タイトル | 本 文 |
---|---|
#dnsn版深夜の60分一本勝負「チョコレート」 |
一人あたりの消費量が世界でもトップクラスに入るほど、ガラル地方の人々はチョコレートが好きだ。シュートシティにはセレブ御用達の専門店から、海外にも展開しているチェーン店までが幅広く軒を連ねており、ショコラティエの努力の成果が、日夜人々の目と舌を楽しませている。 「激しい競争がレベルアップにつながるのは、ポケモンバトルには限らないんだな。大勢の人が喜びそうな味がするぜ」 オレンの実が乗ったタルトショコラを食べ終えたダンデの正面で、ソニアの視線が揺れた。 「あのダンデくんが、食レポ……!?」 ジムチャレンジに挑戦したときから、ダンデはチョコレートを常備していたが、それは嗜好品というよりも、万が一ワイルドエリアで遭難したときの非常食という位置づけだった。味よりもカロリーと賞味期限の長さが優先されたのは、当然と言えば当然である。 「普段はチョコレートに興味がない人でも、食レポしようって気になるのは分かる気がする。このタルト本当においしいもの。ほろ苦いチョコレートの下にカスタードクリームが挟んであって、生地はサクサク。どこで買ったの?」 「シュートシティのカフェだ。確か、道路にテラス席があったぜ」 目に付いた店で、研究所に持参する菓子や軽食を選ぶのは、バトルタワーのオーナーに就任したダンデのささやかな楽しみだった。ソニアやホップに喜んでもらえるのはいいが、方向音痴ゆえにリピーターになれないのが欠点である。 「……うーん。もうちょっと情報が欲しいなぁ。お店の名前が分かれば、お取り寄せもできるんだけど」 首を傾げながら、ソニアはシュカの実が乗ったタルトショコラにフォークを突き立てた。 「そこまで気に入ってくれたなら、今度キミがシュートシティに来た時に、この店を探しに行かないか」 「それなら、シュートシティでチョコレートの食べ歩きがやってみたいな。カントーの出版社は、チョコレート専門のガイドブックを出してるらしいわよ」 「随分と気合いが入ってるんだな」 ソニアが微笑みながらフォークを口元に運ぶ。まるでデートの約束のようだと思いながら、ダンデは紅茶を飲み干した。 |
#dnsn版深夜の60分一本勝負「敵前逃亡」「勝負服」「拒否」 |
ダンデの辞書に、敵前逃亡の文字は存在しない。 だが、向き合わねばならない相手は敵ではないのだから、逃げても恥にはならないのではないか。人生で初めて味わう緊張が、普段の彼にはありえない発想をもたらした。 「まいったな。口から心臓が飛び出そうだぜ」 「ダンデくんがそんなこと言うなんて、よっぽどだね」 ソニアの不安を拭うように、ダンデは彼女の髪を撫でたが、その動作は彼自身を安心させるためのものだった。柔らかな髪の手触りが心地よい。 「頭ごなしに反対されることはないと思うんだがな」 発した言葉が冷静な分析なのか、それとも単なる願望なのか、ダンデ自身にも判断ができなかった。 「今までに、二人で積み重ねてきたものがたくさんあるでしょう。だから、大丈夫だよ」 微笑むソニアはスーツの上から白衣をまとっている。それは学問の世界で生きる彼女の勝負服であると同時に、困難な課題に挑むための戦闘服だ。 ジムチャレンジの時に、彼女が緑と白を基調とするキャップをかぶっていたことを思い出して、ダンデは表情を崩す。はぐれた時の目印になるように、彼がかぶっていた色違いの帽子には、オーナー服と同じ色が使われていたものだ。 「キミがそう言うなら、安心だ。研究者は根拠のないことは言わないだろう」 ソニアとともにあるならば、世界の危機さえも乗り越えられる気がする。ジムチャレンジのバッジを揃えた過去からつながる現在が、ダンデに力を与えていた。 「さあ、行くか」 「自分の家に帰るだけなのに、そこまで気合入れる人なんて初めて見たよ」 微笑むソニアの傍らで、ダンデは頬を叩く。その左手には、金色の輝きが宿っていた。 |
#dnsn版深夜の60分一本勝負「隠し味」 「フィッシュ&チップス」 |
