執筆紹介10

《地域顧客とのご縁を大切にした新業態酒屋》
 
甲賀群甲南町「マスヤ」サラダ館甲南店
甲賀郡甲南町新治2041
中小企業診断士 鐘井 輝
 
 甲南町は、滋賀県の南東部に位置しています。主要地方道『県道草津伊賀線』が東西に横断し、『甲賀の里』として栄えた地域であることから忍者屋敷をはじめとする数多くの歴史的遺産や文化財が残されています。昨年から『忍者ワールド』をコンセプトにした甲賀流忍術による街づくりがスタートしました。甲南町では本年、全国で初めて甲南町商工会を事務局にして75歳以上の町民全員に、1万円の敬老祝商品券を進呈します。地域小売業の活性化への取り組みが試みられようとしています。人口は約20,000人、工場誘致や宅地開発が行われ、人口の流入が多くみられる甲南町で、地元顧客とのつながりを大切にした商売を行っているのが今回紹介する「マスヤ サラダ館甲南店」です。     
 
サラダ館甲南店
 
         
二代目増田隆男社長の決断
「当店の創業は昭和12年です。第二次大戦後の混乱期を経て、昭和25年から本格的に酒屋として営業を始めました。」もともと地元には20軒以上の酒屋が営業しており、お互いが切磋琢磨して商売に励んでいました。しかし、規制緩和やバブル崩壊後の酒ディスカウンターの出現で、経営環境が一変したのでした。「今後の商売を考える時、今何らかの手を打たなければ生き残れないと大いに悩みました。」と当時を振り返えり、「コンビニエンス・ストアからも何度もお話がありましたが、以前からギフトに力を入れていた経緯もあり、シャディ(株)のフランチャイズチェーン、サラダ館に加盟して新店舗を県道甲南停車場線沿いに平成5年7月に開店させました。」と、決断したことを述べられています。同年にこのサラダ館が通産省中小企業庁の「中小小売業強化対策委員会」で「ボランタリーチェーン強化対策補助事業」のモデルとして取り上げられたことも決断の理由でした。宅配型酒屋で今まで培ってきた地元顧客との人間的なつながりを大切にして、家庭密着の営業活動を引き続いて実施すると同時に、新しい業態へのチャレンジを行ったのでした。“お客様のために、お客様といつも一緒に”をモットーに、お客様の満足できる価格プラス人間関係で地域の支持を受けているのです。酒屋のときは、約1,000名であった固定客も現在では4,400名に増加しており、総勢10人の従業員が日々の目標を持ち、従事しています。「これからの酒屋の進むべき方向の1つが見えたのではないか。」と増田社長は述べています。
 
地域に根ざした継続的営業活動の重要性
「従来ギフト業は一本づりと言って、何か顧客にギフト機会が発生したときだけに、営業活動が行われていたのです。」当店では、4,400世帯の固定客に対して、一軒毎に手配りでカタログやチラシを配布してます。このスタイルでの営業活動は年間で合計5回有り、各家庭を訪問するときには同時に情報を集めて、顧客とのコミュニケーションを深めています。店で顧客の来店をただ待つのではなく、外へ出て顧客と接触する機会を多く作り、いわば草の根を分けるが如くの営業活動を中心に行っています。
 
甲賀店の新規出店と今後の課題
 現在の売上高構成比は、ギフト60%、酒類30%、その他食料品が10%です。酒類の売上高はダウンしていますが、ギフト商品の売上高をそれ以上に伸ばすことができて、年間の売上高は合計で約3億3,000万円にまで増加してきました。昨年の10月には3号店を甲賀町に新規開店させました。
 
サラダ館甲賀店
 
「甲賀店を出店したことで商売の見方が変わってきました。昔、四日市の岡田屋呉服店の先代が『蔵に車をつけよ』と言ったそうですが、商売環境の変化にいかに対応していくか、ということの大切さを痛感しています。」規制緩和による酒免許取得の容易化や自店立地の変化に対して、ただ受け身の姿勢をとるだけではなく、時として積極的な対応にでることの必要性が感じられます。今後、水口地域での大型店の出店が相次いで計画されています。地域の人間的つながりに基づいた、大型店にはまねのできないきめ細かなサービスと廉価を実施し続けることで、水口への買い物客の流出を防ぐことは可能です。“お客様のために”を合い言葉にしたお客様第一の商売方法はさらなる多店化を実現するといえるでしょう。
 
滋賀県中小企業情報センター「月刊 企業の窓」1998年9月号執筆原稿