麻疹撲滅を目指して
彦根市医師会公衆衛生部 橋本進一
はじめに
本年になり某中学校の修学旅行後に、麻疹が集団発生し数人死亡したことは皆さん記憶に新しいことでしょう。 麻疹は急性呼吸器感染症であり、飛沫核感染(空気感染)により人から人へ高い感染力を有するウイルス性疾患です。感染した場合の発病率も非常に高く、手を抜けばたちまち蔓延し、ともすると死ぬ病であるということを再認識すべきです。そして、ワクチン接種率を是非上げていかなくてはなりません。
麻疹の流行状況
現在世界で、毎年約4500万人が麻疹に罹患し、うち100万人が死亡(45人に1人が死亡)しています。感染症では死亡原因の第7位です。日本では年間患者約20万例、死亡数約50例と推定され、疾病が十分にコントロールされているとは言えません。麻疹はWHOの予防接種拡大計画(EPI)の対象疾患の一つであり、ワクチンによる撲滅を目指しています。米国では高いワクチン接種率(90%以上)の結果、既に麻疹の流行はなくなり患者もほとんど発生しません。日本からの出国者が米国で発症し流行の発端となった事例も報告されており、米国は日本に対し麻疹輸出禁止を求めているほどです。日本のワクチン接種率は70%前後と先進国としては低レベルで、疾病コントロールが改善しない最大の原因です。今年日本では、推定年間患者数が27万人でここ10年間の最高になる見通しです。その患者のほとんどがワクチン未接種であることから、日本小児科学会は、予防接種率向上を求める要望書を厚生労働省に提出しています。
ワクチン接種状況と問題点
彦根医師会でも予防対策の一助とする目的で、予防接種歴調査を実施しました。まず、全体のワクチン接種率(74.9%)は全国平均レベルです(表1)。年代別には平均接種率が、幼稚園(78.9%)、小学校(75.3%)、中学校(73.4%)と若年者に接種率が高いことは好ましいことです(表1)。幼稚園から中学校までワクチン接種者の発病は確認されておらず(表1)、接種率が高い施設ほど麻疹罹患率が低率です。一般的にワクチンの有効率は95%以上で、血清抗体価は1回のワクチン接種後10〜20年経過しても低下しないことが示されています。また興味深い現象として、ワクチン未接種・未罹患者は年齢とともに発症者が増え、幼稚園終了までで未接種者の約4分の1、小学校修了までで未接種者の約半分、中学校卒業までで未接種者の約4分の3が麻疹を発症します(表1)。接種率の地域間格差(30%以上)は問題で、この差が罹患率に反映されています(表2)。ワクチンの接種率により、麻疹に罹るものが皆無もしくはそれに近い地域もあれば、5人中1人も発病している地域もあるのです。ここで幼稚園B,Cは接種率が90%以上と極めて高く、その効果により罹患率も極めて低率です。この幼稚園と同一地区の小学校C,Dはワクチン接種率が他の地区と比べて極端に高くありません。にもかかわらずC,D小学校の罹患率が低レベルにコントロールされている点は注目すべきです(表2)。つまり幼稚園卒園までで麻疹をコントロールできれば、それ以降の年齢における発病を阻止できる可能性が高いということです。一般的に麻疹患者の年齢分布は2歳台までで60%を超え、この乳幼児期にいかに発症をコントロールするかが、インフェクションコントロールの鍵です。なお、同地区は当医師会管轄内の少ないワクチン接種無料地区であることを付け加えておきます。未罹患・未接種者が多数の施設もあり、A幼稚園は園児の4分の1近くにもなります(表2)。このような乳幼児期の接種積み残しは重要な問題です。また、現行予防接種法による対象年齢は1歳から90ヶ月までで、予防接種対象年齢外の小中学校の未接種者対策も必要です。
考察と結論
