閃光

ガラスの向こうに小さなケースが見える。
そのケースの中では小さな命がそれぞれの活動をしていて。
泣いたり、眠ったり。ちいさくかよわい手足を動かしていたり。

ガラスにぺったりと張り付いたまま涼介はそれをじっと眺めていた。
「涼介〜!こっちよ。いまはそっちじゃないんですって。」
少し離れた廊下の角で母が呼んでいる。
「はあい・・・」
なごりおしげにガラスから離れると、小走りに母の元へと急ぐ。
ふと見上げると母に抱かれている啓介はくうくうと眠っていた。
「啓介ねちゃったの?」
「うん。寝ちゃった。でも寝ちゃうと泣かないから助かるかな? 啓介不思議と病院嫌がるからね。別に痛いことも何もしないのにね?」
母が苦笑しながら啓介を抱きなおす。
「せーっかく二人の妹みたいな子を見に来たのにね?」
あ、ここだわ。そういって母は廊下を歩く足を止め、コンコン!とノックをしてゆっくりとドアを開ける。
「失礼します・・・」
小さな声でそういって室内に入り、涼介も招き入れる。
「赤ちゃん寝てるから小さな声でね?」
耳元でこっそりとささやかれ、それに対して無言でこくこくと頷く。
そして室内を見回し、右手一番奥へと足をむける。
「こんにちわ〜。ご苦労様〜!」
そういいながらカーテンをめくった母の後ろから覗くと・・ベッドの上には涼介もよく可愛がって貰っている叔母が座っていた。
「あ!いらっしゃい〜。いまね、丁度寝たところなの。ほら、涼ちゃんいらっしゃい?あらら、啓ちゃんは寝ちゃったのね」
叔母がぽんぽんと、自分のベッドサイドをたたいて、ここ。と示す。
その横にはさっき覗いていたガラスの向こうに並んでいたのと同じ透明の小さなケースがおかれていて。
そうろりとのぞき込むと・・小さな赤ちゃんがすやすやと眠っていた。
「ちっさい・・・」
ベッドサイドへとまわりこみ、ケースの中をのぞき込んでそこで眠っている自分よりも小さい啓介よりもさらに小さい赤ちゃんをじっと見つめる。
「そうなの。ちょっとみんなよりも小さかったんだけど・・別にどこも大丈夫だって。」
「女の子なのよね? もう・・名前は決めたの?」
寝てしまった啓介を椅子の上に寝かせた母が涼介の上からケースをのぞき込む。
「決めたわよ。『緒美』っていうの。一緒の緒に、美しいでつぐみ」
「緒美かあ・・うわあ・・・ほんと・・小さいわね〜。でも・・3年経ったらあれで・・5年でこれよ?」
涼介の頭の上で叔母と母が会話する。
「ふふ・・そうね。早く大きくなって欲しいわ。涼ちゃんも緒美の面倒みてやってね?」
ふいに自分に振られた質問にこくこくと大きく首を縦に振って答える。
「ちっさい・・かわいいね〜〜〜〜・・」
そう言いながらも目線は緒美から離れない。いや、離せなかった。
母と叔母がひとしきり話に花をさかせている間涼介は身動きもせず、ただひたすら・・・緒美を見つめていた。
まだ、生まれて間もなくで・・一般的に言うぷにぷにとした『赤ちゃん』からは遠くかけ離れた、手足も細くて、お世辞にも可愛いとは言い切れないその小さな『緒美』という存在。
けれど、その存在は確かに涼介の中に刻み込まれていた。
啓介と同じく・・・『自分で守るべき者』として。
それを当時の涼介が自覚していたかどうかは判らないが。

