滋賀県立小児保健医療センター整形外科

小児下肢疾患の講議の骨子

1)先天性股関節脱臼 2)麻痺性股関節脱臼 3)ペルテス病 4)単純性股関節炎 
5)化膿性股関節炎 6)大腿骨頭辷り症 7)内反足

先天性股関節脱臼
定義
 脱臼とは、関節を形成している2つの関節面が正常の解剖学的関係を失い持続的に転位している状態をいう。病理学的に厳密に言うと、転位があっても関節面どうしの接触がすこしでも残っていれば亜脱臼、両者の接触がまったく断たれていれば(真の)脱臼と定義している。先天性股関節脱臼は、出生前、もしくは出生後の様々な要因によって股関節を形成している大腿骨骨頭と臼蓋とが正しい解剖学的位置関係にない疾患である。関節面どうしの関係が正しくても、転位しやすい状態であればこの疾患の中に含めている(この場合は特に、脱臼準備状態とも呼ぶ)。かならずしも出生前に発症するとは限らないため、欧米では developmental dysplasia of the hip joint (DDH) と呼ぶことが多い。先天性股関節脱臼(先天股脱)は関節包内脱臼であり、関節包に損傷の及ぶ外傷性脱臼とは異なっていることに注意が必要である。
 我が国では、この疾患が変形性股関節症の最大の原因となっている。諸君等が大学で見学する人工股関節手術の多くが、この疾患を原因としていると思う。人工股関節手術を見学する際には注目して欲しい。この疾患は平均寿命の長くない国では余り問題にならない。変形によって痛みの発症するのは50-60才頃のことが多いからである。しかし、高齢化社会を迎えた我が国にとってはますます重要な疾患になりつつある。
病因、病態、発生機序
 子宮内の純殿位姿勢、性ホルモンの異常、出生後の持続的下肢伸展位、の3つが考えられている。最近では家系内発生の頻度が高くなっていることが注目されてきている。
 分娩時の姿勢と脱臼発生率の関係を調べると、純殿位から生まれた赤ちゃんの発生率は約30%であり、頭位分娩児では1%であった。このことから子宮内で膝伸展位が脱臼発生と深く関係していることが分かる。
 脱臼の発生は女子に多い(男子の8倍)ことから、性ホルモンがなんらかの影響を与えていると考えられている。動物実験では女性ホルモンが少なく、黄体ホルモンが多い場合に脱臼発生率が高い。
 民族によって脱臼発生率は異なる。例えば、アメリカインデアン、モンゴル族、スウエーデンのラップ族は脱臼発生率が高いことで有名であるが、これらの民族では赤ちゃんの生下直後から下肢を伸展位に維持して育児をしていることがわかっている。日本民族もモンゴルとは深い関係があることは周知の事実であり、実際我が国においても昔は赤ちゃんに巻きおしめを使用していた。現在我が国における脱臼発生率は約0.1-0.2%であるが、20年以上前では2%の高率であった。動物実験でも下肢伸展を強制しておくと股関節脱臼が誘発される場合があることなどから、生後下肢の持続的伸展位を強制することが脱臼の要因の1つと考えられている。
 一方、遺伝的要因は昔から指摘されていたが、脱臼発生率が減少してからは、再びクローズアップされてきている。兄弟・姉妹、親子での発生は稀ではない。私達の調査によれば、重度の脱臼では38%に家族歴を有していた。今後は遺伝子の解析も進むと考えられる。