ガラルの名物料理であるフィッシュアンドチップスの大きな特徴は、手軽に食べられることだ。 チャンピオンとして多忙な生活を送っていたころ、ダンデは屋台やファーストフード店のフィッシュアンドチップスに何度も世話になったものである。 「なあ、ソニア。これはフィッシュアンドチップスで間違いないよな?」 「間違いないわよ。わたしが料理してるところ、さっきダンデくん見てたよね?」 味にこだわりの薄いダンデにも分かるほど、今までに食べてきたそれらと、ソニアの手料理には違いがありすぎた。パブやレストランのように、タルタルソースと豆の煮物が添えてあるだけではなく、味も匂いも食感も、別の料理という気がしてくる。 「オレが今までに食べてきたフィッシュアンドチップスは、一体何だったんだろうな……」 簡単に空腹を満たすことの引き換えに臭みが残った魚や胃もたれするポテトを飲みこんでいた日々には、もはや戻れない。実感とともに、ダンデはポテトにフォークを突き立てた。 「ソニアはすごいな。ポケモンのことだけじゃなくて、オレに人生というものを教えてくれる。世の中には、食べる楽しみというものがあるんだな」 「チャンピオンが忙しいのは知ってたけど、そこまで思い詰めるほど食生活ひどかったの?」 呆れと驚きの入り交じったソニアの視線さえもが、ダンデには心地が良い。望むままに彼女の料理を味わえる権利を、つい最近、彼は勝ち取ったばかりだった。 「もしかして、秘伝のレシピや隠し味みたいなものがあるのか?」 珍しい調味料や調理器具を使っていたようには見えない。ダンデの問いにソニアは笑みを深くした。 「そうね。隠し味があるとすれば、真心かな?」 |
#dnsn版深夜の60分一本勝負「ダンス」 |
ガラルの人々は、チャンピオンへの要求が高すぎる。 祖母に悩みを打ち明けるダンデの声を聞きながら、ソニアはポットの紅茶を注いでいた。かつてのガラル地方には、良家の子弟が国王主催の舞踏会に参加することで社交界デビューを飾るという習慣があったが、成人を迎えるにあたり、幼馴染も格式が整ったパーティーへの参加が求められるらしい。 「ローズさんに、社交ダンスをマスターするように言われたんです。レッスンにも行ったんですが、うまくできなくて……」 強く勇ましいチャンピオンのイメージを押し潰しかねないほど、ダンデのため息は重かった。ポケモンバトルの強さだけではなく、ダンスの技術までマスターされるとは、チャンピオンとは大変なものだ。 ソニアが彼の境遇に同情を寄せることができたのは、紅茶と茶菓子をテーブルに置くまでのことだった。 「社交ダンスは単なる踊りではなく、マナーであり、教養です。ソニア、良い機会ですからあなたも覚えておきなさい」 祖母の指示で、ダンデとソニアはリビングの家具を隅に移動させた。部屋の中央に立ち、ぎこちなく視線を彷徨わせる男に、指導教官が厳しく声を飛ばす。 「自信がないのはやむを得ませんが、それは態度に出すのものではありませんよ」 「ダンデくん、緊張しすぎ。わたしと踊っていただけますか?」 社交ダンスは、基本的に男性が女性を誘うものだ。祖母が若いころには、女性から声をかけることなどまずありえなかっただろう。 だが、ソニアとダンデは、身分も社交界も存在しない時代に生きる人間だ。既存のものをことごとく壊すのが正しいとは思わないが、自分なりの方法や例外を知っておくことも大事だとは思う。 「こちらこそ、お願いします!」 ソニアが差し出した手を握りながら、カントー式のお辞儀を返すダンデの姿に、マグノリア博士は呆れた顔を隠さなかった。 |
#dnsn版深夜の60分一本勝負「撫でる」「雑誌」「レッツクッキング!」 |
