気が付けば、部屋に閉じ込められていた。 部屋の中にポツンとある机の上に置かれているのは一枚の紙と色々な色の油性マジックたちだった。 「ソニア」 先に目が覚めたらしい幼馴染へ声をかけると、彼女は困ったように眉根を下げた。 「おはよ、ダンデくん。ねぇ、これ一体どういうことなの? 私、どっかで頭打った……っけ……夢じゃないよね……」 ソニアはそう言って部屋を見回した、どうやって連れてこられたのかもさっぱり覚えていなかった。 「ダンデくん、この部屋に来る前に、ポケモンを見た覚えは?」 ダンデは首を横に振った。さいみんじゅつを使うようなポケモンを目にした記憶はない。 「そういえばリザードンは?」 ダンデが服につけているモンスターボールが見つからない。 「ワンパチ……。どこいっちゃったんだろう」 相棒の不在に気づき、ソニアが不安げな表情を浮かべた。 「……大丈夫だ。オレのリザードンも、キミのワンパチも弱い奴じゃない」 ダンデは笑みを浮かべる。チャンピオンの頃によく見た、自信に満ちた笑顔だ。 「……そうだね」 ソニアはぱし、と己の両頬を叩く。 「うん。……ここで悩んでても仕方ないよね。それよりもこの状況をどうにかしなきゃ」 ソニアは部屋を見渡す。閉じた扉があるだけの、真っ白な部屋。そして机。 「そういえば、机の上に何か紙が置かれてたよね」 「ああ」 ダンデは机に近寄ると、机の上に置かれた紙を手に取った。 【受け側が相手の身体のどこかに自分の名前を油性マジックで書き込まないと出られない部屋】 紙にはそう書かれていた。機械で作ったのだろう綺麗な文字が並んでいた。 こんなところに閉じ込めるような輩が筆跡を残すとは思えないが、他の方法を探る手掛かりが何もないのも歯がゆいと、ダンデは思った。 「……相手の体に自分の名前を書く」 「……そう書いてあるね」 と、ソニアはその紙を覗き込みながら相槌を打った。 「受け側?」 「……なんだろうね?」 そう言って、二人して首をかしげる。幼馴染だからだろうか、その仕草はよく似ていた。 世の中には「攻める」の反対語は「受ける」だと答える人々が存在する。だが、ダンデとソニアは、「守る」と答える人間だった。 「何を受ければいいんだ?」 逞しい腕を組み、ダンデは考えこんだ。 「わざ……?」 髪の先を弄りながら、ソニアが呟いた。 「そういえば、ジュードーのわざに『受け身』というものがあると聞いたことがある」 ダンデの決断は素早かった。両足を肩幅ほどに開き、重心を落とす。 「ソニアがどんなわざを繰り出しても、オレならば受けとめられる。さあ、来い!」 技の受け側。それならば体力のある自分のほうが相応しいとダンデが考えたのは、ある意味当然のことだった。 「よし来た!……って、待てまて!」 突然叫んだソニアにダンデは首を傾げる。 「絶対違うでしょコレ!ちょっと落ち着いて考えよう!?」 「そうか?」 落ち着くのはソニアの方では?ダンデは思ったが、今の幼馴染に下手なことを言えば火に油を注ぐのは目に見えていた。 くるくると指に髪を巻きつけながら思案するソニアを、態勢を戻したダンデは眺める。 「"受け側"が"相手の身体"に"名前を書く"ってことは、登場人物として"受ける人"と"その相手"の二人がいる。で、ここにいるのはわたしとダンデくん」 「……オレ達のどっちかが"受け"でもう片方がその"相手"?」 「うん。で、何を受けるのかって「技?」違う」 「受ける、ってことは相手の何らかの行為に対して受容するってことでしょ? わたしとダンデくんで行為の主体と受動が分かれること……」 ソニアはダンデを真っ直ぐ見つめる。そして不意に女性雑誌のある記事を思い出した。 思い出した。思い出したのだが、それを口にするのはソニアには憚られた。 「というか深く考えなくてもこのシチュエーションで難しい考えるだけ無駄な気がする。どこかに、名前書けばいいんでしょう?」 