先天性股関節の予防(先天性股関節脱臼の予防)
軽度の脱臼であれば、赤ちゃんの育児環境を良好に保つことにより、自然治癒を促すことが可能である。私達の研究から、軽度の脱臼(タイプAI-I脱臼)では下肢取り扱いの注意を守るだけで自然治癒する場合が多いことが明らかになっている。逆に赤ちゃんの下肢の扱い方を誤ると軽度の脱臼でも進行してゆく。赤ちゃんの下肢取り扱い方法とは、特別に難しいものではなく、その基本は赤ちゃんの下肢の動きを妨げないということである。これはよく誤解されているが、赤ちゃんの下肢の自由な運動を妨げないということであって、決しておしめを股の間に厚くてて無理に開かせる事では無いので注意して欲しい。以下、その方法を紹介する。
1)下肢の動きをなるべく制限しないような薄いおむつ、おむつカバーを股間に当て、赤ちゃんの下肢の自由な動きを妨げないことが基本である。したがって下肢の動きを制限するようなおしめカバーや衣服は使用しないことが重要。しばしば見られる誤りは、股の間に厚いおしめを当てることによって下肢を無理やり開かせることである。股関節の開きを強制的に赤ちゃんに押し付けると後に、深刻な股関節変形が生じることがある。
2)赤ちゃんを抱く場合は、抱く人と赤ちゃんとがお互いが向き合うようにするのが大切。そうすれば赤ちゃんの下肢は自然な形をとり、ある程度自由な運動が可能になる。赤ちゃんを横にして抱くと、下肢の動きが制限されるので横抱きは避けるべきである。よく見られる誤りは、抱くときに、赤ちゃんの股に手を入れることである。このような抱き方をすると一方の下肢の運動が制限されるのでよくない。赤ちゃんにミルクの飲ませる時も、赤ちゃんがお母さんの膝にまたがるようにする。
タイプAI以外の脱臼では下肢取り扱いを注意するだけでは自然治癒することはないので脱臼の重症度に応じた治療が必要となる。


臨床症状
 股関節は身体の中心部にあり、膝関節等と異なって、回りを大きな筋肉が取り囲んでいる。この為、脱臼による股関節の変形があってもそれを形態の変化として把握することがむずかしい。したがって、注意深い視診と触診が必要である。診断する時のポイントは、赤ちゃんの目をみる、赤ちゃんの全体をよく観察する、赤ちゃんを優しく扱う、の3つである。最近の医者は、検査データばかり見て実際の患者さんを良く見ないといわれるが、これは一面では正しい。とにかく患者さんを良く見ることからすべては出発する。個体発生は系統発生を繰り返すというが、そのとうりで赤ちゃんは解剖学的には四足動物とおなじである。四足動物は自分に近付く者を主として目で判断するが、赤ちゃんも同じである。診察するときは、自分の味方であると判断してもらうことが重要だ。赤ちゃんがこちらを受け入れて始めて診療が成り立つのである。赤ちゃんが泣いている状態で診察などは成り立たないし、誤診の元になってしまう。触診するときも同じである。赤ちゃんは言葉で自分を表現できないので、泣いたり笑ってしながら相手に自分の気持ちを伝えている。触診は柔らかいタッチで優しく行わねばならない。赤ちゃんを乱暴に扱う医師がいるがとんでもないことである。
 さて、視診であるが、すでに脱臼位にある場合は、股関節は軽度屈曲・外旋位をとることが多い。さらに股関節の動きが少なく、顔は脱臼側と反対側を向いている。両側例ではより重度脱臼側と反対側を向いている。健側と比較すると脱臼側は内転位にあるため、皮膚が弛んで大腿内側皮膚の皺の数が多く、骨盤が傾くために短縮して見える。脱臼が高度であれば、実際に脚長差が出現する。
 1歳過ぎて、すでに歩行している患者では跛行が顕著であり、両側脱臼の場合では跛行よりも腰椎の前弯が目立ってくる。歩行時腰椎前弯が増強している場合には、神経筋疾患や骨系統疾患とともに、両側の先天股脱も疑うべきである。
