last resort
sunday 11:00-AM
なんのことはない日曜の午後。机に向かったはいいが、
勉強するわけでもなくただ机に足をのせて天井を見上げる。
退屈によって眠りの世界へ引きずり込まれつつあったその時、
知らない誰かからのメールの着信音に目を覚ます。
メッセージは「携帯買ったのなら教えてくれればいいのにー」と一言
…誰だ?返信で問いかけてみると、相手はだいぶ前に別れた彼女だった。
−『別れたはずの』というべきだろうか。
付き合い始めたのは中学3年の頃、受験生ながらよくそんな暇があったものだと今思い返すと呆れる。
その後、俺達は別々の高校に進んだ。その時点で俺はもう『終わった』と思っていた。
別々の高校に通うことで一緒の時間も減るだろうし、心変わりもあるはず。
終わりでいいんだ、そう思っていた。
でも
携帯の向こう側の彼女はそう思っていなかったのだろうか。
付き合っていたあの頃のようにメールで話しかけてくる。
「最近どう?」「昨日新しい服を買ったんだけど」「こっちは明後日からテストだよ」
「特に変わりはない」「金の無駄使いだな」「俺はテスト真っ最中だ」
懐かしさも手伝って、俺も昔のように返事を返していく。
別れたはずなのに。
繋げていく会話の中で、いつしか彼女から
「今日の午後、久しぶりに遊びに行こう」
と誘いがきた。チクリと痛む胸。
でも答える言葉は
「OK」
もし、会ってしまえば別れ話になると知っていたのに。
あの頃のように話せるだろうか、振るまえるだろうか。
云えるだろうか?あの頃は考えもしなかった別れの言葉を。
sunday 1:00-PM
彼女の買い物に付き合い、ゲームセンターに寄り、ファーストフードで休憩。
2年前も同じコースを通った気がする。
アクセサリーショップに入るのが嫌で表で待っていたことも、
彼女をほっておいてゲームに夢中になったことも、全てが同じ。
田舎町だから行くところが限られてくるのだろうか
それとも
幸せだったかつての想い出と重なりたかっただけだろうか。
sunday 4:00-PM
「もう、別れよう」
最後に立ち寄ったファーストフード店で、はっきりとそう言った。
チープな歌の歌詞みたいに、こんな時は本当に言葉がない。
「え・・・?」
信じられないような、そんな顔をする彼女に向けて続ける。
「俺達、学校も違うし、会える時間も少ないよな。
だから、このまま付き合い続けてもお互いためにならないと思うんだ。」
無言。
「本当は、2年前に別れとくべきだったのかもな。」
自分でも不快になる言葉を並べていく。卑怯で姑息な自分を消してしまいたい衝動にかられた。
そんな時に、彼女が口を開いた。
「私は、幸せだったよ。」
罵倒の言葉、悲しみの言葉を予想していた俺に、そんな意外な言葉が投げられた。
「あなたが今何をしてるか、何を考えてるか、どんなことで喜んだか、悲しんだか、
会えなくてもそんなことを考えるだけで幸せだった」
「・・・」
「でもやっぱり、会えないとダメだよね。私は幸せでも・・・ダメだよね」
お前は悪くない。そう言いたかったのに何故か結んだ唇は開かなくて
ただ彼女の言葉を聞いているだけで。
「ごめんね。2年もほったらかしにしておいて、今更メールして、彼女面して、
ごめん…ごめんね…ごめ…」
言葉の終わりが涙で途切れる。
ごめん。それは俺の言葉なんだ。
ほったらかしにしておいたのは俺の方で。
ずっと思いつづけてたお前を今更突き放したのは俺の勝手で。
ずっと思いつづけてたお前を信じきれなかったバカな俺で。
別れようなんて言わなければよかった。
後悔するのはすごく簡単。
でも、もう戻れない。
"どうか、俺のことは忘れて幸せに"
ありふれているような、そんな都合のいい言葉を心に抱いて俺は店を出た。
真夜中、ワンコール。
誰からかは分かっていた。
諦めの悪い女だ、と悪ぶって苦笑する。
返さない方がいい、頭ではそう分かっていた。
終わったんだから。
でも、諦めが悪いのは俺の方か、それとも単に甘いだけか、
最後だと自分に言い聞かせて俺はコールを返した
どこかで、まだ最後じゃないと信じたがっていた。
FIN