ソニアは、その紙を一瞥して白衣の袖を捲り上げていった。日に当たらない白い肌が白衣の下から現れた。 「……それもそうか」 と、ダンデはそれに倣うようにタワーオーナーの服の上着を脱いだ。タイを外し、上半身はシャツ一枚となる。 「確率は二分の一で当たりなわけだしな……早く出てワンパチやリザードンを安心させてやらないとな」 白いシャツの下からダンデの鍛えられた腕が現れて……ソニアは思わず、ドキッとしてしまった。 「レディファーストだ。まずは、ソニアが名前を書いてくれ」 ソニアは頷き、机に並ぶ色とりどりのマジックを眺めた。 名前を書くという目的を果たすだけならば、マジックの色を気にする必要はないのだが、ソニアは無意識のうちに、ダンデの肌に映える色を探し求めていた。 「どうしたんだ、ソニア?」 ダンデに名前を呼ばれ、ソニアはようやくマジックを手に取った。キャップを外し、顔に近づけて手で扇ぐ。 「変なニオイはしない、普通のマジックだね。ネイルの除光液で消えるけど、肌には刺激が強いから、名前を書く場所には気をつけないと」 頷くダンデの眼には、ソニアへの信頼が宿っている。それに応えるべく、ソニアはマジックを持ってダンデに近づいた。 「じゃ、じゃあダンデくん、手出して?」 「分かった」 差し出されたダンデの手にそっと触れる。己よりも大きく、ごつごつとした大人の男の手。昔彼が迷子になった時に握った時とは全く違うそれに、ソニアはドキリとする。 「とりあえず手の平かな。手は皮膚も厚くできてるから多分かぶれたりはしないと思うし」 高鳴る心臓を誤魔化すようにソニアは早口で言うと、ペン先をダンデの手の平へ向ける。 しかし、不意にソニアは"ソレ"を意識してしまった。思わず固まってしまったソニアを訝し気な目でダンデは見つめる。 「ソニア?」 「……っ」 ソニアは不審がるダンデに気付きながらも、何も答えられない。 (これ、何ていうかまるで……"相手は自分のもの"って言ってるみたいじゃない…………!?) 意識してしまった瞬間ソニアはとんでもない羞恥に襲われた。 「ソニア?」 不思議そうに名前を呼ばれたソニアは思わずダンデを見上げてしまった。 「そんな、心配しなくても、力を入れてかいても大丈夫だぞ? 多少くすぐったいかもしれないが、我慢はできるぞ?」 ソニアの心情など知る由もないダンデの声。いつも通りなのに安心するのと同時に、ドキドキしているのは自分だけだと思い知らされてチクリと胸が痛んだ。 「……色々心配してくれているが、手の平が心配なら腕でもいいぞ? 服の下なら見えないし……ここから出てすぐに落とせるとは限らないしな……」 「……ダンデくんが、いいなら、手の平がいい」 自分の物に名前を書くみたいだと思ってしまった。けれど、ダンデにその気が全くないのが少し寂しくて、名前を書いてしまえと、いう気になった。 この幼馴染はモテるのだ。そりゃぁもう、モテるのだ。恋人がいる気配ないけれど、モテるのだ。 私のものになってくれればいいのに。と、ダンデのその手の平にsoniaと名前を書いた。 ダンデの手の平に、オレンジのソニアが、浮かび上がった。 オレンジのマジックがダンデから離れても、扉が開く様子はなかった。 「なんで……?」 「まだ開かないと決まったわけじゃない。次はオレが書こう」 困惑するソニアの眼差しを受けながら、ダンデはマジックを手に取った。 ソニアが名前を書いた部分が、ひどく熱い。 名前を書くまでもなく、ダンデの心は、ずっと前から彼女のもとにあった。方向音痴と言われる彼でも、心のありかに迷いはなかったのだ。 「ソニア、オレは……」 険しい表情を浮かべながら、ダンデはソニアの白い手を見下ろす。その視線をどのように解釈したのか、ソニアが袖をまくった腕を、ダンデの前に突き出した。 「ダンデくんの手は大きいから、私の手だと名前が書きにくいかもね。手でも腕でも、描きやすい場所を選んで」 ソニアの声はわずかにうわずっていたが、ダンデが気づくことはなかった。 