繋いだ手

あ・・・!と思ったときにはもう遅かった。
緒美は涼介の手を振りきり、涼介の視界からその姿を消してしまっていた。
あわてて周りを見回して、棚の間を通り抜け、少し大きな通路に出て見回してみても、小さな緒美の姿は、人や、棚が邪魔で見つけられない。

緒美の母親が言った言葉が脳裏をよぎる。
『涼ちゃん、お店の中では、緒美と手をしっかりつないでてね。緒美すぐどっかにいっちゃうから』
そう。緒美の手を離さないと約束したのだ。
そして、彼女はその後なんといっていたか・・
『もしね、緒美がどっかにいっちゃったら、お店の人に呼んでもらってね』
っていってたな。・・・でも。もうちょっとしたら見つかるかもしれない。
涼介はそのまま、緒美を見失ってしまった場所の周りをもう一度見て回った。
周りには、緒美が好きそうな小さなぬいぐるみや、かわいらしい人形、ファンシーグッズが所狭しと並べられている。
多分、このあたりにいるんだろう・・と見当はつけてみたものの、やはり緒美の姿は見あたらない。
いったいドコへいってしまったのか・・。

仕方なく、店員がいるカウンターへと足を向ける。
「すみません・・迷子なんですけど・・」
カウンターの中でお姉さんがにっこりとほほえみかけてくれた。
「はい。お名前を教えてくれる?」
「あ、たかは・・・」
そのとき、ピンポンパンポーンと、注意を促すチャイムが鳴り、店内放送が流される。
『お客様のお呼び出しをいたします。たかはしりょうすけくん。たかはしりょうすけくん。いらっしゃいましたら、お近くのレジ、またはカウンターまでお越しくださいませ』
「・・・し・・って。・・・え・・?」
名前を告げようとしていたところに、アナウンスで自分の名を呼ばれ、涼介は一瞬停まった。
・・・なんで俺の名前が・・?
「どうかした?」
ほほえみながら、お姉さんは訪ねてくる。
「あ、いま、呼ばれたの・・僕みたいなんですけど・・・」
戸惑いながら、答えると、お姉さんは「ちょっとまってね」といい、側の電話を取り、何かを話し始めた。そして、受話器を置くと、にっこりほほえんで、
「丁度よかったわね。一緒に来ていたつぐみちゃんがココをまっすぐいって、左に曲がったところのレジのところでまっているそうなの」
そういって、場所を教えてくれた。
・・・緒美・・・
俺は自分の体から力が抜けるのを感じた。
「あ、どうもありがとうございます」
ぺこりと頭を下げ、教えてもらったレジへと向かう。
角を曲がるとレジの前で店員を相手にぴょこぴょこと跳ねている女の子の姿が見える。
緒美だ!
その姿を確認するやいなや、足は自然と速くなる。
レジまでたどり着くと、店員に声をかける。
「どうもすみません!!高橋涼介です!」
その声に緒美がくるりと振り向く。
「涼兄ぃ!!勝手にどっかいっちゃだめってお母さんゆってたのに!!」
ぷぅっとそのほっぺがふくれる。
 ・・・緒美・・その言葉はおまえのお母さんが緒美にゆった言葉だぞ?
 それに、勝手にどっかいったのは緒美・・お前の方だ・・
それでも、不安だったのか、俺の腕にぎゅっとしがみついてきた。
「これで、もうどっかいけないからね!!」
 そうだな、緒美が離さなきゃ、ドコもいかないだろう。
開いている方の手で緒美の頭をなでてやりながら、俺は店員に向かって改めてお礼を言った。
「どうもお手数をおかけしました。有り難うございました!」
「いいえ、ちゃんと手をつないでいてあげてね?」
店員はほほえみながら、ばいばい、と緒美に小さく手を振ってくれた。
「うん。緒美がちゃんと捕まえてるから大丈夫だよ!」
緒美がその店員に向かって、ばいばい!と大きく腕を振りながら答える。
「どうも有り難うございました」もう一度ぺこりとお辞儀をして、そのレジを後にする。

「緒美・・心配したんだからな。勝手にどっかいっちゃだめだろ?」
ぎゅっと手を握りしめ、少しだけ怒った声で緒美に言い聞かせる。
「・・・緒美じゃないもん。涼兄ぃがどっかいっちゃったんでしょ?」
ほっぺたはぷぅとふくれたままで。
それでも、ぎゅうっと強く握りしめてくる小さな手がホントは怖かったんだから!と緒美の本心を物語っている。
ホントは自分が悪いというのもちゃんと解ってる。でも小さな意地を張ってしまって、謝りたくても謝れない緒美。
涼介は小さくため息を付いた。
「そっか。じゃ、また俺がどっかいっちゃわないように、緒美がしっかり握っててくれよ?」
そういって、目の前に繋いだ手を挙げて見せた。
緒美はその手と俺の顔を交互に見て、とたんにふくれっ面から笑顔へと表情を変えた。
「しょーがないねー!涼兄ぃ!緒美がしっかり握っててあげる!」

その日、俺達はその繋いだ手を帰るまで離すことはなかった。



ツグ涼、初デート!(笑)緒美が5歳とか6歳とか・・それぐらいがいいなぁ。
いや、デートちゅうもんじゃないですが。デパートに行って両親が買い物してる間の緒美と涼介ってことで。<こんなところで説明するなっての。
小さな頃の想い出話。やんちゃくれな緒美もかわいいよな〜って。
涼兄ぃふりまわされまくり(笑)・・・書いてて楽しかった〜〜(笑)



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