小麦粉(種類・特徴と歴史) <音声あり>
食品関係の粉粒体(1)
 <粉粒体の部屋(4-1)>  ここでは,粉粒体技術の応用例としての食品関係の粉体を紹介しています。

 私たちの身の回りには,小麦粉,インスタントコーヒー,脱脂粉乳,クリーミングパウダー,グラニュー糖,砂糖,食塩,抹茶,パン粉,カレー粉,胡椒(コショウ),各種食品添加物(調味料),澱粉など多数有ります。

食品用粉体の代表例 としての小麦粉 :
(1) 分類 :小麦は,イネ科コムギ属に属しています。

(2) 歴史 :人類にとって最初の作物で,1万年〜1万2千年前から作られているそうです。この時期は,氷河期が終わり温暖期に入った後の“寒の戻り”(「ヤンガー・ドリアス」)の時期に相当します。この寒冷化の時期に,人類は森から出て,新たな食料を「小麦」に求めました。
日本への渡来は,米と同時期の弥生時代頃のようです。
麦の品種改良については,日本人が偉大な貢献をしています。・・・下記(9)参照)

 
<参考>米の起源に関しては食品関係の粉粒体(2):米(イネ))での(年表)を参照ください。

(3) 米との相違点:

(A)(利用法): 「小麦」と「米」は外観が似ていますが,利用法は若干異なっています。
「米」の場合は,精米機などを使い外側だけを削って,「
(ご飯)」の状態で利用しています
  (最近は米粉としても使う場合が増えてきました)。
これに対し,「小麦」の場合は,ほとんど「
粉体(小麦粉)」の状態で利用しています。

 
これは,小麦の場合,としてはどんな料理をしてもあまりおいしくなく,粉体(小麦粉)にする方が食品としての利用範囲が広がる為です。

(B)(製粉方法): 小麦から小麦粉を製造する場合,米における精米方法(=表面を削る)のようにはいきません。
  
これは,以下の理由によります。
  
(a)皮の部分は非常に硬く,胚乳は比較的柔らかく,硬度差が大きいこと
  
(b)小麦表面の縦方向に深い「溝」があること
    
(下図参照。米のように表面だけ削っても,この溝の部分が残り,完全に白くはなりません)
  
 
 そこで,小麦から小麦粉を作るには,最初に「加水」してから,数段階の「粉砕」と「篩分け」を繰り返し,
   徐々に粒度を細かくしていきます。

(注)
1.加水の目的は,皮部に粉砕に対する抵抗を与え,胚乳部を柔軟にして,皮部と胚乳部の分離を
  良好にするためとされています。

2.除去された皮のことを,「ふすま」といいます。
3.胚芽部は小麦の2%程度ですが,多数のビタミンB群を含んでいます。




(小麦の外観) (小麦の断面)
(間隔:1mm)
↑溝
 小麦の片側には,毛が生えています。

(4) 成分 : 小麦粉は,以下の成分から構成されています。
 
No 成分 含有率 備考
炭水化物(澱粉) 70〜75%
タンパク質 8〜12% 米には有りません
(米と小麦の最大の相違点)
水分 12%
無機質(K,P) 1%以下
脂質 2%

 
含有成分のうち,米に無いのがタンパク質です。
このタンパク質の主成分は,2種類の「グリアジン」と「グルテニン」で,これらは水と一緒に“こねる”と,網目構造の「
グルテン(gluten)」に変わります。
 グルテンには,いわゆる「
粘弾性」があり,パンのふくらみを支えたり,麺類に強いコシを与えます。

 このように,成分中に炭水化物(澱粉)だけでなく,タンパク質も含まれていることが,澱粉を主体とする「米」や他の多くの食品粉体との大きな違いで,小麦(粉)が広く利用されている理由です。

