「山の中でひとり」  第33話
cd3120eea4-1220786143.png  デイパックに土の付いた山芋を入れる。
 燻した鹿の肉を腹巻きの代わりに使っていた新聞紙でくるむ。
 山葵の葉を入れるのは、防腐剤として少しの期待から…。
 これからしばらくお世話になるだろう下痢止めの消し炭。
 沢の岩で何度も研ぎ直したせいですり減ったムラマサ。まだ新しい長門。結局名前を付けなかった石包丁、ウサギと鹿の腸で作ったロープを入れる。
 酷使したせいでゴムが伸びきってもうはけなくなった濡れたパンツ。折りたたんでポケットに入れる。

 シェルターをつぶして、たき火を完全に消す。大雑把にすました。ガールスカウトの時のように完全に消毒する必要性はない。
 ズボンの裾をなめしたツタで縛ってゲートルの代わりにする。
 フードを被る。
 食べるもの、道具、着るもの…。
 色々足りないけど、デイパックに入りきる重み。
 今はこれが精一杯。
 少し歩いて、シェルターの合ったところを振り返る。
 もう帰ってくることはない。手を振ってお別れをする。
 さぁ、歩きだそう。ゆっくりと、確実に。
 名残惜しさからもう一度振り返ろうとして、思いとどまる。
 前に進もう。
 ここが何処か分からない以上、この先は果てしなく長い。ここで立ち止まるわけにはいかない。
 ようやく私は歩き始めたばかりなのだから…

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