メルコ「N2」「N3」下駄の詳細設定
メルコの「NK6-MD***-N2」や「HK6-MS***-N2(-N2000)」に採用されている下駄を一般に「N2下駄」(以下「N2」)、「HK6-MD***-N3」に採用されている下駄を「N3下駄」(以下「N3」)と呼びます。「N3」は「N2」にクロックマルチプライヤ技術を追加したもので、400MHzを超えるCPUを利用する際には必須になってきます。
これらの下駄は非常に奥が深く、また簡単な改造で最新のCPUに載せ替えることも可能です。
ここでは、これら「N2」「N3」下駄の詳細設定を解説します。
ただし、改造は自己責任で行って下さい。
電圧設定※「N2」「N3」共通
「N2」「N3」のVRM部分(コンデンサなどがついている部分)は共通です。
「N2」「N3」下駄には、National Semiconductor社のLM2635Mというスイッチング電源制御チップが使用されています。このチップには、VID0〜VID4という入力ピンがあり、これらのピンを以下に示すように組み合わせて、GNDに接続してやると、コア供給電圧を以下のように変更することができます。
「LM2635M」について詳しく知りたい方は、こちらから日本語版データシートが入手できます。
供給電圧 | R16 | R17 | R18 | R19 | R20 | 主なCPU |
VID0 | VID1 | VID2 | VID3 | VID4 |
1.80V | 無 | 有 | 有 | 無 | 有 | K6-2E+,K6-IIIE+ |
1.85V | 有 | 有 | 有 | 無 | 有 | |
1.90V | 無 | 無 | 有 | 有 | 有 |
1.95V | 有 | 無 | 有 | 有 | 有 |
2.00V | 無 | 有 | 有 | 有 | 有 | K6-2+,K6-III+ |
2.05V | 有 | 有 | 有 | 有 | 有 | |
2.1V | 有 | 無 | 無 | 無 | 無 |
2.2V | 無 | 有 | 無 | 無 | 無 | K6-2,K6-III |
2.3V | 有 | 有 | 無 | 無 | 無 | |
2.4V | 無 | 無 | 無 | 有 | 無 | K6-2,K6-III |
2.5V | 有 | 無 | 無 | 有 | 無 | |
2.6V | 無 | 有 | 無 | 有 | 無 |
2.7V | 有 | 有 | 無 | 有 | 無 |
2.8V | 無 | 無 | 有 | 無 | 無 | P55C |
2.9V | 有 | 無 | 有 | 無 | 無 | |
3.0V | 無 | 有 | 有 | 無 | 無 |
3.1V | 有 | 有 | 有 | 無 | 無 |
3.2V | 無 | 無 | 有 | 有 | 無 |
3.3V | 有 | 無 | 有 | 有 | 無 | P54C |
3.4V | 無 | 有 | 有 | 有 | 無 | |
3.5V | 有 | 有 | 有 | 有 | 無 | P54C |
上の表を見ていただくとわかるように、LM2635MのVID0〜VID4ピンが、「N2」「N3」のVRM部のR16〜R20のパターンに対応します。
「有」のパターンには、0Ω抵抗(バルク品の「N3」には付属しています)をはんだ付けし(もしくはリード線をはんだ付けするか、はんだを山盛りにしてショートさせて下さい)、「無」のところに0Ω抵抗がある場合は取り除いてください。ただ、これらのR16〜R20のパターンの近くには電解コンデンサがあり、細心の注意が必要です。
自信のない方は、LM2635Mのデータシートを参考に、対応するピンを直接リード線で結んでやればいいでしょう。
例えば、2.4V化させたい場合、R19だけをショートさせるか、LM2635Mの4ピン(SGND)と16ピン(VID2)を直接リード線で繋いでやれば良いわけです。
倍率設定※「N2」「N3」共通
倍率設定は以下のとおりです。VRM部のディップスィッチ「SW1」「SW2」と、下駄の裏にあるディップスィッチ「SW3」の組み合わせで設定します。「N2」には下駄裏のディップスィッチがありませんので、VRM部の「R15」のパターンをショートさせて下さい。「SW3」の「ON」/「OFF」が「R15」の「ショート」/「オープン」に相当します。