(5) 消費量: 日本人が1年に消費している小麦粉の量は1人あたり約32kgで,これはパンを主食としている欧米諸国の人々の半分以下です。

(6) 種類: 小麦はグルテンの量によって,硬質小麦軟質小麦中間質小麦に分けることができ,それらから作られた小麦粉を,強力粉,薄力粉,中力粉といいます。 

No 種類 原料となる小麦の名称 特徴 利用例
強力粉 @アメリカ産
 
ダーク・ノーザン・スプリング
 
ハード・レッドウインター
A
カナダ産
 
ウエスタン・レッド・スプリング
B
オーストラリア産
 
プライム・ハード
タンパク質が多い
(約11%以上)

粘り気と弾力性が強い
パン,餃子の皮,中華麺,ピザなど
中力粉 @オーストラリア産
 スタンダード・ホワイト(ASW)
A
国産小麦
中間的な性質
(タンパク質
9〜11%含有)
うどんなど
薄力粉 @アメリカ産
 ウエスタン・ホワイト
 
アンバー・デュラム
A
カナダ産
 ウエスタン・アンバー・デュラム
 アンバー・デュラム
タンパク質が少ない
(約9%以下)

水でこねた時に適度な軟らかさになる
ケーキ,天ぷら,お菓子など

(注
)1<デュラム小麦について>
  
デュラム小麦
は,パスタなどに用いられます。
デュラム小麦の生産地は,地中海沿岸,北アフリカ,中央アジア,アメリカ大陸などで,日本では栽培されていません
この小麦は他品種に比べ,タンパク質を多く含み,硬いので,パスタに向いています。なお,パスタにはセモリナ(=粗粒)にしたものが用いられています。(パスタの色(黄色)は,小麦の色がそのまま出たもの。)


 (
パスタの製造方法
 
 デュラム小麦粉(セモリナ,粗粒)と水を混合して良くこねた後,これを押出機にかけ,各種形状の穴から連続的に押し出しながら,カッターで短く切っていきます。この時,ダイス穴の形状により,各種形状ができますが,今たまたま手元にあるものは,φ1.6mmの棒状で長さ250mmとなっています。
  短く切られたパスタは,この後,時間をかけてゆっくりと時間をかけて(数時間),乾燥,熟成されます。そして,包装,出荷されることになります。

(注)うどん用の小麦>は,オーストラリア産が非常に多いといっても良いようです。

(7)  形状:以下に,強力粉薄力粉電子顕微鏡写真を示しています。
 
丸い形状のものが「澱粉」,角張った形状のものが「タンパク質」です。

                         
<画像をクリックすると拡大します>

(拡大)

強力粉
強力粉

(拡大)
薄力粉
薄力粉




(8)
 小麦の収穫状況小麦の収穫状況を観察しました。
 
 
国産の代表的な小麦は,以下の3銘柄です。
 :
(a)ホクシン」(北海道産),(b)農林61号」,(c)シロガネコムギ」。

当地滋賀県では,「農林61号」と「シロガネコムギ」が主に栽培されています。滋賀県守山市における,今年(平成16年)の,これら2品種の栽培面積は,407haだそうです。
 11月初旬に種蒔きをし,ローラーによる冬期の麦踏みを経て,6月〜7月に収穫されます。6月初旬,今ちょうど「シロガネコムギ」の収穫時です。

シロガネコムギが先,農林61号が3〜4日遅めの収穫です。)。

<参考>麦秋(ばくしゅう)」:麦の収穫期をいうことばで,旧暦4月の別称。
穀物の多くは秋に実るのに,麦だけは初夏にとれることから,この名があるようです。


 
麦の種類によって,色が異なって見えます。  <撮影は平成16年6月5日,滋賀県守山市にて>               
           風車




シロガネコムギ

農林61号

手前側の色の濃いのが農林61号」,後方の色の薄いのがシロガネコムギです。
その向こうには,比叡山(左)と「
草津夢風車」(右)が見えます。
(シロガネコムギ)
全体的に白っぽいです。
収穫は,梅雨の前です。

