ペルテス病

@ペルテス病とは何か、その原因は

ペルテス病とは生後18ヶ月(1歳半)より骨成熟(大腿骨頭の成長が終了する)までの間に発症した、大腿骨頭の血行障害により生じる壊死の病気をいいます。骨頭の血行障害は外傷や股関節の手術や股関節脱臼の治療過程においても生ずることがありますが、ペルテス病には主にそのような明確なきっかけ無しで生じるところが一つの特徴です。股関節が急に炎症を生じて関節内に水がたまる股関節炎(単純性股関節炎)よりペルテス病に発展するリスクも報告されていますが、詳細な検討によれば意外と少なく、股関節炎からペルテス病に移行するのは多くみても確率は1〜2%程度とも言われています(Landin)。

これまでにペルテス病の原因として報告されているものとしては以下のごとくです。

1) 繰り返し生じる外傷による血行障害 : 外傷説ともいわれています。腕白な男の子に多い、また患者さんの3割程度が多少多動気味(広い意味でのADHD)であるというデーターもあり、日々繰り返される小さな外傷がまだ脆弱な骨頭に影響を及ぼした結果であるという考えです。

2) 解剖学的に阻血になりやすい : 古くから主張されている考えで(Ogden)、子どもの大腿骨頭は成長軟骨により骨髄から分離した形態であるため、骨髄からの血行路はなく島状に浮かんだ状況にあります。通常3本の血管より栄養されているのですが、6−7歳の特に男子は血行路は1本であることが多く解剖学的に阻血になりやすいといわれています。

3) 関節液貯留による関節内圧上昇が阻血を招く : 血管が外部から閉塞される血管外因子を指摘するもので、関節液がたまる単純性股関節炎などから血行障害に至るという説です。この考えは北欧の研究者(Wingstrand)により以前から支持されています。否定的な見解もありますが(Landin, Kallio)、わが国の井上先生(久留米大学前整形外科教授)がJBJSに記載された非常に有名な double infarction theory (2回の阻血がペルテス病をもたらしうる)が示すように、繰り返し関節内圧が高くなる状況があるとペルテス発症につながる可能性はあると思います。

4) 血液が固まりやすい :3の血管外因子に対して、血液が固まりやすいという血管内因子に言及するものです。これには主に2つの原因が考えられています。 4-1:血液が固まりやすい体質である、つまり血液の中の凝固因子が働きすぎている場合や凝固した血液を溶かす因子が不足しているという体質のときペルテス病が生じやすいと報告されています。家族内発生の例もあり(当院でも母親とその二人の息子さんがペルテス病という例もあります)、研究者により遺伝子の同定が進められています。 4-2:環境因子からもたらされる、すなわち近年報告されている家族の喫煙による関連(セカンドハンド スモーキング)です。関連あるなしでまだ定まった意見はありませんが、ヨーロッパの中でも喫煙率の高い北アイルランドでは虚血性心疾患とともにペルテスの発生率が高く、この説を支持する研究者が増加しているのも事実です。

5) その他 :a)出生時体重が少ない未熟児に多い、b)小柄な低身長の子に多く、骨年齢が遅滞しているときに生じやすい、c)都市部に比較的多く、農村などでは少ない などなど様々な見解がこれまで報告されています。

ペルテス病の発症原因はいまだ明らかではありませんが、現状では上記のごとく報告されている要因が様々に組み合わさって生じる疾患であるように考えられています。

@ペルテス病の治療

ペルテス病の治療には大きく分けて保存的治療と手術的治療があります。いずれの治療を採用するにしても最大の目的は治療後骨成熟期にいかに骨頭が球面に近づくか、ひいては成人期に変形性関節症にならないようにするのが目的です。次に重要なのは脚の長さ(脚長差)や股関節の形態の保持であり、これらは歩容に関係します。治療方法を決める上で重要なのは発症年齢、重症度(どれだけの範囲が壊死か、もうどれだけ骨頭が潰れているか)、地理的・家庭環境の状況です。これらの因子を勘案して、私どもは同等な成績が得られるなら保存的治療を、そうでなく手術的治療の方が優れた成績をもたらす可能性が高い場合には躊躇なく手術的治療をお勧めしています。

年齢から見た治療選択

1.5歳未満で発症した場合は可動域を保ちながら見守る(supervised neglect)手法がよく採用されます。多くの場合この方法で最終成績も良好、つまり丸い骨頭になってくれます。しかし中にはそうで無い方もおられるのも事実です。”低年齢発生は必ずしも良好な成績へのフリーチケットではない。”という記載も近年学会や学術誌でみられています。この点について当センターで調査してみました。