以上より、まず接種率を100%に近づけることが、最も重要です。しかもそれを予防対象年齢早期(1歳になったら即)に完了することです。そのために我々が行うべきことはワクチン接種の啓蒙活動と接種無料化の行政への働きかけです。乳幼児期のワクチン接種積み残しに対して当公衆衛生部は学校医部と協力し、今年より小学校就学時健診の際に積み残しの確認と接種を勧めることになりました。予防接種率やインフェクションコントロールはその国の生命倫理観、公衆衛生、健康教育、国際性の指標であります。麻疹撲滅に対して関係者の方々のご理解、ご協力をお願いいたします。
最後に小児科でもなく感染症の専門家でもない私にこのような紙面を与えていただいた彦根医師会、公衆衛生部ならびに諸先生方に厚く御礼申し上げます。
フリーコラム
野洲川の思い出
山崎外科 松村 幸次郎
52年になる我が生涯のなかで、純真無垢な最高の思い出は小学校時代の夏の川遊びだ。それ以前の遊びは、記憶はあまり定かではなく、またそれ以後のものは、受験戦争の影響や成長につれ複雑になる人間関係、あるいは仕事や家庭ストレスなどで喜怒哀楽が入交り、積極的に回想したいとは思わない。毎日近所の野洲川に大きなたもを持って魚を追いかけた。その頃の野洲川は水も澄んで水量も多く、淵や浅瀬など変化に富み、いろんな種類の魚が棲んでいた。網はもちろん、手ずかみや石打ちなどで子供でもそれなりに収穫があり、家に持ちかえると、皆から誉められ、夕食のおかずを彩った。就中、至宝といえる思い出は父親との投網漁だ。農家の10人兄弟の次男坊で、古い商家に養子にきた父は、最終的には製麺業で家族を養った。朝早くからメリケン粉を練り、ひきのばし切断する、孤独で単調な作業を黙々と続けた。完成した乾麺は、母親に届けられ大釜でゆがかれて、光沢あるうどんやラーメンに変身する。これを、得意先の食堂にバイクで配達して一日の仕事は終了する。あとの追加の生産や配達は、残された女子供に任された。開放された午後の数時間は、趣味の山遊びや魚とりにあてがわれた。なにかと器用だった父親は、投網もうまく、野洲川の3名人の一人に数えられていた。俊敏に移動する鮎の群れと川原の状況を瞬時に判断し、正確にイメージどうりの形の網を打つ。その直後、傍らで息を潜めて待機していた息子は、喚声をあげて網先に突進する。あとは木わくにガラスをはめこんだのぞきを口にくわえて固定し、網の中を逃げ惑う魚を追い詰め、やすで刺し仕留める、その楽しさは筆舌に尽くしがたい。防水、防寒のため胸からゴムまいかけを掛け、くわえ煙草をうまそうに吸う父は川原ではいつも優しく、頼もしく、帳簿整理したあと毎晩泥酔して家族を困らす醜態に対する憎悪の念を幾分か補填していた。父との投網遊びは、岐阜の大学時代まで続いた。病院勤務が始まり、結婚もして僅かに与えられた夏休みは、家族のために費やされ、水口に帰る機会も極端に少なくなった。息子家族の帰宅を待ちつつ、父は夏になるとひとり投網を続けていたが、それも母親の急逝で終了した。苦労ばかりかけた彼女の突然の消滅は、彼をもぬけの殻にした。その後、岐阜へ父をよび同居生活が始まったが、どこか虚ろな表情はいつも消えることがなかった。焼け付くような夏の青空をみあげるたびに、野洲川の川風と苔の匂いを思い出す。
ある年の夏
宮下医院 宮下ひろ子
