Precious
Time.
暗闇に薄く照らされる景色が視界の端を突き抜けて
ステアを切る度上がるスキール音が視界の枠内にある物全部を消してゆく。
また一つ。また一つ。
目の前の車体が見えていたのは幾つめのコーナーまでだっただろうか。
残ったのは巨大な闇の塊。
全てが消えても尚その先へ辿り着く為にアクセルを踏む。
息が詰まっているのに気が付かない程一瞬で。
研澄まされた神経が、ゴールを見付けてもその先へその先へと呼び掛ける。
最後のその瞬間まで
アクセルペダルから足が離れる事は無かった。
決して外に出る事は無い感覚。
車の中でステアを握っている時にだけ起こる症状。
熱くなった身体が外気に触れて肌寒く感じるくらいに
バトル中の異常な程の集中を表していた。
そのまま頂上へと登りやっとハチロクから身体を離す。
戻って来た世界。
先刻とのギャップに脳がなかなか着いて来ない。
「おい」
しばしの間惚けていると、
がやがやと周囲の喧騒の中から一つ、自分に向けた呼び声が透る。
風に冷やされた首元を彼の腕が締め上げ
尖っていた感覚が吹き飛ばされた。
「余裕そうな顔で帰ってきやがってコノヤロー!むかつくぜ」
言葉よりも首元の暖かさにハッとする。
むかつくと言っている表情は満ちみちていて、自分の勝利を讃えてくれているのだと気が着くまでそう時間は要さなかった。
「加減ってもんを知らねーよな。ほんとに…」
「あ?」
「何でもないっすよ」
いつの日にか心に秘めた迷いや憧れ
解き放てる時まで走り続けたい。
できればこの人と共に。