「山桜さんとソメイヨシノさん」  第21話
63c9bdbe55-1246091573.png  その年夏は涼しくて、冬は暖かかった。
 あれほど沢山の雪が降った山にもあまり雪は降らず、暖かいアスファルトの上には雪が積もることはなく、土の上にうっすらと雪が残るだけだった。

 四方八方に必死で根を伸ばしてきたソメイヨシノさんがめくり上げたアスファルト。  薄く積もった雪から顔を出す地上根。
 それはソメイヨシノさんが必死に生きようとした足跡。

 でもそれは同時に今いる場所から逃げようと必死にあがいているようにも見えた。
 無駄なあがきだと娘さんは目をそらし、山桜さんは泣いた。

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