執筆紹介1
経営資本回転率
中小企業診断士 鐘井 輝
●経営資本回転率とは
この指標は資本の運用効率の総合指標である。企業が使っている資本が1年間に売上高との比較で何回転したかをみる数値である。すなわち,一般的には、[売上高÷経営資本]で算出され、企業活動に直接関係のない資本を控除した後の回転率である。この式で健全といわれる標準的な中小企業の平均値は,製造業1.4回,卸売業2.4回,小売業2.3回,建設業1.6回などの平均値となっている。企業の収益性をみる経営資本対営業利益率は経営資本回転率と売上高対利益率の積である。
企業が投下している資本は,バランスシート上の負債と資本が原資であるが、負債は外部から,何らかのコストを負担しながら調達し,資本は内部蓄積と出資金・元入金から成り立っているが,経営にとってこの投下した資本の割に収入が少なくては意味がない。
経営資本回転率を分析するためには,さらに固定資産回転率,棚卸資産回転率,受取勘定回転率などを求めていく必要がある。
資本の運用において適切さを欠くときは,収益性を満足させられないとともに流動性も不満足を招く結果となる。資本運用が必要以上に,過大な棚卸資産に運用されていたり,あるいは設備の回転率が低い状況で固定資産に寝ていたりすると,それはただ寝ているだけではない。金利やその他の費用がかかることを意味する。さらに固定資産の場合であれば、金利のコストだけでなく,減価償却費もかかってくる。棚卸資産であれば,同様に,金利負担のほかに棚卸減耗費や保管費も余分にかかる結果を招く。
●経営資本回転率改善策ー業種別平均値乖離の場合の着眼点ー
業種別経営資本回転率平均値 中小企業の経営指標抜粋
建築関係 |
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卸売関係 |
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製造業関係 |
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小売関係 |
% |
土木工事業
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繊維製品卸
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食料品製造
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生活消耗
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2.4
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建築工事業
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食品卸
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繊維品製造
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繊維関係
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1.7
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塗装工事業
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文具卸
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家具製造
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衣料品総
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1.9
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左官工事業
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化粧品卸
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紙工品製造
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食品関係
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3.0
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電気工事業
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家具製品卸
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印刷工業
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耐久品
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2.1
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造園工事業
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電気製品卸
|
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金属加工
|
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スーパー
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3.7
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〈棚卸資産〉
総花的にどの在庫もいっぺんに合理化するのには,無理があるため社会現象において少数の事象が,結果の大部分を左右し,
大部分の事象は,結果の小部分のみに影響するというABC分析の手法などを採用してみるのもよい。またあまり在庫をもたないジャスト・イン・タイム生産システムなど採用できるものは,応用も含め積極的に研究して採り入れていく。
〈設備投資〉
設備投資には毎年固定費が発生する。したがって,需要のピークに手がけたり,短期的に非常に売上高がよいからといって,
設備投資をやってみても,需要が衰退する局面の投資は採算がのらない。すなわち設備投資の採算性は,長期的にみなければならないのである。償却がおわるまで,または回収までの長期予測に基づいた分析と計画性が求められる。
〈売上債権〉
受取勘定回転率で業種別平均値との比較分析を行ったうえで,
売掛金の回収遅れ,受取手形の手形期間などを調べる。改善のためには,日頃からの取引先の信用調査が必要。内部体制では,販売と回収の機能の統合や回収担当者の報奨制度がある。取引先へは現金割引の付与や支払遅延に対しての金利の付加などで対策を講じる必要がある。
月刊「税理」1998年8月号掲載原稿