「……」 ダンデは目の前にある腕をじっと見つめる。細く、力を込めてしまえばあっさりと折れてしまいそうなほどに華奢な腕だ。 ……この腕が自分を導いてくれていた。昔も、今も。 「じゃあ、書くぞ」 「……うん」 ペン先をソニアの腕に押し当てる。紫のdandeという文字がソニアに刻まれる。 「……なぁ、ソニア。知ってるか?」 「え?」 「キスをする場所に、意味があるってこと」 「……は? …………はぁ!?」 ダンデの思わぬ言葉にソニアは呆気にとられる。 「ローズさんから聞いたことがあってな。……ソニアが書いたここは"懇願"」 「……!?」 「そしてオレが書いたここは――」 ダンデの言葉はソニアの腕に口付けたことによって途切れてしまった。 「!?」 ソニアの柔らかい肌にダンデの唇が触れる、名前を書いたその上から。それ押し付けて消さないようにするかのように。 「だ、だんで、くん……??」 キスをされたと理解するまで、少しの時間がかかってしまった。 「………………」 キスをしたときに伏せられていたダンデの目がそっと開き、金色の目がソニアを射抜いた。 「………腕に、キスするのは……何……?」 自分でも声が震えているのが分かるけれど、ソニアは声を絞り出してダンデに問うた。 ソニアの言葉を受けて、口を開きかけたダンデだったが……そこから、言葉が出ることはなかった。 「ソニアが知りたいと思ったら、調べてくれ」 「……なにそれ」 「……。いや……。一方的に、思いをぶつけられるのは迷惑だろうと……思って」 いつものダンデらしくない、歯切れの悪い言葉達。 「まだ、扉が開かないな……」 話を逸らすように、ダンデは扉の方を見た。彼の言葉通り、その扉には何の変化もなかった。 こんな環境で好きだと伝えるのはあまりにも……色気がない。 それを伝えるのは、ここから出てからだ……と、思いながらダンデはソニアを見たが……。 ソニアは、泣きそうな、悔しそうな……複雑な表情をしていた。 「今度は、私が別の場所に書いてみるね。マジックも、色を変えたほうがいいのかな」 マジックを選ぶために机に向き直り、ソニアはダンデから視線をそらした。チャンピオン時代のダンデは「みんなのもの」だった。そのせいで幼いホップが寂しい思いをしたことを、ソニアは知っている。 チャンピオンを退いてもなお、ガラルのヒーローと称えられる男を、自分のものにしたいなどと、身に過ぎた発想だ。 そんな思いが、名前を書く位置に無意識に現れたのだとすれば。 次に名前を書いたときには、ソニア自身も正視できない、醜い感情が姿を見せるのかもしれない。 マジックを握り、ソニアは呼吸を整える。何よりも優先するべきは、この奇妙な部屋から出ることだ。 「受け側が相手の身体のどこかに自分の名前を油性マジックで書き込まないと出られない部屋に閉じ込められました。頑張って脱出してください」 机に置かれた紙の文字を改めて目で追ったソニアの内側で、違和感が膨れあがった。単に、相手の体に名前を書くだけならば、マジックを何本も用意する必要もなければ、頑張る必要もない。 まだダンデの唇の温もりが残る腕で、ソニアは紙を引き寄せた。 「……ソニア?」 紙を裏返したかと思えば、光に透かすソニアに、ダンデが声をかける。 「ダンデくん。……もしかしたらだけど。さっきのキスの場所が、この部屋を出るヒントになるかもしれない」 ソニアの顔は赤かったが、その瞳に迷いはなかった。 「どういうことだ……?」 「この紙なんだけどさ、透かしの細工がされてるの」 ソニアに促され、ダンデも光に透かされた紙を見る。 「これは……」 ダンデは思わず呟いた。 ――貴女の目の色、望むもの。 それだけが書かれていた。 「多分だけど、"貴女"の目の色ってことは使うマジックペンは緑……」 「……ソニア、キミの、望むものとは何だ…………?」 ダンデは問う。