(農林61号)
全体的に黒っぽいです。
収穫は梅雨の後です。
  (再生ボタンを押してください。)
 小麦は国内製粉メーカーとの契約栽培で,ちょうどこの日は,「シロガネコムギ」のコンバインによる刈り取り作業中でした。
 刈り取られた小麦はスクリューフィーダでコンテナに移され,その後JAで乾燥されます。

 なお,小麦を刈り取った後には大豆を植え,秋に収穫するそうです(連作防止,地力の回復)。
 
水稲とは形状がだいぶ異なります。 小麦の穂を,角度を90°変えて見ています。
(0°方向) (90°方向)2条を形成

(9) 小麦粉の輸送
外国から輸入された小麦は,粉砕され小麦粉にされてから,専用の輸送車に充填されて国内の小麦粉を扱う事業所に輸送されます。目的地に着くと,ホースを受け入れ先の口金に繋ぎ,輸送車のタンク内を加圧し,送り先のホッパーまで高濃度(流動化)輸送します。タンクには小麦粉が約10ton充填されており,これを20〜30分で送りきります。
輸送能力は20〜30ton/hとなります。


 
上の輸送車は,大阪和泉の飯坂製粉さんの所有で,滋賀県内で移送作業中(高濃度輸送中)を見せてもらいました(平成25年11月9日)。
タンクは45°に傾斜されており,小麦粉は,排出口の焼結金網製流動化部品から投入された高圧エア(Q1エア)によって流動化され,さらに輸送用エア(Q2エア)によって高濃度輸送されていました(タンク内圧力は85kPa)。
なお,タンクを45°に傾斜すると排出口はちょうど真下を向くようになっていて全量排出が可能なようになっています。また,流動化エアと輸送用エアは輸送元が共通で,それぞれの接続パイプに設けられたバルブの開度調整で流量比が変えられるようになっています。

 飯坂製粉さんでの小麦の輸入先はオーストラリアが多く,粉砕品は以下のように篩い分けられているとのこと。
(a)特級粉:ギョウーザの皮など,(b)1等粉:パン・お菓子用,(c)2等粉〜(d)3等粉:パン粉・中華麺・うどん用,(e)末粉〜(f)ふすま(麦皮粉):牛・豚の飼料。


(10)

小麦の品種改良の歴史

 小麦の品種改良には,日本人が偉大な貢献をしています。
 それは富山県城端(じょうはな)町出身の
稲塚権次郎氏(1897〜1988(平成元年))で,農事試験場で稲や小麦の品種改良に取り組んだ人です。

 彼が最初に行った稲の品種改良としては(水稲の)農林1号が有り,後にこの品種から「コシヒカリ」などが生まれました。また,小麦を品種改良して生み出したのが(小麦の)「
農林10号」という品種です。これは,たけが短いものの成長が早く,寒さに強く,収穫量が多いという特徴が有りました。

 第2次大戦終了後日本にやってきたアメリカ(GHQ)は,日本にこの「
農林10号(ノーリン テン)」という品種の有ることを知り,持ち帰りました。そしてこれをさらに改良し,アメリカからメキシコ,インド,パキスタン,トルコ・・・へと広げたのです。その結果,これらの国々では小麦の生産量が数倍も増え,世界の食糧危機を救ったことから,「緑の革命」と呼ばれました。これを行ったアメリカのボーローグ博士は,昭和45年ノーベル平和賞を受賞しました。
稲塚権次郎氏は,昭和46年に勲三等瑞宝章を受賞。)

 ボーローグ博士は,昭和56年に来日し稲塚権次郎氏と対面するとともに,平成2年に生家を訪れ,そこで講演しました。

 現在,世界50カ国の小麦の2/3(500品種)が「農林10号」の遺伝子を受け継いでいるとされています。
(世界の食糧危機を救った男−稲塚権次郎の生涯−(千田篤著)より)

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