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YEAR LOVERS この間約束した日がやってくる。 もうすぐ。 1週間がこんなに長いって思ったのは初めてだった。 きっかけは家庭教師のお勉強中のただのおしゃべりだったけど。 涼兄ぃの入れてくれたミルクティーを飲みながら。 涼兄ぃと初詣にいきたいなぁって。 ほんとに独り言みたいにこぼした言葉を涼兄ぃは聞いててくれた。 『じゃぁ、今年の年越しは緒美と一緒に二年参りに行こう』 そういって、涼兄ぃは優しく微笑んでいた。 その日から毎日、カレンダーを見つめてた。 後何日。後何日って。 1日1日が過ぎていくのが楽しみだった。 そして。ようやくやってきた年の瀬。 家中の掃除も、おせちの準備も手伝って。 夜になる前に準備は全部終わっていた。 「緒美、お疲れさま。涼介君と出かけるんでしょ。準備しておきなさい」 普段は夜中になんて絶対に外に出してくれないのに、相手が涼兄ぃだってことで、お母さんは快く行ってらっしゃいをいってくれた。 いつものカッコよりも少しおしゃれして。 一番最初に涼兄ぃに見せるんだって買ったニットを着た。 うん。かわいいぞ。緒美。 鏡を覗いて、にっこり笑って自分に呪文をかける。 だって。好きな人の前では可愛い自分でいたいもんね。 約束の時間よりほんの少し早くに玄関のチャイムが鳴った。 「こんばんは。涼介です。迎えに来ました」 ドアホンの向こうから声が聞こえた。 「すぐにでるから」 カバンを掴んで、コートを羽織って。マフラーもした。手袋はポケットにいれておこう。 玄関を開けて、涼兄ぃを招き入れて、その場でブーツを履く。 「緒美、慌てなくていいからな」 ・・・うぅ。ばれてるよぅ。 ブーツを履き終え、ぴょこんとたちあがって涼兄ぃの隣に並んだ。 「じゃぁ、お母さん、行って来ますー」 「行って来ます。ちゃんと送り届けますので」 母は玄関先で見送ってくれている。 いってきまぁすって小さく手をふって家を出た。 「わ! 寒いーー」 暖かい家の中から外にでた瞬間、寒さに身を震わせる。 「ちゃんと暖かくしてきたんだろ? もうちょっとガマンだな」 そういいながら、涼兄ぃは緒美の手にカイロを握らせてくれた。 「あったかいー。でも涼兄ぃのは?」 ぎゅっと手渡されたそれを握りしめ聞くと、 「それは緒美のだよ。緒美が寒がるかなと思って、先に封を切っておいたんだ」 「ありがとう。でも、緒美が寒がらなかったらどうしてたの?」 「そのまま俺が使ってた」 「え。涼兄ぃ寒くない?」 慌てて見上げたその顔は、緒美の好きな笑顔だった。 「寒くないよ。もう慣れたし。それに緒美の前でそんなの見せられないだろ?」 そんなこと言ったら、寒いって言ってるのと同じだよぅ。 「涼兄ぃの見栄っ張りー!」 数歩駆け足で進んでくるりと振り返って立ち止まり、小さく叫んでみる。 「コラ。なんてコト言うんだ。・・まぁ、間違いでもないけどな」 追いついてきた涼兄ぃは歩みをゆるめず、緒美の頭にぽんと手を置いたと思ったら、そのまま抜き去っていった。 「待ってよ!涼兄ぃ!」 慌ててきびすを返し、再び涼兄ぃの横を並んで歩き出す。 神社への参道に繋がる道へと曲がると、人影が行く先にいくつも見える。 「結構混んでそうだな。緒美、迷子になるなよ?」 「平気だよ。涼兄ぃおっきいから、緒美からは良くみえるもん」 そうこうしてるうちに、参道にはぞろりと人の列が出来ていく。 二人はその列の最後に並び、列の先頭を仰ぎ見た。 「どこからこれだけ人が来るんだろうな。ニュースとかを見ていても不思議になるよ」 山門は未だ閉ざされたままで、まだ開く気配はない。 それでも、何故かじわじわと進む列に流されるまま、前へ前へとじわじわ進んでいく。 気づけば周りの人口密度は、かなり高く、ラッシュ時の電車を思い浮かべるほどだった。 列の両側には、ハンドマイクを持ったアルバイトと思われる青年が『押さないでください』と声を上げている。 「緒美、こっちにおいで」 腕を押しつけるように並んでいた涼兄ぃが、少しだけ自分の前に空間を作って、緒美を抱き込んでくれた。 後からも横からもぎゅうぎゅうと押されて苦しかったのが楽になる。 「りょ、涼兄ぃ?」 「ん?後から押されて、緒美がこけたら困るからな」 その声は頭の後から耳に響いてくる。 「え。でも・・」 「大丈夫だよ。ほら。周りもみんなこんなんだ」 言われて見渡せば、今の二人のような姿勢になっているカップルがいくつも目に入る。 