それは、ソニアが今までひた隠しにしてきたものを抉り出す問いだった。 ソニアは思い出す。雑誌の片隅に書かれていた小さな記事を。そして、己の望みと照らし合わせる。 わたしがずっと隠していたこと。……ずっと、あなたに望んでいたこと。 「……ダンデくん」 「……ああ」 ソニアの強い意志を孕んだ瞳にダンデは息を呑む。僅かな静寂の後、ソニアは告げる。 「ダンデくん。……とりあえず服を脱いでくれるかな」 「…………はい?」 「あ、シャツだけでいいから」 ソニアの言葉にダンデはフリーズした。 「……脱ぐ」 「うん」 短いやり取りのあと、沈黙が訪れた。視線も合わず黙り込む。 「えっと……理由を話すね」と沈黙に耐えられなくなったソニアは口を開いた。 「私が望むもの、なんて、私しかわからないでしょ? なのにこの紙には、私の望むもの……って書いてある。さっき、ダンデくんの言ったキスの場所に意味がある、っていうのと照らし合わせて体の部位、それぞれ意味を持ってる……と考えたんだ」 ソニアは頭を整理するようにダンデにそう話した。 「だからさ、ダンデくんが知ってる意味も、ちゃんと教えて」 「……その言い方だと、ソニアも、意味は知ってるのか?」 てっきり知らないと思って、はぐらかしたのに、すでに知っているなら滑稽なことをしたと思いながらダンデはソニアにそう尋ねた。 「雑誌でちょっと見たぐらい。……だから、ちゃんと教えて」 そうは言うものの、先ほど脱げといったのだから、あらかた分かっていそうだと思いながらダンデはゆっくり、シャツのボタンを外し始めた。 「はっきり全部、覚えてるわけじゃないが……唇は当然"愛情"だな」 「うん」 「頬は"親愛"」 「額は"友情・祝福"」 手の平の、所有印がちらりと目に入りながらボタンを一つ、二つとゆっくり外していく。 あまりじろじろ見ても悪いとは思うのだけれど、ソニアは目が離せなかった。 「さっき言ったが、手の平は"懇願"」 「うん」 懇願。私のものになって欲しいという、ずっと抱えていた願い。それに嘘偽りはない。 ボタンを外す手を止めたダンデはおもむろにもう片方の腕も袖を捲り上げた。 「ソニア。君が言う脱ぐは、きっとこれで十分だと、思うんだが、どうだろうか」 あぁ、これで間違っていたらとんだ自惚れだな……、と自嘲気味に内心思いながらダンデは喉から、胸をソニアに見せるように少し、顎を上げた。 ダンデが顎を上げると、喉仏がソニアの視界に飛びこんできた。 はだけた白いシャツから、鍛えられた胸がのぞいている。 自分の内側からこみ上げるものに、目眩すら覚えながら、ソニアはマジックのキャップを外した。 「わたしの望むもの。ダンデくん、わたしは……」 揺れるソニアの視線を受けながら、ダンデは微笑んだ。 「オレのことなら心配ない。名前を書く前に言っただろう。オレがキミを受け止めると」 「ダンデくん……」 ダンデの言葉に安心感を覚えるのと同時に、ソニアは覚悟を決めた。マジックを手に、ダンデに近づく。 「くすぐったいかもしれないけれど、ちょっとだけがまんしてね?」 「キミになら、何をされても平気だ」 そんなつもりはないだろうに、呼吸をするように殺し文句を口にするのがダンデという男だ。そんな幼馴染に、そんな男に、ソニアは瞳の色のペンで思いを綴る。 まずは首筋。トレーナーを辞めても、ソニアはダンデとのつながりを断ち切ることができなかった。そこに、執着があった。 「首筋へのキスは、"執着"」 「お願い。頼むから今だけは黙ってて」 ソニアはマジックを首筋から喉に移動させた。彼としたいことと、彼にして欲しいことが、彼女の中には数え切れないほどあった。 シャツを汚さないようにつまみあげる。鍛えられたダンデの胸は、女性のものとはまるで造りが違っていて、ソニアは思わず息を飲んだ。 私のものになって欲しい。そして、あなたのものになりたい。自らの浅ましさに寒気すら覚えながら、ソニアはダンデの胸に名を記す。 