ガラル地方のポケモントレーナーにアスリート並みの身体能力の持ち主が多いのは、ダイマックスしたポケモンの技に耐えるためであり、過酷なワイルドエリアでのトレーニングの成果でもある。 長年チャンピオンの地位を守り続けていたダンデと、そのライバルであるキバナは、優れた身体能力の持ち主だ。彼らに憧れてポケモントレーナーを目指す子どもたちは、トレーナーには知識や技術だけではなく、体力も重要であることを幼くして理解している。 子どもの体作りには、周りの大人のサポートが欠かせない。チャンピオン交代後のガラル地方では、ポケモントレーナーやアスリートを目指す子どもの食事が、にわかに注目を集めていた。ムゲンダイナの爆発に巻きこまれたダンデが短期間で脅威の回復を見せ、彼を倒した少女が母親の手料理を絶賛したからである。 「新チャンピオンの強さの秘密は食事にあり? 一週間の食生活を完全再現!」 二十代後半から三十代の女性を対象にした雑誌をめくりながら、ソニアは苦笑した。ユウリが正直に記者のインタビューに答えた結果、誌面はカラフルな食器やランチョンマットでも誤魔化せないほど茶色く彩られたのである。紙を擦ればスパイシーな香りが漂ってきそうだ。 「オレにはこういう企画は来なかったな」 ソニアの隣に腰をおろしたダンデが、興味深そうに雑誌をのぞき込む。カレー三昧の食生活のなかで、唯一委細を放っているのが五日目のランチだった。サンドイッチの隣に添えられた木の実のマフィンは、ソニアが作ったものである。ユウリは笑顔で礼を述べ、ホップと二人でワイルドエリアに向かったのだった。 「ダンデくんがチャンピオンになったばかりのころは、食べることに対する考え方が今とは全然違ったからね。それに、一週間分の食事を思い出してくださいって言われたって、ダンデくんに答えられたとは思えないよ」 「それは否定できないぜ。世間には、オレは料理ができない人間だと思われてるみたいだ」 喉を鳴らしてダンデは笑う。その気になれば栄養士やコックを雇えるだけの収入を、チャンピオン時代の彼は得ていたのだった。 「おおむね合ってるんじゃないの?」 他人の手料理を手早く食べられるなどと評価できるのは、そこにかかる手間や時間を理解していない証拠だ。そんなことを考えたソニアの前に、スマートフォンの画面が差し出された。 「何これ?」 「キミが今読んでいる雑誌から来たオファーだ」 メールの文章を追うソニアの口元が緩んだ。食事とは性別や年齢、社会的地位を問わず、誰もが取るものであり、それを作るのは料理は女性だけの役割ではない。家族で楽しみながら作れる料理を特集するにあたり、ダンデ氏の協力を依頼したい。貴殿こそが適任であるとチャンピオンから推薦をいただいている……。 「ユウリの推薦!? あの子、雑誌社の人に何て言ったんだろう?」 実家のキッチンでダンデが母親の料理を手伝う姿を思い浮かべ、ソニアは声を立てて笑った。わずかに顔をしかめながら、ダンデはスマートフォンと自身の体を寄せる。 「この企画、親子とは書いてないんだぜ」 ソニアの薬指を撫でながら、ダンデは囁いた。 |
#dnsnブライダルコレクション |
人は色にさまざまな意味を求める。ガラル地方では花嫁の貞淑と純潔を意味する白いドレスは、家同士のつながりを重視する地方では、婚家の色に染まるという決意の証だ。 「オレの家に、家風なんてものはないぜ。どちらかと言えば、オレとホップがキミに染まったんだ」 初めて出会った時から、ソニアは鮮やかな色彩の持ち主だった。昼と夜の狭間の色は、牧場の跡取り息子をポケモンバトルのリーグチャンピオンに押し上げただけではなく、その弟に研究者の道を示している。人生を導いた色を塗り潰すという発想は、ダンデには存在しなかった。 足音を立てぬように気を配りながら、ソニアが近づいてくる。ファーストルックは、結婚式の直前に新郎と新婦が顔を合わせるセレモニーだ。初めて目にする婚礼衣装に、期待が高まるのは当然のことである。 「……うん。白いな」 メディアや大衆の前で話すことに慣れているはずの男から飛び出したのは、感想とも言えない短い呟きだった。呆れたような視線とともに、家族がカメラを向けてくる。 「それを言うなら、ダンデくんだって白じゃない」 ソニアの指摘に、ダンデは衣装の襟に手を伸ばす。黒、グレー、ネイビー。数ある選択肢の中から彼が選んだのが、花嫁衣装と揃いの色であった。 