キャンディブーケ

ソファに座る緒美の横を陣取ると、手に持っていた紙袋を手渡した。
「緒美、これ」
かさは高いが、重さはそれほどでもない。
両手でうけとり、ヒザの上に置いた緒美は不思議そうな顔をして「なあに?」ときいてくる。
「ん? バレンタインのささやかなお返し」
「ありがとう! 開けても良い?」
嬉しそうな顔してそう尋ね、「ああ、いいよ」との返事を聞くと、早速袋の口を開けている。
口を閉じていたピンクのリボンが華奢な指先でほどかれ、テーブルの上に置かれる。
そして袋の口をのぞき込むと、そのまま片手を突っ込んで中身をそろりと取り出した。
「うわ! これ何? かわいい!」
取り出されたのは小さな花束。
だがちょっと感じが違う。
花束状ではあるが、花ではない。
本来花であるべき物はそこにはなく、先にカラフルなセロファンが花弁の如く重なり合い、花束状になっていた。
緒美は手に握ったそれを遠くにしてみたり近くにしてみたりいろいろな角度で見てたのしんでいる。
「中身はキャンディだよ」
その姿をまた楽しそうに見つめ、くっくっと笑いながら教える。
「え! そうなの? これ食べられるの?」
「もちろん。食べてみるか?」
「うん!」
貸してみな?と手をのばしてそれを受け取り、束ねられた中から1本引き抜く。
「ほら。棒の先にキャンディが付いてるんだ。それをこんな風にセロファンで包んでブーケにしてあるんだよ」
ぺりっと音をさせて巻かれていたセロファンを剥がすと、その下から現れたのは小さな半円状の表面がざらりとしたキャンディだった。
「ほら」
緒美の目の前に持っていく。
「食べるんだろう?」
「うん」
うなずいた緒美は手を出すかと思ったらそのまま涼介の方を向くとちいさく口を開けた。
「あーん」
え?と一瞬涼介の動きが止まる。
これはどうするんだ?
即座の反応が無かった涼介に緒美はしょうがないなーという顔を浮かべる。
「涼兄ぃ。食べさせてくれるんでしょ?だから、あーん」
そういうと再び口を開けてくる。
あ・・ああ、そういうことか。
手に持ったキャンディをそろりと緒美の口元に持っていく。
ちょん。とそれが緒美の唇に触れる。
その刺激に反応するかのようにキャンディは緒美の口に含まれる。
それをみて握っていた棒の先を離すと、緒美はそれを口の中で右左へと動かす。その動きは棒の先が躍ることではっきり判る。
「えへ。甘いね」
棒の先を持って口の中から飴を出した緒美が笑う。
「そりゃそうだ。甘くなかったら飴じゃないだろ?」
その顔につられて涼介も笑ってしまう。
「なんかこういうの食べるのすっごく久し振りな感じがするー」
再び口に含み、もごもごしたりして緒美は飴を食べる。
「そうだな。小さい頃よく食べてたな。そしていつまでもその棒を離さなかったよな。」
小さい頃の緒美を思いだして涼介は笑う。
「あ! 何笑ってるのよー! アタシそんなことしてた?」
やだなー!と半分笑いながらとん!と肩を押してくる。
「緒美のことは全部覚えてるよ。初めてみた日からずっと」
不意に真顔になった涼介がじっと緒美を見つめて言う。
「やだ!涼兄ぃ! そんな昔のこと覚えてないでよ!恥ずかしいじゃないの!」
ぷぅっとほっぺを膨らます。
ぷにっとそれをつつきながら涼介は続けた。
「忘れない。そしてこれからも、これからの緒美も覚えていたいんだけど。どうかな?」
「え?」
「俺はこれからもずっと緒美と一緒にいたいんだけど?」
その言葉に緒美はくすぐったそうに首をすくめる。
「変なことは忘れる事!そうじゃないとダメ!」
ぴっと指を立てて念押しの仕草。
「出来る限りは」
降参と、両手を上げて譲歩。
「絶対だよ? それならいいよ」
ふくれた顔がはにかんだ笑顔に変わる。
「緒美…口から棒でてるぞ?」
「涼兄ぃのバカぁ!!!」
とびきり勢いの良い平手が涼介を襲ったのは言うまでもない。

Happy lovers!

一応、『アイの行方』の対になるかなー? 
チョコのお返しはキャンディで。でも・・前回の方が恥ずかしいのは何でだ。
キャンディブーケご存じですかね?アタシも記憶の中にちょろっとあるだけなので、正式名称しらないんですが(汗)
ちょっと探してみたんですけどね。デパ地下では見つからなかったです。


案内に戻る  戻る