快進撃企業に学べ

「世界に1本しかない万年筆を手作りする小さな文房具店」

 鳥取駅前の中心商店街を5分ほど歩いた一角に、珍しい店名の小さな文房具屋さんがある。名前は「有限会社万年筆博士」。従業員数は社長を含めわずか4人ながら、万年筆の分野では知る人ぞ知る小さな世界一企業である。
 通常、文具店の扱う商品のほとんどは、大手ブランドメーカーからの仕入れだが、同店の仕入れ商品は実質ゼロ、販売する万年筆および関連商品は、4人のスタッフによる手作りだ。
 業況もすこぶる好調で、広告宣伝などの営業活動をほとんど行っていないにもかかわらず、常に1年程度の仕上がりを待つ客を抱えている。ちなみに、気になる値段はというと、最低価格が5万円、最高価格は30万円、平均単価は11万円という。
 同社の創業は昭和20年、現社長である山本竜氏の祖父・義雄氏が、東京でのでっち奉公の後、故郷鳥取に帰り、家業としてスタートした。創業当初は、大手ブランドメーカーが開発した万年筆などの文具の仕入れ販売や、特注万年筆のOEM生産をしていたが、その後、ボールペンをはじめとする代替商品の拡大や、アジア諸国などからの低価格万年筆の輸入攻勢などがあいまって、年々、量的にも価格的にも厳しい経営を余儀なくされていった。
 こうした中、「このままではつぶれる・・・」と危機意識を募らせた現社長の父親で前社長の雅明氏と現社長が苦労と努力を重ね、今日の業態に転換を果たしたのである。「世界に1本しかない私の万年筆」の当初のターゲットは、万年筆に慣れ親しんだ団塊の世代であったが、「鳥取の梨の木」や「自宅の思い出の木」を胴軸やキャップに使用するなど、素材に徹底的にこだわった。また、商品に文化性・ストーリー性を付加したこともあり、今や男女を問わず、若者にまでファンはゆっくり着実に拡大している。
 こうした下請け企業からの脱却を目指して頑張る全国各地の中小企業の存在を見せつけられると、危機意識が不足している中小企業の奮起が強く求められる。それもそのはず、歴史的超円高の定着と、経済社会のなお一層のボーダーレス化・グローバル化は、「対応型企業」「価格競争型企業」「大量生産型企業」のさらなる空洞化を今後一段と加速させることが決定的だからである。
 その意味では、「万年筆博士」のような規模は小さくとも「オンリーワン型企業」の集積こそが、地域経済の空洞化を克服する方策である。


株式会社フジヤ
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