昔、夏休みの宿題といえば絵日記・工作・夏の友が定番だった。子供の頃の私はせっかちで、宿題は休みの初めに終らせてしまい後はひたすら遊び回っていた。ところが成長するにつれて追い詰められないとやらない性格に変貌し、現にこの原稿も先日の講演会場でO先生の顔を見て思い出し、書いている位だ。新しい事は忘れても昔の記憶は鮮明だというが、毎年同じような平凡で単調な日を送っていた身では夏の思い出といっても特に書くことはない。...と思っていたらふと、すっかり忘れていた遥か昔の大学時代の夏の事を思い出した。その年、東日本医科学生総体が岩手県で開催され、テニス部に所属していた私も出場した。大学に入ってから始めたため友人達と比べると随分下手で、枯れ木も山の賑わい位の気分で出て本人も周囲も何の期待もしていなかったのに、その時はどういうわけか勝ち進んで、たしかベスト8位まで行ったように記憶している。地元の新聞記事に小さく名前が載ったのを切り抜いてお守りにし、大会が終った後はテニス仲間と一緒に東北の同級生の家を訪ねることにした。当時の学生はみんなそうしていたように思う。奥入瀬・田沢湖を巡り、恐山に登り、霧に包まれた尻屋岬へ行き、弘前・岩木山まで足を伸ばしたが、短期間にどうしてそんなにあちこち行けたのか覚えていない。やはり若かったからだろう。時はちょうど東北三大祭の最中。青森のねぶた祭には、そんな祭のあることも知らなかった私は大変感動した。当時は街に高層ビルもなく、広広して明かりが少なかったから、遠くから見たねぶたは小さな武者が光り耀いて舞っているようで美しく、あちこちで揃いの衣装を着た人達が楽しげに跳ねていた。今年の夏テレビで、カラス族とやらが勝手気ままに暴れて困るというニュースを見たが、伝統がだんだん壊されていくのは寂しい。いつかもう一度ねぶた祭を見に行きたいと永年思っていたが、テレビの画面に映し出された市内の様子からすると行かないほうが良いだろう。青森を満喫した後、仙台に向かう夜行列車に乗った。車窓から見た夕闇の中の浅虫温泉の鄙びた旅館の灯りなど、今思い出すと古い映画のワンシーンのようだ。あの温泉も今は、鉄筋の建物が立ち並ぶありきたりの温泉街になっているのだろうか。あの時代、どの観光地も人は少なく、それでも各々の土地の人達は皆ゆったりと平和に暮らしていたように見えた。仙台の七夕を見、松島を遊覧して旅を終えた。日本がまだ長閑だった、列島改造前の話です。
第6回 これからの医療を考える会
平成13年10月12日 城医院 城 顯
これから超スピードで進む高齢化、経済の停滞という困難な転換の時代を迎えて医療の制度的及び質的変化を目指すことを提案して平成12年8月に日本医師会から発行された「2015年
医療のグランドデザイン」をテキストに検討しました。今回は第1部「これからの医療の目標と医療の質」という事について考えました。大きなテーマで日本の緊縮財政を考えると具体的かつ明快な結論が出しにくい大変難しい問題ですが非常に重要な事だと思います。「医療制度に関しては公的医療保険、医療関連法体系の整備など根本的な改正が必要になる。医療技術に関しては新しい手段や技術の開発と共に、情報の標準化、客観的評価により普遍化することがより重要となる。日本人の生活環境や食生活の変化に伴い、疾病構造が生活習慣病を中心とした慢性疾患にシフトする中で、「予防医療」とりわけ一次予防の充実が必要になる。終末期医療についてはとりわけ患者の自己決定権が重要となる。」これらの事について考えてみました。
第2部「2015年の医療体制」を11月と12月の二回に分けて検討する予定で、次回は11月9日(金)です。
各部報告
学校医部
◎学校医の先生方にお願い
まもなく各小学校にて児童の就学前健診が始まります。先月の例会でご報告させていただきましたが、就学前健診の健康調査表の中で、学校伝染病にまだ罹患していない児で予防接種も受けていない児童、特に「麻疹」については7歳半までに予防接種を受けることが望ましい旨(他の予防接種も同一です。市・町によっては7歳半まで無料で実施している所が多いので)付き添いの保護者に健診の際説明していただければありがたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