「ここが、最後」 ダンデの手首に手を添え、ソニアは至近距離から男を見上げた。 ダンデは打ち震えていた。背筋がゾクゾクと痺れる。試合前とよく似た、しかし別種の高揚感がダンデを満たしていた。 あのソニアが。己にはどこか感情を隠すところのあるソニアが。こうして今、絶対に見せようとはしなかった、生々しい感情をぶつけている。 「……ソニア」 ダンデの低く、掠れた声に、ソニアはびくりと身体を震わせ、ダンデの手首から手を離そうとする。 ダンデは咄嗟に腕を伸ばし、ソニアの腰を捉える。そしてそのまま、腕の中へと閉じ込めた。 「頼む、逃げないでくれ」 「ひ……っ」 剥き出しになったままのダンデの胸元が、ソニアの顔へと押し当てられている。ソニアは直前までの己の行動も相俟って、顔どころか全身を赤く染め上げた。 ダンデは赤くなったソニアの耳元や項を指でそっと撫ぜる。 「嬉しいよ、ソニア」 「っ!?」 「……それと、オレはひとつ、キミに謝らなければならない」 「あ、謝る……? ってか、ちょっと離れて!」 (これ以上くっついてたらわたしが死ぬ……っ)と、ソニアは必死に腕を伸ばし、ダンデから離れようとする。しかしダンデの腕力にソニアが勝てるはずもなかった。 ようやく掴んだチャンスを離すまいとさらに腕に力を込めながら、ダンデは懺悔の言葉を口にする。 「オレは結局、キミに全部を委ねてしまったから」 恋い慕う気持ちも。相手を欲しいと希う気持ちも。結局全てソニアに言わせてしまった。 「腕に口付けた時から……、いや、キミが『私のものになってくれればいいのに』と零したのを聞いた時から、キミの気持ちは何となく分かっていた筈なのに」 「!? まって、わたしくちにしてたの!?」 「確信が持てないオレはつい誤魔化して。……受け止めるなんて言って、結局はキミの返答が怖くて勇気が出せなかっただけなんだ。…………とんだヘタレだな」 自嘲気味に話すダンデの腕を、ソニアはぎゅっと摘まみ上げる。 「いてっ」 「……ダンデくんがヘタレなら、わたしだってそうだよ」 「ソニア?」 「ずっとぐるぐる考え込んで、こうだろうって、ダンデくんの気持ちを勝手に決めつけて、自己完結してた」 「……オレ達は、お互いに言葉足らずだった、ってことなんだろうな」 「まったくだ」 くすくすとソニアが笑う。ダンデはソニアからほんの少しだけ身体を離した。緑と金が交差する。 「せめて言葉だけでも先に言わせてくれないか。……ソニア、ずっとずっとキミが好きだった。きっと、これからも」 「うん。……わたしも、好きだよ」 ダンデとソニアの顔が近付く。二人にペンはもういらない。 静かに唇が重なった。 「……ところで、実は、もうひとつキミに謝らなければならないことがあるんだが…………」 唇が離れた後、ダンデは顔を逸らしながら小さく呟く。 「?どうしたの、ダンデくん」 「あー、その……。実はもう、扉が開いている、んだが」 「!!あー、そういえばそうじゃん!?って、いつ!?」 「!?何で!? 何でその時言ってくれなかったの!!」 「言える雰囲気じゃなかっただろ!」 「いや言ってよ!」 先程の甘やかな雰囲気は儚く消え去り、普段と変わらない空気が二人を包む。 「大体!そもそもこの部屋何!!?わたし研究所にいたのに!って、ちょっと待って!?これもしかして誰かにずっと見られてた!?」 ソニアの言葉にダンデもはっとする。言われてみればどうやって自分たちが脱出条件をクリアしたかを判断するのか。そもそもどうやって全く別の場所にいた二人をこの部屋に閉じ込めたのか。全く分かっていないのだ。 「〜〜っ、ダンデくん! 色々と言いたいことはあるけど、とりあえずここから出よう!」 ソニアは右手を差し出す。昔のように。 「……ああ!」 ダンデはその手を掴む。指と指を絡め、もう二度と離れないように。 そして同時に、ダンデとソニアは扉の外へと飛び出した。 |