【一】弘仁十三年四月、諸弟子に告げて言はく、若し我が滅後に皆俗服を着すること勿れ。
【二】又我が同法、飲酒することを得ざれ。若し此に違はば我が同法に非ず。亦佛弟子に非ず。早速に擯出して山家の界地を践ましむることを得ざれ。若し合薬の為にも山院に入るること莫れ。
【三】又女人の輩を寺側に近づくることを得ざれ、何に況んや院内清淨の地をや。
【四】又我れ生れしより以来、口に麁言無く、手に笞罰せず。今我が同法、童子を打たずんば我が大恩と為さん。努力めよ。努力めよ。
【五】又我が同法の中には第一に定階なり。先受大乗戒の者は先に坐し、後受大乗戒の者は後に坐す。若し会集する日、一切の所には内に菩薩の行を祕し外に聲聞の像を現じて、沙彌の次に居すべし。他の為めに譲らるる者を除く。
【六】第二に用心なり。初めに如來の室に入り、次に如來の衣を著し、終りに如來の座に坐せん。
【七】第三に充衣なり。上品の人は路側の淨衣、中品の人は東土の商布、下品の人は乞索随得衣なり。
【八】第四に充食なり。上品の人は不求自得食、中品の人は清淨乞食、下品の人は親施を受くべし。
【九】第五に充房なり。上品の人は小竹の円房、中品の人は方丈の円室、下品の人は三間の板室なり。造房の料、修理の分は秋節に檀を行ぜよ。諸国は一升の米、城下は一文の銭なり。
【十】第六に充臥具なり。上品の人は小竹・藁等、中品の人は一席一薦、下品の人は一畳一席なり。故に巨畝の地價は是れ我等が分に非ず。万余の食封は是れ我等の分に非ず。僧統所検の天下の伽藍は是れ我等が房に非ず。大師釋迦多宝分身來集の日文殊の問に答へて聲聞を求むる者を問訊することを許さず。一講堂の中に住することを許さず。一の経行處に共行することを許さず。是を以て食を朝來に乞ひ、撮飯を受て山中の飢口に供し、檀を秋節に行ひ、寸布を納れて雪下の裸身に着せよ。衣食の外更望む所無し。但出假利生の者を除く。
【十一】我が為めに佛を作ること勿れ、我が為めに経を写す勿れ、我が志を述べよ。
【十二】道心の中に衣食有り、衣食の中に道心無し。
【十三】毎日諸大乘経を長講し、慇懃に精進して法をして久住せしめん。国家を利益せんが為め、群生を度せんが為めなり。努力めよ。努力めよ。
【十四】我が同法等、四種三昧を懈怠すること勿れ。兼ねて年月に潅頂し、時節に護摩し、佛法を紹隆して以て国恩に答ふべし。
【十五】我れ鄭重に此間に託生して、三学を習学し一乗を弘通せん。若し心を同じうする者は、道を守り道を修し、相思ひ相待て。