厚生部
◎第25回彦根医師会ゴルフコンペ成績(敬省略)
日時:平成13年9月23日(日)晴
場所:彦根カントリークラブ
優勝:堤 正昭 (グロス89.HDCP 18.ネット71)
2位:石島 裕
3位:上ノ山 一寛
BB賞:北村 彬
◎滋賀県医師会長杯ゴルフコンペ
日時:平成13年11月11日(日) 9時12分スタート
場所:彦根カントリークラブ
老健部
◎第18回健康のつどい講演会は10月6日に開催され、参加者は医師をはじめ保健婦、健康推進委員、一般など125名であった。
新入会員
◎豊郷病院
平成13年9月1日付 武田 佳久(外科)
◎彦根市立病院
平成13年10月1日付 佐々木 聖子(産婦人科)
平成13年10月1日付 兒島 淳二(眼科)
行事案内
◎彦根整形外科医会
日時:平成13年11月9日(金)午後7時30分より
場所:彦根医師会会議室
◎彦根消化器談話会
日時:平成13年11月13日(火)午後8時より
場所:彦根医師会会議室
◎学術講演会
日時:平成13年11月17日(土) 14:00〜16:00
場所:彦根医師会会議室
演題1:「最近の鼻疾患の治療について」
講師:彦根市立病院 耳鼻咽喉科部長 北西 剛 先生
演題2:「より良き医療に貢献する診断病理」
講師:彦根市立病院 病理診断科部長 松本 正朗 先生
◎彦根循環器談話会
日時:平成13年11月28日(水)午後8時より
場所:彦根医師会会議室
◎第45回滋賀県医師会学校保健学校医研修会
結核予防研修会(県医師会公衆衛生部主催)も同時に開催予定です。
日時:平成13年11月29日(木) 14:30
場所:彦根燦パレス
演題:サーカディアンリズムと不登校
講師:滋賀医科大学精神科 教授 大川 匡子 先生
彦根市立病院よりのお知らせ
ご紹介頂いた画像検査の結果をFAXで送信するサービスを開始します!
ご紹介頂いた患者様の検査結果に関しては従来からの郵送に加えて、ご希望の方には電子メールによる結果報告を行ってきました。今回、現行のレポートシステム画面から直接FAX送信できるシステムとなりましたので、FAXによる結果送信も行いたいと思います。従来のプリントアウト後のFAX送信と比べるとパソコン画面からの直接送信のため画質が良好で、画像もメールほどではありませんがディザリング機能により画質も向上しています。また、もしカラーファックス機をお持ちの場合にはカラープリンターで印刷したものに近い程度の画質を確保出来るかもしれません。システムからの直接送信のためFAX運用上問題となる番号の押し間違えによる他への誤送信の危険性はありませんのでセキュリティ面では比較的安心して運用できるかと思います。今後FAX送信を希望される場合にはFAX番号、FAX機の種類(カラー対応機か否か)をご連絡いただければ対応可能かと思います(なお、正式なフィルムと紹介状は従来通りの郵送を当分の間は続けます)のでよろしくお願いいたします。
連絡先:TEL:22-6050 FAX:26-0754
E-mail:Radiology-hikone@mb.city.hikone.shiga.jp
彦根市立病院 放射線科 河上 聡
院長 林 進
平成13年度11月例会のお知らせ
日時:平成13年11月26日(月)午後2時より
場所:彦根医師会会議室
編集後記
21世紀最初の今年の年始には特に変わりない年と思っていましたが、矢継早に起こる大きな事件や事柄に、なるほどこれが21世紀かと目が覚める毎日になってきました。来年の医療制度改革は報道される記事を読んでいるとまた骨抜きになるのではと安心していましたが、21世紀だから先行きの予想は外れるような気がしてきました。
岡田護、山下、三浦