 触診を行う場合、月齢によって得られる所見が異なることに注意が必要である。新生児で、すでに脱臼している場合は股関節を屈曲位からすこしづつ開排位にしてゆくとある角度で骨頭が臼蓋の中に瞬間的に入り込むのを触知することがある(Ortolani test)。脱臼はしていなくても股関節が不安定で脱臼しやすい場合には、逆に開排位から股関節を閉じてゆくとある時点骨頭が臼蓋からはずれるのを触知する場合がある(Balow test)。乳児の脱臼の場合はすでに股関節の拘縮が出現していることが多いので、股関節の開排制限が重要な所見となる。しつこいようだが、この検査を乱暴におこなってはならい。力まかせに行えば赤ちゃんは緊張して開排制限がでるのが当たり前だ。内転筋拘縮のため、新生児におけるOrtolani test やBalow test は陰性のことが多い。脱臼が高度で、骨頭が完全に臼蓋から逸脱している場合には、Allis' sign が陽性となる。次に、骨頭の位置を確認する。正常股関節においては、骨頭は鼠径靱帯と大腿動脈との交点ないし、ややその上外方に触れるが、脱臼があると同部は空虚となっている。
検査
 超音波断層像による診断が正確で最も有用である。プローブをどのような方向から操作するかによって、いくつかの方法がある。前方から操作する方法を用いれば、脱臼のスクリーニングだけでなく、脱臼の程度、臼蓋の形態などが診断でき、さらに整復操作過程で骨頭の位置を確認する上で大変有用である。
 超音波断層像による診断法が登場するまでは、X線診断が確定診断法として最も信頼性が高かった。今日でも奇形を伴った脱臼の診断や、1歳以後の脱臼の診断には欠かせない診断法である。しかし、乳児検査ではなるべくX線診断は避けるようにしたい。1枚のレントゲン写真で受ける被爆量は少ないが、検診に用いるとなると話は別だ。
治療
 治療の目的は脱臼した骨頭を正しく整復し、その後の正しい股関節の発育の条件を整えることである。重要なことは、整復する場合に大腿骨頭に障害を与えない、ということである。1960年頃までは徒手整復後90度開排位にてギブス固定をおこなっていたが、大腿骨頭壊死の発生率が高く大きな問題となっていた。その後リーメンビューゲル法(リ−メンビューゲルによる治療)がチェコスロバキアから導入され今日我が国でもっとも広く行われている治療法となっている。しかしながら高度脱臼をこの方法で整復することは困難であり、また整復されても少数例に骨頭壊死の合併症が発生することが様々な施設から報告されてきている。リーメンビューゲル装着前に牽引をおこなったり、装着中に過開排を防せぐ試みがなされているがまだ骨頭壊死完全に予防するには至っていない。いかなる脱臼も確実にそして安全に治療せしめる方法の開発が検討されている。リーメンビューゲル法以外では、オーバーヘッドトラクション、徒手整復法、観血的整復法などがある。私達は、開排位持続牽引整復法(開排位持続牽引整復法による治療)を開発し1993年から100例ほどにたいし臨床応用してきたが、整復率は高く、合併症もきわめて少ない。
 年長児の治療は、整復とともに脱臼の結果生じた股関節の変形にたいする矯正が重要となる。大腿骨近位の変形があると骨頭が正しく臼蓋に向かい合わないので、近位の内反・減捻骨切り術等が行われる。高位脱臼では大腿骨の短縮が必要な場合がある。臼蓋形成不全があると股関節が不安定性となり、その後の股関節発育は望めないので骨盤骨切り術によって骨頭を充分に覆う必要がある。脱臼を放置したまま骨盤骨切り術をおこなっても正しい股関節は形成されないので注意が必要である。10代の臼蓋形成不全に対しては triple osteotomy や 臼蓋回転骨切り術などが行われる。
 最近では一般病院の整形外科において先天股脱を治療する機会は少なくなっており、この疾患に精通した医師も限られてきている。今後はこの疾患を数多く扱っている病院で専門的に治療するのが望ましいと考える。