「あ・写真とってもいいかな?」
母がバッグの中から小さなカメラを取り出す。
「いいわよ〜。私もさんざんとったから」
苦笑しながら叔母が自分の横に置いてあるカメラを指さす。
「ほら、涼介・・こっちみて?」
ふいとそちらをみた瞬間にパシャリとシャッターが切られる。
「おかあさん、つぐみまぶしくない?」
カメラのフラッシュが眩しかったのか、不安顔で涼介は尋ねる。
「大丈夫よ。ほら、ちゃんと眠ってるでしょ?」
それでもやはり気にはなったのか。病室のカーテンを少し開けて室内を明るくすると今度はフラッシュなしで数枚緒美の写真をとる。
「可愛く写っているといいんだけどね。写真の腕良くないからね・・」
母は笑いながらカメラをバッグに戻し、帰り支度をはじめる。
「あんまり長居して啓介が起きたらまたうるさくなっちゃうから、今日は帰るわ。また見に来るわね」
そして、啓介を抱き上げると、涼介を促す。
「ほら、涼介。帰るわよ? 緒美ちゃんにバイバイ〜って。」
「涼介、来てくれてありがとうね。またうちにも遊びに来てね?」
にっこりと叔母が微笑んで頭をなぜてくれる。
「うん。また来る。緒美・・ありがとう」
そういって最後にまた緒美の顔を見つめる。
「それじゃ。お邪魔しました」
涼介の手を引き、病室を後にする。

「おかあさん・・・緒美・・きらきらしてたね」
車に乗って家に向かう途中で不意に涼介が言い出した。
「あのね、啓介もね、きらきらしてるんだけど・・緒美の方がもっときらきらしてるの」
「ええ?なに?きらきらって?」
助手席で足をブラブラさせながら少しふくれてみせる。
「おかあさんにはみえなかったの? 緒美のまわりがきらきらしてたの」
「ええ? ケースに反射してキラキラしてたんじゃないの? ほら、今日お天気よかったし、途中でカーテン少し開けたしね?」
母は笑ってまともにとりあってくれない。
その母にいってもしょうがないのかな・・と思った涼介はシートに完全に身を任せ、じっと前をみつめる。
確かに・・・涼介には見えていたのだ。啓介と同じように緒美の周りを光がふんわりと取り巻いていたのを。
そして、緒美にあう前にみていたガラスの向こうの見知らぬベビー達も啓介におよびもしないが、光をまとっていたのを見ていた。
「・・・すっごくキレイだったんだよ?」
ぼそり・・とつぶやくように口にする。
「え?何? なにかいった?」
運転の方に気を向けていた母はその言葉がききとれない。
「なんでもない!!」
そういって涼介はそっぽをむき、寝たフリをして見せる。
・・いいんだ・・アレは絶対見間違いなんかじゃない。キラキラしてたのはホントなんだ。おかあさんには見えないんだ!!
啓介も緒美もキラキラなんだから!

そして数年後。
本か何かで人間からオーラが出ているという事を知った涼介は全てを理解した。
あれはあのキラキラしたモノは・・人間の生命エネルギーか・・・
しかし・・何故啓介と緒美だけがあれほど・・輝いていたんだろうか。
その疑問も・・そこから更に数年後。涼介が医学の道を選ぼうと決めたとき解明した。
『高橋』の血縁者にのみ・・・非常に強くそれがみられたのだ。
緒美も啓介も・・涼介にとってはかけがえのない存在で。初めてみたときからその輝きは変わらずその持ち主の周りにあった。

「ふん・・・コレはある意味・・便利かもな・・・」
生命エネルギーの輝きをドコまでみることが出来るのか、ある程度把握した涼介がひっそりと微笑んでいたのは誰も知ることがなかった。

閃光end

えと・・一応出会い編ということで(苦笑)
なんかね。あたしの中の『涼介』は、世間様のアニキとはかけ離れてますんで・・。
ひとまず・・ちょっとまともな方をお見せしました。<殴

なんか・・字殴りのやり方・・忘れてるみたいです。突っ込むところいっぱいあると思うですが・・すみません・・・見逃してください。(T-T)

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