「ほんとだー」 それと同時に今自分たちが同じような状態だと言うことに思い当たり、顔が赤くなる。 うわ・・・どうしよう。 「ん?どうした?緒美? しんどいのか?」 少し俯いてしまった緒美に涼介は心配げに声をかけた。 「ううん。違うよ。あのね」 上を向いて小さな声で話す緒美の口元に涼介は耳を近付ける。 「どうした?」 「・・・なの。緒美ね。涼兄ぃがスキ」 一瞬涼介の身に力がこもったのが、緒美には背中越しに感じられた。 いわなきゃよかったかも・・でも、言わないわけにもいかないよ。 不安げな瞳のまま、緒美は涼介を見上げていた。 その時。周りからうわ〜〜〜〜っと声があがった。 どうやら、年が明けたらしい。 「緒美・・先こされたな」 え? と思う間もなく、軽くちゅっと音がした。 「あけましておめでとう。今年も。いや、今年からよろしくな」 その声と共に、ぎゅっと抱きしめられた。 ・・・いまのって。・・キス・・だよね。 涼兄ぃ・・ほんとに? 今度は緒美の動きが止まる。けれど。山門が開いた今、立ち止まっているわけには行かない。 傍目から見たら、二人羽織のような姿で周りの流れに押されながら、本殿へと進んでいく。 本殿前でやっと少し空間が開く。 並んで手を合わせたとき、緒美は少し困ってしまった。 ・・どうしよう。お願い事がなくなっちゃった・・ ちらりと横をみたら、涼兄ぃがあわせていた手を下ろすところだった。 「終わったか?」 慌ててもう一度目を閉じて願った。 「今年一年、ううん。これからもずっと幸せでいられますように!」 顔を上げると、横で涼兄ぃが手を差し出して待っていてくれた。 てれくさかったけど、その手を繋いで本殿を後にする。 二人並んで来た道を帰りは同じように並びながらも手を繋いで戻る。 繋いだ手を通してお互いの体温が暖かい。 「緒美。先越されたけど、ちゃんと言うよ。俺も。緒美のことスキだから」 だから。これからもよろしくな。 ぎゅっと手に力を入れてそういった。 「うん。緒美もよろしくね」 そうはいってみたものの、お互い照れくさくて顔は見られない。 そのまま夜道を並んで歩いて帰る。 家までもうすこしと言うところで涼介が口を開いた。 「緒美。緒美がちゃんと受験が終わったら、おばさんに報告しよう。それまではまだ秘密な」 「・・・うん。緒美すっごいやる気でてきたよ。すっごいごほうびだね。それって」 「ご褒美なのか?俺は」 涼介は開いている方の手で緒美のほっぺをつついた。 「目標があるのは大事だって涼兄ぃ言うじゃない。だから!」 「そうだな。多分失敗はしないだろうが、おっちょこちょいな緒美だからな。最後まで気をぬくんじゃないぞ?」 最後は家庭教師の顔まで出して、涼介は油断するなと釘をさした。 「だいじょうぶ。がんばるよ。緒美は」 そしてそのまま二人で緒美の家の扉を開けた。 「ただいまー」 こっそりそういって入っていく。 玄関灯はついていたが、奥の部屋には光はついていない。 両親とも寝てしまっているらしい。 「涼兄ぃ、お茶飲んでいく?」 「いや、このまま戻るよ。一端暖まったら、出られなくなりそうだ」 「そう。じゃぁ、気をつけてね?」 「ああ、緒美も。ちゃんとお風呂で暖まってから寝ろよ?」 「うん。風邪引いちゃったら、明日涼兄ぃのトコロに挨拶いけなくなっちゃうもん。ちゃんとするよ」 「じゃぁ。おやすみ」 「おやすみなさい」 にっこり笑って手をふったところをぎゅうぅと抱きしめられた。 「またあとで」 その言葉と同時に口づけが降りてきた。 ちゅ、ちゅ、と唇をかすめるように数度触れたあと去っていった。 「もう!涼兄ぃ!」 二人きりだと判っていても、慌てて周りを見渡してしまう。 「それじゃ」 にっこりと微笑んで涼介は扉の向こうにアッという間に消えてしまった。 残された緒美は口に手を当てたまま顔を赤らめてその場に立ちつくしていた。 新年にはじまった恋人達に今年一年も幸多からんことを。 A HAPPY NEW YEAR!! |
なんだか、この二人だと恥ずかしいことも堂々としちゃえ!みたいな開き直りが最近存在します。ほほほ。 新年なので、ちと今年の抱負など語ってみましょうか。 マイペースで自分を貫く。<ものはいいよう。 Dにハマってもう3度目の冬を迎えたわけですが。人様から比べるとかなりローペース。 でも自分としては凄くハイペースにこうやって形にしてきたモノがあります。 今年はもうちょっと形に出来ていったらいいなと。夢は大きく持たないと!(笑) ・・とか書いてて、年末になったら泣きをみるんだろうな・・きっと。(汗) |