ペルテス病
定義
 小児の大腿骨頭骨端核への血行がなんらかの理由で途絶えることにより同部の壊死をきたす疾患である。1909年に米国のLegg、1910年にフランスのCalve,ドイツのPerthesが報告したので、Legg-Calve-Perthes diseaseとも呼ばれる。
病因、病態、発生機序
 骨端核への血行途絶の原因はわかっていない。5-6才の活発な男子に多く発生することから外傷が関与していることが考えられるが確証はない。骨端核への栄養血管が関節内にある皮膜の中を走行することから、関節内圧の上昇が原因とする説もあるが、動物実験から関節内圧を上昇させても血行途絶はおこりにくいことを考えるとこの説は否定的である。その他血管炎を原因とするもの、栄養血管の解剖学的特異性に原因を求める説などがあるが確定的ではない。大腿骨頭骨端への栄養動脈の走行は、大腿動脈から深大腿動脈そして内側大腿回旋動脈とつながっている。内側大腿回旋動脈から上方に枝が出てこれが関節包を貫いた後に頚部皮膜動脈となって上行し、やがて骨頭軟骨の中を通過して骨端核を栄養する。動物実験でペルテスと類似の変化を観察すると、血管が骨頭軟骨の中を貫く部位で血管の閉塞がおこっている。したがって、骨頭への繰り返しのストレスが血行途絶の原因とする説もある。最近では凝固系の異常が血行障害の原因であるとして研究を進めている学者もいる。親の喫煙の影響で凝固系に異常がでるというデータもあり、本センターでも調査中である。とにかくタバコは百害あって益なしである。喫煙するしないは各人の自由だが、子供のいるところで喫煙は厳禁である。本センター内は禁煙なので諸君らも厳重に守って欲しい。ところでこの疾患の患者に手術を行うと、出血が速やかに止まることに私達は気付いていたが、これも血液凝固異常説を裏づけているかも知れない。
 ペルテス病の患者は一般的に活発であり、同世代の子供より身長が低いことが多い。アフリカ系アメリカ人に少なく、日本人に多い。我が国における発生率は0.07%前後と推定されている。男子に多く女子に少ないが、女子の場合は予後不良の場合が多い。その理由は女子の方が骨成熟が早いからと考えられているが、私も同じ意見である。
 血行が途絶えると骨端核壊死がおこり、約1-2年の経過で、壊死骨が吸収され新たな骨が形成されてくる。問題は新しい骨が正しく形成される、すなわち、角ばったり、楕円形になったりしないで、臼蓋と同じ球形に作られることが重要である。
臨床症状
 股関節痛と跛行が見られる。症例によっては股関節痛よりも、大腿部あるいは膝関節痛を主訴とする場合もあるので注意が必要である。ある大学病院で患者さんが膝に痛みを訴えたので、1年かかって膝の検査をおこない、肝心のペルテス病を見逃していた、という事実もある。痛みは軽度であったり、全く痛みを訴えない場合もある。単純性股関節炎では疼痛の緩和とともに跛行が消失することが多いが、ペルテス病では痛みが消失しても跛行は持続するのが普通である。股関節屈曲・内転が制限され、この肢位を強制すると股関節痛を訴えることが多い。骨頭の変形が軽微な内に治療を開始する必要があるので、早期診断が重要である。5-6才前後の子供の跛行を見たら、ペルテス病をまず疑う必要がある。
画像検査
 まず超音波診断を行う。股関節包内には水腫が見られるが、滑膜の増成を伴っているので超音波画像上では淡い陰影が見られることが多い。単純性股関節ではこうした陰影は稀であり、化膿性股関節炎では逆に膿による点状の陰影が見られるのが普通である。
 初期のX線検査では水腫のために骨頭が外方に移動する像(Waldenstrom sign)が見られる。発症後2-3週すると骨頭壊死による硬化像が見られるので診断は容易となる。骨端核壊死によって部分的に骨の連続性が断たれることがある(Caffey sign)が、股関節開排位での撮影でこの病変が明確になる。
 もっとも診断的価値が高いのはMRIである。T1でもまたT2強調像でも壊死部分の信号が見られない。血行が再開されるとT2で信号がでてくる。
治療
 保存的治療と観血的治療法があるが、いずれにせよ骨頭を健常な臼蓋に包み込んで関節可動性を維持し変形を発生させないようにすることが治療の基本である。すでに骨頭の変形がある場合でも同様の方法で球形の骨頭を形成しなければならない。我が国では保存的療法(ペルテス病にたいする保存療法)が主流であり、欧米では観血的治療(ペルテス病にたいする手術療法)が盛んである。いずれにせよ治療はまず牽引により拘縮を除去することから始まる。股関節可動域の改善が得られない場合には関節内の洗浄を行うと効果がある。
 保存的療法では骨関節の動きが改善した後に、股関節外転もしくは外転・内旋位によって骨頭を臼蓋に深く包み込み、毎日一定時間の可動域訓練を行う。治療期間は約1年である。手術的療法では、臼蓋もしくは大腿骨近位の骨切りにより骨頭を臼蓋に深く包み込む。この場合には特別な肢位をとる必要がないので、早期に普通の生活を送ることができる。保存的療法にせよ手術的治療せよいずれも難しい。専門医へ早く紹介することが重要である。


