画的な研修はない.


安藤元一.2000.ラムサール条約登録湿地として見た琵琶湖.琵琶湖研究所所報 第18号 (2000年12月),特集記事 水鳥の保護と湿地保全(5) [ 116-122頁 ]所載.[on-line] http://www.biwa.ne.jp/~nio/ramsar/sec1g.htm