倍率 | VRM部 | ソケット部 |
SW1 | SW2 | SW3※ |
2.5倍 | ON | ON | OFF |
3.0倍 | OFF | ON | OFF |
3.5倍(1.5倍) | OFF | OFF | OFF |
4.0倍 | ON | OFF | ON |
4.5倍 | ON | ON | ON |
5.0倍 | OFF | ON | ON |
5.5倍 | OFF | OFF | ON |
6.0倍(2.0倍) | ON | OFF | OFF |
魔法機能※「N3」のみ
一般にPC-9821でK6を使用する際には、「魔法機能(A20ピンマスク制御)」が必要とされていますが、チップセットに430HX、430VXを採用した一部の機種では、魔法機能を切らないと動作しないことがわかっています。そういった機種の場合、魔法機能をOFFにし、PC/AT機用の設定で使ってください。
| ソケット部 |
SW5 |
PC-9821(魔法機能ON) | ON |
PC/AT(魔法機能OFF) | OFF |
クロックマルチプライヤ※「N3」のみ
K6系のCPUは6倍までの設定しか持っていない為、いくら高速なCPUを載せても、ベースクロックが66MHz以下のPC-9821では400MHz(66MHz*6)でしか、動作させることができません。そこで登場するのが、メルコの「クロックマルチプライヤ」技術です。ベースクロックを、下駄で仮想的に1.5倍、もしくは2.0倍にし、理論上800MHz(66MHz*2*6)までの動作を可能にします。ただし、メモリアクセスはベースクロックのままなので、総合的なパフォーマンスは、ベース100MHzのマシンには及びませんが、高速なCPUを利用できることによって得られるメリットは大きいでしょう。1.5倍では起動すらしないが、2.0倍では何の問題もなく起動する場合もありますので、両方試してみることをお勧めします。
倍率 | ソケット部 |
SW1 | SW2 | SW6 |
1.5倍 | ON | OFF | OFF |
2.0倍 | OFF | ON | ON |
ADSタイミング※「N3」のみ
先に述べたクロックマルチプライヤによって、例えば1.5倍に設定した場合、システムクロック(メモリアクセスなど)が2つ進む間に、CPUクロックは3つ進むことになります。この両者のタイミングを合わせるために設定するのが、この「ADSタイミング」と次に述べる「クロック位相設定」です。「ADSタイミング」を「高速」にすると、メモリなどシステム側の処理を繰り上げることによってペースを揃え、「通常」にするとCPU側を待たせることによってペースをそろえます。もちろん「高速」の方がパフォーマンスは上がりますが、私の経験では、なかなか高速では安定しません。まず、「通常」で位相などを合わせ、安定した場合に「高速」で試してみるといいでしょう。
クロック位相設定※「N3」のみ
「N3」で安定動作させる為に、もっとも重要な設定です。まず、「0」から始め、「-1」「-2」「-3」、その後「+1」「+2」「+3」と試していくのがもっとも効率がいいそうです。また、一通り試しても安定する設定が見つからなかった場合は、「-2」と「+1」など、複数の設定を組み合わせてみると安定する場合があるようです。
| ソケット部 |
SW7 | SW8 | SW9 | SW10 |
-3 | ON | ON | OFF | OFF |
-2 | ON | OFF | OFF | OFF |
-1 | OFF | ON | OFF | OFF |
0 | OFF | OFF | OFF | OFF |
+1 | OFF | OFF | OFF | ON |
+2 | OFF | OFF | ON | OFF |
+3 | OFF | OFF | ON | ON |
「N3」は設定しなければならない項目が多く、非常に奥の深い下駄です。色々設定を試して、お使いのマシンに最適な設定を見つけてください。