新不動産登記法施行から1年
中間省略登記のゆくえ


不可解な「法改正なき禁止」

 中間省略登記が「できなくなった」という見解には、大きな疑問があります。
 実は「中間省略登記についての改正で行っていない」というのが法務省の見解です。
 後に経緯を見ますが、これはひとつの驚きでしょう。つまり、中間省略登記の法改正はしていないので、当然のことながら、「扱いに変更はない」(法務省)というのです。
 司法書士会は、最高裁により有効と認められて普通に行ってきた中間省略登記を、法改正がないのに突然できなくなったとして扱いを変更し、禁止したわけです。
 ところで、この司法書士会のスタンスには、経済の基本秩序の公正な維持の観点から疑問が投げかけられています。
 というのは、法改正による禁止ではないとすると、もっともな理由をつけて事業者団体による協定で扱いを変更し、禁止したことになります。これは、取引を制限する一種の協定とも見られます。当否は別として、廉価な登記サービスを提供するために行われてきた中間省略登記を禁止することで、事業者団体の構成員にメリットが還元されるという図式があることは、少なくとも否定し得ないでしょう。半面で、登記利用者側の利益が損なわれています。
 この点、法務省の指導があると思われているのは誤解です。法務省は、今回の中間省略登記の禁止について公式文書を出していません。それどころか、法務省民事局の関係者は、「彼ら(司法書士)が全く勝手にやっていることだ」と、司法書士会が中間省略登記を禁止する通知を出していることなどについて、関与を全面的に否定しているのです。
 この司法書士の一種の協定について、関係当局が最終的にどのような判断をするかは分かりません。ここでは、重大な問題意識として指摘しておきたいと思います。

制度の内容 変えぬ約束

 法改正の経緯を振り返ってみましょう。
 昨年3月施行の不動産登記法の大改正は、登記申請のオンライン化のためのものであり、制度の本質的内容は変更しないということが大前提にありました。
 不動産業界が、立法過程で中間省略登記について取り立てて意見を述べなかったのも、制度の本質的内容を変えないという、この前提があったからです。
 「もともと法制審議会の前身となるオンライン研究会の段階で、中間省略登記の扱いに変更はないということを確認して進めてきた」(大手不動産業界関係者)といういきさつもあります。
 このように、法改正で中間省略登記を禁止する条文が意識的にできたわけではなく、全く状況は変わっていないというのが現実なのです。
 ところが、法改正の成立後に、意見を述べる間もなく、中間省略登記ができなくなると、施行を目前にして突然言われた格好でした。
 もっとも、法務省は、中間省略登記はもともとできないというスタンスです。しかし、「もともとできない」という見解のもとで、いままで、できてきたわけです。司法書士も、これを受託してきました。
 中間省略登記は、法務省ができないと言い続けている状態で、大正時代から裁判所に有効と認められて、できてきたわけです。
 ここで浮かび上がるのが、はじめに述べたように、司法書士会が、法改正なく中間省略登記の扱いを突然変更したという実態でしょう。中間省略登記を禁止する条文はどこにも新設されていないのです。

法改正説&れる−

 「いや、法改正でできなくなったという説明を受けている」という方も、大勢いると思います。
 ここで、司法書士会の説明を振り返ってみましょう。
 司法書士会の理論の決め手は2つあります。中間省略登記はもともとできなかったという点と、登記原因証明情報を必ず付けるということになったが虚偽の内容は書けないという点です。この2点に集約されます。
 具体的には次のようなものです。
 「登記というものは、誰から、誰に、いつ、どんな契約をして、権利が移転いたかを記録するものである。A→B→Cと売買したときに、AからCに、いつ、どんな契約をして権利が移転したといえるのか。実際はAとCの間には直接の契約はない。だからもともと登記できない」
 「もし、強引に中間省略登記をしようとすれば、AC間で売買があったことを記した申請書類を出さなければならない。しかし、これは虚偽の内容を書くことになる。そのようなことは司法書士としてできない。改正前は、この書類を出さなくてもよかったからできたのだ」
 1点目は、司法書士会が登記の「ルール」と言っています。2点目は、最近はやりの言葉でいえば、「偽装」はできないということでしょうか。
 1点目のもともとできないという登記の「ルール」は、ひとまず認めるとしましょう。もともとできないという主張は、前提として「法改正がない」ということを自白していることになります。
 次に、偽装となるかという点。
 まず、今でもAC間で売買があったとする書類を出して申請していたこともあるという事実を、どう合理的に説明するのでしょうか。これは地域差もあるようですが、現在の「登記原因証明情報」に当たる書類を提出して申請していた場合もありました。これは偽装でしょうか。
 更には、「申請書」自体も一種の偽装だったといえないこともありません。登記官は、「登記義務者A・権利者C・登記原因○年○月○日売買」という申請書の記載を見て、AC間にその日に売買があったと思って申請を受け付けるからです。
 これについて、今までも虚偽の申請書を提出していたおいうことにならないのでしょうか。そうすると、司法書士会は、今までどうしてこれを許容してきたのでしょうか。
 つまり、これを適法と考えていたからということになります。
                              ◇                ◇
 ではなぜ、これらの内容の書面は適法なものなのでしょうか。
 要点は、A→B→Cと売買した後に、更にAC間で売買契約すれば適法に登記できるということです。最高裁はこれを有効としています。法務省もこのAC間の売買が成立することを認めています。これは、「法律家の感覚として全く問題ない」(弁護士)ようです。当事者がそのような申請書類を整えることは、「当事者の意思によっているものなので偽造でも何でもない」という法務省民事局長の国会答弁もあります。
 中間省略登記の合意を三者でして、AC間に売買があったとする証書を作って申請することに、当事者に異存がないのなら、AC間で実際に売買が成立し、登記のルールに反することにはなりません。
 (今までもできないというのは、このような合意のない場合について妥当する考え方です)
 すなわち、登記のルールは、「誰から、誰に、いつ、どんな契約をして、権利が移転したかを記録する」というものです。名義人Aと買主Cの間で、ある日時に売買を成立させれば、「Aから、Cに、その日に、売買で、権利を移転した」ということはウソでも何でもないことなのです。つまり、登記のルールに反するものではなく、偽装でも何でもないのです。
 これで、司法書士の「法改正論」崩れてしまいました。このように、中間省略登記を禁止する法改正は、意識的にも、結果的にも、なかったのです。

民主主義のルール守れ

 今後の中間省略登記のゆくえですが、従来型の方法を受ける司法書士が見つけ難いという点は、よほどの外圧でもない限り、しばらくは変わらないでしょう。
 そこで、受けてくれる司法書士を何とか捜し当てるか、「第三者のためにする契約」などの代替契約を活用するか、司法書士には頼らず、中間省略登記を受けてくれる弁護士に頼むか、当事者自身AとCで申請をする方法と取る−という流れになると思われます。
 このように問題がこじれた原因は、改正法の立法過程で、中間省略登記についての議論が適正になされていなかったことにあります。
 中間省略登記を禁止したいのなら、そのような法改正をするということを宣言して、利害関係者の意見を十分調べ、明文を不動産登記法に設けるべきなのです。そのようにせず、突然解釈だけを変更しても到底納得が得られるはずもありません。
 扱いを変えるなら変えるとはじめから言って、皆で議論して決めていくのがフェアなやり方でしょう。
 国会で十分議論して決めたのなら、何も文句はありません。しかし、国会で十分議論せず、禁止する法改正をしないで、不意を突くように、手のひらを返すようにできなくなったいうのは、民主主義の精神に反しているともいえるのではないでしょうか。


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