安藤元一.2000.ラムサール条約登録湿地として見た琵琶湖.

表2.国際的に重要な湿地(ラムサールサイト)としての登録基準から見た琵琶湖

基準グループ 国際的に重要な湿地と見なすための基準*1及び属性の例
琵琶湖の現状
基準グループA: 代表的,希少または固有な湿地タイプを含む湿地 基準 1: 適当な生物地理区内に,自然のまたは自然度が高い湿地タイプの代表的,希少または固有な例を含む湿地がある場合 ×
  例

水文学的な重要性
70-i: 洪水調節,改善,予防に大きな役割を果たす × 洪水調節機能は大きいが,現在は天然の機能ではない
70-ii: 下流にある保全上重要な地域の季節的保水機能 ×
70-iii. 帯水層の涵養 ×
70-iv. 地下水,湧水系の一部分を構成する. ×
70-v. 主要な自然の氾濫原系である ×
70-vi. 地域的な気候安定に水文学的な影響力を持つ(泥炭地の炭素吸収機能,雲霧林等) × 湖辺気候温和化の効果はあるが国際的な重要性ではない
70-vii.高い水質基準の維持に貢献 × かつての内湖は水質維持機能を有していた
基準グループB. 生物多様性の保全のために国際的に重要な湿地 基準 2: 危急種,絶滅危惧種または近絶滅種と特定された種,または絶滅の恐れのある生態学的群集を支えている場合


種および生態学的群集に基づく重要性
74-i. 生活環の様々な段階において,対象となる種の移動性個体群を支える ×
74-ii. 渡りルート沿いに種の個体群を支えている ヒシクイについて該当
74-iii. 悪条件の時に個体群に避難場所を提供する ×
74-iv. 他の登録湿地に隣接し,保全面積が拡大されることで絶滅危惧個体群の生存可能性を高める
74-v. 分散して狭い生息場所に定着する種個体群について,相当な割合を収容する ×
75-i. 生物地理区に特に典型的な当該群集について,それを擁するかなりの面積を含む ×
75-ii. 希少な群集を収容する ×
75-iii. 移行帯,遷移の途中段階など個々の過程の典型例となるものを含む ×
75-iv. 現在の状況下ではもはや発達できない群集を擁している ×
75-v. 長い時間をかけなければ現在の段階に至らない群集を擁している ×
75-vi. 他の(希少度の高い)群集または特定種の生存にとって,機能面で重要な群集を擁している ×
75-vii. 生息範囲または発生数が減少した群集を擁している
基準3: 特定生物地理区における生物多様性維持に重要な動植物種の個体群を支えている場合
78-i. 生物多様性の「ホットスポット」であり,明らかに種が豊富である ×
78-ii. 固有性の中心であるか,またはかなりの数の固有種を擁している 古い湖として固有種に富む
78-iii. 地域内で発生する一連の生物(および生息地)多様性を擁している ×
78-iv. 特殊な環境条件(乾燥地域の一時的湿地等)に適応した種の相当割合を擁している ×
78-v. 生物地理区の希少または特徴的な生物多様性の要素を支えている ×
基準4: 生活環の重要な段階において動植物種を支えている場合,または悪条件の期間中に動植物に避難場所を提供している場合 渡り前にヨシ原に集結するツバメはこの例といえる
基準5: 定期的に2万羽以上の水鳥を支える場合 ガンカモ科水鳥だけで78,000羽が越冬地として渡来
基準6: 水鳥の一種または種の個体群において,個体数の1%を定期的に支えている場合 7種水鳥について該当
基準7: 固有な魚類の亜種,種,または科,生活史の一段階,種間相互作用,湿地の利益もしくは価値を代表する個体群の相当な割合を維持しており,それによって世界の生物多様性に貢献している場合 古い湖として琵琶湖だけの固有魚種を有する
基準8: 魚類の重要な食料源であり,産卵場,稚魚の生育場であり,または湿地内もしくは湿地外の漁業資源が依存する回遊経路となっている場合 ヨシ帯は魚類産卵場として重要だが定量的価値評価は困難

*1. 登録基準はラムサール条約決議 7.11(1999)による;○, 十分に当てはまる;△, そうした要素がある;×, 該当せず.


安藤元一.2000.ラムサール条約登録湿地として見た琵琶湖.琵琶湖研究所所報 第18号 (2000年12月),特集記事 水鳥の保護と湿地保全(5) [ 116-122頁 ]所載.[on-line] http://www.biwa.ne.jp/~nio/ramsar/sec1g.htm