単純性股関節炎
定義
一過性の股関節痛と跛行を主訴とし、原因が明らかでない疾患を総称している。
病因、病態、発生機序
大多数の症例では股関節内水腫を認める。ペルテス病と比較すると貯留液の粘稠度は低いが量は一般的に多い。このため、関節内圧が高くなり痛みはしばしば激しい場合が多い。痛みは1週間以内には和らぎ跛行も目立たなくなってくるが、水腫は1ヶ月以上続く。ペルテス病の場合には一般的に疼痛が緩和しても跛行が持続するので鑑別する際に参考となる。
原因はわかっていないが、ウイルス感染によるものと考える人が多い。また溶血性連鎖球菌感染症に合併することがあるのでASLOを測定し異常であれば小児科へ紹介する。2-6週の局所安静で自然治癒する。


化膿性股関節炎
股関節内に細菌が侵入した為におこる炎症です。起炎菌としては黄色ぶとう球菌が多いが、最近ではMRSAによる関節炎が問題となっている。

細菌が股関節内に侵入する主な経路は3つと考えられる。第1は、細菌性骨髄炎が大腿骨近位にある場合。この時、膿が骨髄から流出すると、解剖学的特性から股関節包内に移動して化膿性股関節炎が発症する。第2に関節内の滑膜などに血行性に細菌が到達して増殖する場合。第3には経路は、医原的なもので、たとえば大腿動静脈への針刺入を試み、誤って股関節内に侵入する場合などである。特に乳幼児で四肢の血管確保が難しい場合には股動静脈を利用するが、股関節は鼠径靱帯と大腿動脈との交点の直下の極めて浅いところにあるので、誤って刺入しやすい。小児科の先生は特に注意が必要である。

1。病状・検査

生後2-3ヵ月以内の赤ちゃんと、乳幼児期の子供では病状が異なることが多いので、分けて考える。

1)生まれて間も無い赤ちゃん(生後2-3ヵ月以内)の場合。

この時期は、まだ免疫系が未発達である為、抵抗力が弱く、感染力の弱い細菌に感染することがある。未熟児で生まれた赤ちゃんは特に注意が必要である。新生児集中治療室においては必要な検査の為に、瀕回の血管注射、カテーテルの血管内留置、多くのチューブやモニターの設置などで感染の機会が多いからである。

ひとたび化膿性関節炎が発生すると、細菌によって直接的に成長軟骨が破壊されたり、あるいは炎症反応などにより骨端核の栄養血管が障害され著しい後遺症を残すことも稀ではない。また、侵される関節は複数箇所の場合も少なくない。さらに、免疫系が未熟であると、通常みられるような感染に対する全身的な反応を欠く為、化膿性関節炎の発見が遅れることがある。従って、股関節の腫脹があったり、下肢の動きが悪かったり、関節付近を圧迫すると痛がったりする、というような所見を注意深く観察する必要がある。実際には赤ちゃんの股関節周辺には脂肪が多く、腫脹などを見つけるのは容易ではない。一方、こうした局所の所見よりも臨床の現場では髄膜炎や肺炎といった重篤な全身疾患の診断が優先されるため、可能性股関節炎の診断は遅れることが多いのが現状である。

検査については、免疫系が未発達な為、血液検査はあまり信頼できない。細菌の血液培養は50%が陽性と言われている。

骨シンチは有用である。何故かと言うと、感染がどこにあるかを発見するのに役立つからである。ただし、通常病巣は骨シンチ陽性である成長軟骨の近傍にあり、このため陽性であったとしても、細菌感染によるものか成長軟骨による正常の反応か鑑別が難しい場合がある。

超音波断層像による診断は股関節内に病変があるかどうかを確かめるのに有効である。

2)乳幼児。

 細菌が生体に入ると白血球は細菌を貪食し、その後自壊する。こうして膿が形成されるが、膿には白血球内に含まれていた酵素が多く含まれており、関節軟骨と直接接触してこれを融解してしまう。関節内の膿は他の部位と異なって、自然排膿しにくいので、放置しておけば関節そのものが破壊されることになる。また、原因となっている細菌そのものも酵素を分泌し関節軟骨を破壊する。
 症状としては発熱、股関節痛ならびに同部の腫脹が見られるが、乳幼児の場合には痛みの部位を訴えることが出来ないので注意深い観察が必要となる。多くの場合に膿による上昇した関節内圧を下げるため股関節軽度外転・外旋位をとり、自発的な運動が見られなくなる。また他動的に動かせば痛みのため号泣する。原因不明の発熱に出会ったら化膿性股関節炎も常に考慮する必要がある。
 新生児と異なり、血液検査により、白血球の増加、CRP上昇などの感染症一般における所見が得られることが多い。
超音波断層像で関節内に膿が貯留していることが証明される。単純性股関節炎、ペルテス病初期との鑑別が重要だが、貯留した膿の画像は澄明でないことも参考になる。ただし、少数例で画像診断が困難だったり、菌の毒性が弱く、血液検査で感染の徴候がはっきりしない場合もあるので注意が必要だ。