調査結果によれば、5歳未満で発生した例において、発症後3年経過した時点で骨頭変形が明確であったり、骨頭が臼蓋(股関節の受け手、ソケット側)より30%以上はみでている場合には最終成績が不良となる可能性が高いことが判明しました(片岡2006)。今後はこのデーターを基にして補正手術の追加なども検討したいと思っています。

2.5歳〜8歳発症 : 5歳代発症はどれだけ壊死範囲があるか、どれだけ潰れているかの重症度に応じて治療を必要とするかを決定しています。軽微な方は比較的少数ですので、実際は保存的治療(装具)や場合により手術的治療が必要な方が多いと思います。この年代を含め、5〜7歳代発症で、治療開始時にほとんど骨頭が潰れていなければ装具療法でも良好な成績が得られることも少なくありません。重要なのは装具療法には患者家族を含め、治療者側にも継続した情熱が必要であることです。装具が家庭環境の事情などでうまく着けられない、地理的に遠くに居住していて、装具や可動域のチェック目的での月1回程度の診察に来ることができないなどの場合には成績が低下することもあります。装具治療は確かに活発なお子さんをいろいろな点でコントロールしていく上でも難しい面があり、治療者側にも装具治療を遂行していく十分な情熱が必要です。

私どもの調査(SPOC装具治療を行った85例の骨成熟期までの調査、二見 2004)では8歳代発症は治療選択における一つの分岐点でした。8歳発症例に装具治療(SPOC装具)を行った症例を検討すると最終成績不良例が8歳未満発症に比べ増加する傾向にありました。特に治療過程で骨頭の高さがもとの60%以下に潰れてしまった場合には最終的に骨頭は丸くならず成績不良になっていました。したがって、当センターでは成績不良になるリスクをお持ちの8歳代発症の方には手術治療をお勧めしています。

3.9歳以降発症 : 9.0歳以降の発症では保存的治療の成績が低下することは学会、学術誌でも一致した見解です。その要因としては骨修復までの時期が短い、骨修復能自体が低年齢児と比較して不十分であることなどです。当センターでは9歳以上の場合には臼蓋側、大腿骨側、あるいは両者の同時手術により少しでも骨頭が球面となり成人期以降の変股症の予防を目指しています。

4.11・12歳以降の発症 :成人の骨頭壊死に次第に近づく、通常の治療(ソルター手術単独、大腿骨内反骨きり術単独)では成績不良例が多くなるグループです。この年齢では治療開始して1年以内に骨端線が閉鎖するかどうかを予測することがきわめて重要です。もし1年以内(骨頭の修復には最低1年必要)に骨端線が閉鎖してしまうと骨頭の壊死部分の修復は極めて不良となってしまいます。その際には成人と同様な壊死部分を荷重部位より逃がす、杉岡式骨頭回転骨きり術などの適応となります。当センターでは骨盤の骨年齢(Oxford式)より骨端線閉鎖までの期間を推定し、小児のペルテス治療である包み込み(containment)か成人の骨頭壊死の治療かを選択しています。これまで9歳以上12歳代発症までの高年齢ペルテス病に対して、トリプルオステオトミーを中心とした包み込みによる治療を行い予想以上の良好な成績を得ています。詳細のデーターは近くこのHPに掲載します。

ペルテス病で重要なことは、1)早期診断、2)骨頭の包み込み、3)可動域を広げる訓練、の3つです。

まず、早期診断の重要性です。この疾患の特徴は、病変部と症状出現部位とがかならずしも一致しなかったり、初期にX線診断が難しいことです。そのため発症初期において非常に見逃されやすく、発見された時はすでに骨頭は完全に潰れて著しく変形していることがまれではありません。高度な変形が生じるとこれを球形に形成してゆくことは容易ではありません。

治療学において重要なことは、骨頭を臼蓋の中に完全に包み込み、その上で可動域を拡大する訓練をすることです。包み込みと同時に訓練が重要なのです。これはどの教科書にも書いてあるはずですが、このことが意外と忘れられています。

ペルテス病の診断(2007年4月8日更新)

ペルテス病の治療概略(2007年4月8日更新)

ペルテス病にたいする保存療法(2004年6月5日更新)

ペルテス病にたいする手術療法(2006年9月17日更新)

ペルテス病に関する御質問集(2001 年まで)

ペルテス病に関する御質問集(2002年)

ペルテス病に関する御質問集(2003年)

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