執筆紹介7

小売業の効果的な企業間提携の進め方
 
 
中小企業診断士・販売促進学会副会長 鐘井 輝
 
 
市場開拓のためのマーケティング発想の必要性
 
 商店街などにおいては既に、生鮮食料品店間や気心のあった店同士の連携した販売促進活動はよく行われている。しかしそれ以上の企業連携を志向している例は少ない。大型店の相次ぐ出店によりますます狭められていく商圏は完成した成熟市場であり、中小小売店が販売力を確保しようにも、浸透しにくい状況である。多くの中小企業が、現在おかれている立場で同一の企業活動を行っても、その販売力の拡大や市場開拓には限界があるといえる。
 
 そこで、異業種間同士が地域消費者のニーズやウオンツに応え、フィットする商品やサービスを創造し、強力にこれをアピールすればある程度の顧客の支持を得られることは、間違いない。連携した集団により、独自の商品やサービスを開拓して行動をおこしていくのである。
 
 
異業種間提携により、相乗効果を出す
 
 同業者間で提携によって市場拡大がスムースに行える場合も例としては存在するが、その場合は遠隔の店舗同士で実質的な競合関係にない場合か、同一チェーン系列で商圏が安定的に確保されている場合である。したがって同業種間や類似業者間の提携活動であるよりも、異業種間の提携活動のほうが成功の確率は高い。なぜなら、市場開拓時に利害関係が発生したり、これによって提携チームに亀裂が生じたり、不満が残る場合が多いからである。したがって、できれば相互に違った市場や顧客を持っている店が、ギブアンドテイクの精神のもと提携活動によって相互の市場や顧客を提供しあい、市場拡大していくことが望まれる。このことにより、双方にメリットが生まれ、1プラス1が3にも4にも5にもなるという相乗効果が期待できる。
 
 たとえば、地域に発生するパーティのニーズを確保しようとする場合に、これまでは施設の完備した他の地域へ流出していたものを、地元の一般飲食店、酒小売業、茶小売業、美容業、菓子製造小売業、写真業、寝具小売業、果物小売業が手分けして役割を果たし、需要に応えていくことが可能になる。事務局機能の強化やPR活動、営業活動についての課題はあるが予想以上の販売力向上への効果を上げている例がある。
 
 また商店街内の茶補と和菓子店と陶器店がドッキングしているところでは、オリジナルのギフトセットの開発が可能となり、一定の集団の名称でブランド設定を行うことができ、アピールすると利用者から側からの信頼感も高まり、市場においてのさらなる信用や販売効果が高まることになる。
 
 
ファーストステップとしての異業種間共同販促
 
 手っ取り早いのが異業種間の共同販促活動である。これによりお互いに販売効果を相互補完してメリットを享受することが可能になる。
 
 カレンダー催事を例にとってみると、5月5日は端午の節句であるが、様々の小売店が公衆浴場と提携して菖蒲湯の入浴券を進呈するこがある。母の日・父の日といった恒例のプレゼントイベントにおいても種々の小売店が提携レストラン・寿司店などの食事券やコーヒー券を出すことができる。また秋の読書週間では、家具店・文具店・電気店・書店がタイアップして図書券進呈などの共同売り出しを行うことで効果を上げることができる。パーソナルなギフト需要を例にとると誕生日や結婚記念日に種々の小売店が花店やレストランと提携して、花束や食事券を出すことがある。パーソナルなギフト需要への異業種間共同販促には、日常からの顧客の個人データの収集が決めてとなるが、誕生日や結婚記念日以外にも入学・卒業・婚礼・還暦・成人などタイムリーな対応は効果が大きい。
 
 一般の物販店間の提携で、食肉店が電気店と組んで共同販促をやるケースでは、共同チラシや双方の店でのスタンドPOPなどを活用して強烈に顧客に訴求する。例えば、精肉店のチラシPOPで「急告!○○電気店で売っているホットプレート(20%引き)で焼くとこんなによく焼けます。タイアップサービス実施中!」といった具合である。電気店サイドのチラシPOPでも同様に「このホットプレートをお買い上げいただきますと○○精肉店のサーロインステーキ・ヒレステーキ3割引で購入でき、しかもステーキソースをサービスいたします。タイアップサービス実施中!」と双方のメリットを強烈に印象づけるのである。共通の販売促進活動にとどまることなく、割引サービス券・スタンプ・金券サービス発行を行い効果を上げている。さらにPOPのデザインや季節ごとの装飾活動も統一化して行われるほうがベターである。
 
 異業種間の共同販促活動を起点に集団やグループで新たな商品やサービス方法を創造させていくことが必要であるが、景気の先行きが不透明な時代には、これらの創造の方向性や目標を決めにくいことも事実である。こんなときには、大きな観点に立ち、取り組むほうが、かえってよい結果を生む。すなわち、地球環境問題(温暖化・リサイクル・省エネ ・過剰包装)高齢化問題(介護福祉・コミュニケーション・高齢者への配慮)情報化の進展(インターネットの普及・コストダウン)などを念頭に置いて創造の意欲をもつことも大切である。
ダイヤモンド「月刊中小企業」1998年8月号執筆原稿