2。急性期の治療
 化膿性股関節がすこしでも疑わしければ直ちに穿刺を行う。針の径が小さくて膿が吸引されない場合があるので、膿が検出されなくても感染の疑いを捨てることはできない。確実なのは関節鏡を行うことである。関節鏡検査をおこない、得られた膿を培養・細菌感受性検査に出し、その後抗生物質の入った生理食塩水で関節内を充分洗浄して排膿チューブを入れておく。関節鏡検査の時に滑膜を一部採取して病理検査をすることも極めて有用である。一方で全身に抗生物質を静脈投与する。

 この疾患は救急疾患であり、少なくとも4-5日以内に治療しないと手遅れになる確立が高くなる。整形外科医はもちろん、小児科、救急・救命科を専攻する医師は関心を払わなくてはならない。

3。後遺症に対する治療

 以上のように化膿性股関節炎は急性期に見逃され、関節が破壊された後に整形外科に送られるケースがたくさんある。破壊が高度な場合の治療方法は学会でもホットな話題となっている。骨頭がどの程度破壊されているかによって治療方針が異なる。破壊が高度であっても骨頭がわずかでも残存していれば、脱臼を予防する処置を行う。たとえば大腿骨の骨切りによって骨頭の向きを正しくし、骨盤骨切りによって骨頭の安定化をめざす。しかし、さらに破壊が著しく骨頭が完全に消失している場合には、この方法を用いることはできないので大転子を骨頭の代用とするなどの方法が試みられている。

大腿骨頭辷り症
定義
 大腿骨骨頭の骨端が後方に転位する疾患である。アフリカ系アメリカ人に多く、アジア人に少ないと言われている。男子に多く、発症時には身体の大きな子供が多いが、例外もある。変形性股関節症の原因疾患の1つとして最近注目されてきている。
病因、病態、発生機序
 原因不明である。肥満の男子に多いことからホルモン異常が発症と関係している。骨端が辷る部位は大腿骨近位成長軟骨の肥大層であり、転位の方向は後方である。関節鏡検査では滑膜炎症所見や、臼蓋軟骨の糜爛が見られる。
臨床症状
 通常は股関節痛と跛行を訴えるが、突然発症して激痛を伴うものから、痛みをほとんど自覚しない例まで発症様式は様々である。無症状のまま経過し、高齢になって変形性股関節症を発症して初めての発見されることもある。通常片側より発症するが、30%の症例が両側例である。
 股関節を伸展から屈曲位にもってゆくと外旋位となる(Drehmann sign)のが特徴的である。
検査
 股関節開排位でのX線診断を行うと大腿骨骨端が後方に辷っているのが確認できる。MRIでは骨端の辷りだけでなく骨幹端に低信号領域を認めることができる。
治療
 骨端が辷らないようにピンで固定する。その後関節可動域拡大訓練をおこない、骨頭の球形を回復させる。骨端の転位が大きい場合には大腿骨近位の骨切り術が行われる

その他の股関節疾患

若年性関節リュウマチほか自己免疫疾患、リュウマチ熱、心因性関節炎、他

内反足

定義

生まれつき足の部分が内反・内転・尖足になっている原因不明の疾患である(ただし、神経筋疾患、多発性関節拘縮、骨系統疾患など、他の疾患に伴う場合は通常含めない)。発生率は0.1%といわれている。

病態
 この疾患における変形の本質は、足にある骨のうち距骨と、距骨と関節を形成している骨(踵骨、舟状骨)とが正しい位置関係を失った状態、すなわち、距骨に対し、周りの骨群が全体として内転(内回旋)していると考えられる。距骨と踵骨の関係を調べると、踵骨は距骨の下に向かって内転・回旋しながらもぐり込んでいる。このため距骨の前方部分は上に持ち上げられ、足全体としては凹足(足の甲が高い)を呈する。

