bitter you-aya minamori-
コート、マフラーを着込んで外に出る。
外は12月らしさを訴えかけてくるような厳しい寒さ。
時計の針を確認する。
クラスでおこなうクリスマス会の会場として選ばれたのは、
クラスの生徒の中で一番家が広いという、紀澄沙菜の宅。そこまでゆっくり歩いても15分。
集合時間と照らしあわせると、時間まで20分以上待たされることになる。
少し早く出発しすぎたことを後悔しつつ近くの本屋に立ち寄り、時間を潰す。
手頃な雑誌を手に取り、立ち読みを始める。
その時だった
「高原さん」
「ん?」
聞きなれた声に振り向くと、そこには見なれたクラスメイトの姿があった。
「おお、水森か。メリークリスマス」
「えーと・・・メリークリスマス」
少し戸惑った後、遠慮がちな微笑みと共に言葉を返す。
「水森もクリスマス会までの暇つぶしか?」
「いえ、わたしはクリスマス会には・・・」
「いかないのか?」
「はい」
決して口数は多くないし、物腰はこんな感じだが
人当たりも良く、そんなに無口でも友達が少なかったわけでもないはずだが。
「クリスマス会、嫌か?」
「いえ、そういうわけじゃないんですが」
「家の都合とか?」
「そういうわけでも・・・」
すごく言いたくなさそうだ。聞かない方がいいのだろうか。
しかし、かなり気になるのも事実だ。
なんとかなる理由なら、なんとかして是非水森にはクリスマス会に参加してもらいたい。
「『クリスマス爆笑クイズ漫才2000』が見たいんです」
・・・・・・タイトルからして不明だが、あえてそこには触れない。
「録画は?」
「弟が裏番組の音楽番組を録画しています」
「・・・・・・」
「・・・ビデオ録画権争奪のジャンケンに負けてしまいまして」
心底悔しそうに呟く。初めて見せる表情だ・・・と思う。
「悔しいです」
「言わなくても、それはすごく伝わってきた」
なんというか、もはや諦めろとも、会に参加しろとも言えない。
その瞳には確かに決意の炎が燃え盛っていた。
「あの・・・そろそろ」
「ああ、頑張ってな」
俺の方もそろそろ集合時間だ。
「じゃあな水森。クリスマス会、番組が終わる時間になってもまだやってると思うから」
「はい、その時は是非」
「おう」
本屋の外まで一緒に歩く。雪でも降りそうな寒さ。
横を歩く水森がスッとマフラーを巻きなおす。
「じゃあ、わたしはこれで」
「頑張ってな」
「頑張ります」
力強くグッとガッツポーズをしてこちらを見据える。
・・・こんな女の子だったのか。
「あ、これ」
決意を秘めた瞳のままカバンから包みを取り出す。
「あげます」
「くれるのか?」
「だから、あげると言っています」
「サンキュー」
「別に、高原さんのために買ったわけじゃないです」
「そうか」
「好きな人のため、です」
「そうか」
「聞き流しましたね」
「ああ」
「帰りますよ」
「ああ」
「・・・好きです」
「ああ」
そこまで会話を続けた後、さっと身を翻して家への道を走っていく水森。
どこかうれしそうな足取りだと想うのは俺の気のせいだろうか。
「水森、また後でな!」
その言葉だけ投げかけてすぐに俺も身を翻し、集合場所へ少し早足で歩きだした。
彼女がうなずいたかどうか、確認しなかったのを後悔しながら。