先天性内反足のまま成長すると、足底が正しく接地することが出来ず、足の外側をついて歩く事になり、このような状態では靴も履きにくく、歩行が著しく制限される。治療にかかわらず変形が残存すると、歩行時に体重が足の外側に過度に加わり、足の指の骨折や、痛みを将来する原因となる。また、歩行時に筋肉が正しく働かない為に、疲れやすくなる。内反足がある側の筋肉は萎縮し下腿は細く見える。

診断

全身状態をよく見て、先天性内反足以外の内反足と鑑別することが大切です。

まず、脊椎を詳しく観察する(足の変形を見たら脊椎脊髄疾患を疑うこと)。二分脊椎などでは下位の障害でも足の変形が生じる。先天的な脊椎奇形による神経麻痺が原因のこともある。生まれつきの骨系統疾患、たとえばラルセン症候群などでは内反足は必発である。脊椎骨端異形成症、クニースト症候群、 diastrophic dwarfism, その他いくつもの疾患では内反足を伴う事が多い。神経筋疾患たとえば関節拘縮症(とくにdistal arthrogryposis)なども重要診断項目である。もしこうした疾患が根底にあるとすると、他の変形治療との関係で治療方針は変わることがある。これらが原因となって発生する内反変形の治療はほとんどの場合手術療法が必要である。脳性麻痺において発生する場合は通常後天的だが、時に先天的な場合もある。

局所に目をやれば、拘扼輪症候群、半肢, 中足骨内反, などとの鑑別も必要となる。中足骨内反では、足の指の骨(中足骨)が内側に曲がっているもので、幸い6割りが自然治癒することがわかっている。また、しばしば間違えられるのが、単なる内反位足だが、これは母体内で足の部分が内反位をとっていた、ということが原因と考えられるが、外見は似ていても、骨どうしの配列には問題が無く、柔らかく殆どが自然治癒する。半肢(特に脛骨欠損)の場合は見た目は内反足でも病態と治療方針は先天性内反足とはまったく異なる。

視診・触診でおよその重症度は判定できます。矯正位でX線撮影をおこなって診断するのも良い方法である。最近ではMRI, 3D-CTなど診断に利用されてきている。

治療

初期治療はこの変形に対し徒手操作によって矯正する。年齢が低ければ足の骨周囲の靱帯や関節包などがまだ軟らかいので矯正効果は大である。まず徒手操作によって、距骨とその周囲骨群との配列異常の矯正に全力を傾ける。この時のポイントはリズミカルにそして赤ちゃんに優しい矯正操作を行うことであり、矯正操作をしている間に赤ちゃんは気持ちよくなって寝てしまうことが多い。赤ちゃんを泣かせるような操作は(アキレス腱伸長以外では)できるだけ避けなければならない。このことは他の疾患の治療についても同様である。

矯正操作が終われば、矯正位置でギブスを巻く。これを繰り返して1週以内には正しい形に持ってゆければ良い。矯正位が得られればあとはこれを維持するためのギブス固定を続けます。矯正がうまくゆけば、これを3ヶ月維持できれば再発はしにくくなります。その後は装具を装着する。矯正の維持の目的でデニスブラウン装具を使う事もある。

内反足の本質的な部分(距骨とその周囲の骨との病的な配列)は多くの場合上の操作で矯正することができますが、尖足(アキレス腱の短縮や足関節の拘縮)の矯正は難しい場合がある。その場合には後に手術的に尖足の矯正をおこなう。

先天性内反足も他の多くの疾患と同様に、重症度がある。重度の場合は徒手矯正による治療には限界があり、変形の本質的な部分に対し外科的治療を行わざるを得ない。実際には早期(生後2-3日以内)に治療を開始してもまったく手術なしで完全に治癒するのは15%ほどといわれている。

 徒手矯正をおこなっても変形が残存していれば手術療法が行われる。時期についてはいろいろ意見があるのですが、通常は生後4-6ヶ月以上になった頃行る。この時期になれば全身麻酔が安全にかけられるようになるからである。

学童期以降に変形が残存していればイリザロフ法による矯正が適応となるかもしれない。診断が正しくおこなわれれば、それに応じた治療法が選択され、最終的には完璧とはいかないまでも満足する結果が得られる。