「マサラタウンを知っているだろう」 「オーキド博士の研究所があるところでしょう。知らないはずがないわよ」 ダンデであれば、優秀なポケモントレーナーの出身地と説明するカントーの町を、ソニアは世界屈指のポケモン研究者の名前と共に口にする。 「ならば町の名前の由来も、キミならば知っているよな」 「いくつか説があるわよね。昔は純白を意味するマッシロタウンだったのが、ミスター・マサラ・オーキドの功績を称えて改名したとか、新しいものを意味するマッサラが由来だとか。新しい物をサラと呼ぶのは、ジョウト地方の方言らしいけれど」 突然、異国の町の語源を語り始めた新郎新婦に、周囲が戸惑いを示すなか、彼らの弟だけは真剣に耳を傾けている。弟が白を身に纏う日を思い描きながら、ダンデはソニアの耳元に顔を寄せた。 「今日からオレたちは夫婦だ。始まりの日に白い服を着るのは、当然のことだと思わないか。なあ、奥さん」 「……ダンデくんってさ、たまにそういう、歯の浮くようなことを平気で言っちゃうよね」 短く呼びかければ、ソニアは頬を赤く染めた。 友達、ライバル、恋人。成長と共に関係を変えていった二人は、今日、家族や友人の前で新たな関係を告げ知らせる。 |
大人のゲーム |
元来、ゲームとは多くの人々が手軽に、そして気軽に楽しめる娯楽だ。だが人生の大半を勝負の世界で過ごしてきた男は、ただの遊びにさえも勝利を求めてしまう。 「動きが止まってるんじゃないか、ソニア」 「わかってる、けど」 荒い息の間から、短く声を絞り出された。ダンデの涼しげな視線の下で、ソニアが苦しげに顔を歪めている。彼女が戦う相手は他ならぬ彼女自身であって、プロアスリート並みのトレーニングをこなしている成人男性ではない。 「無理しなくてもいいんだぜ」 折れても枯れることなく、大地に根を張り巡らせる草木を思わせる緑の瞳が、熱を帯びた。自分だけが知る色に、男は低く喉を鳴らす。 「あと、すこし、だから」 少女時代のソニアを、優秀だが諦めが早いと評価した人物は、たとえ心身が限界を訴えようとも、ダンデにカジリガメのごとく食らいつく彼女の姿を知らないのだ。彼が人生で最初にライバルと認めた女は、額に汗を滲ませながら体を支えている。 「わかった。もう少し膝を上げるといい」 返事の代わりに、ソニアは大きく息を吐いた。ダンデは横から手を伸ばし、彼女の腹に触れる。 「呼吸を忘れてるぞ。そう、その調子だぜ」 もはや頷く気力さえも残っていないというのに、ソニアは体を起こす。ダンデは前方に視線を移し、彼女が限界を超えるその瞬間を見届けた。 「メニュー達成だ。よくがんばったな!」 「さて、次はオレの番だ」 力なく四肢を投げだし、ソニアは率直な感想を口に出した。自宅でトレーニングができるゲームは、プレイヤーにスポーツジムのマシンに勝るとも劣らない負荷をかける。 「今のメニュー、オレも試してみるか」 「マジ!? ダンデくんの腹筋って、それ以上割れたらどうなっちゃうの?」 痛みに顔をしかめながらも、ソニアの瞳は好奇心に輝いている。見せつけるようにシャツを脱ぎながら、ダンデはリング型のコントローラーを受け取った。 |
キズは男の勲章 |
広い肩と厚い胸板、そして長い手足。 人の体を凝視するのは行儀の良いことではないという自覚はあるものの、オニオンの視線はダンデやキバナに吸い寄せられてしまう。シャワーで汗を流した男達の体を隠すものはなく、ロッカールームにはエキシビションマッチ終了後のリラックスした空気が漂っていた。 幼いころから、ゴーストポケモンを通じて死を身近に感じ取ってきたオニオンは、同世代の子どもに比べて大人の体に対する憧れが強い。健やかに成長した肉体は、生命力の象徴に他ならないからだ。同時に、彼はそれを損なうものに敏感でもあった。 「ダンデさん、きず」 ガラルの未来を守る広く逞しい背中に、三日月よりも細い月が並んでいる。科学によって見え方の仕組みが解明されているにもかかわらず、人が赤い月を不吉に思う理由をオニオンは実感した。流れる血を思わせる緋色の線が、月の下にいくつも刻まれている。 「ああ、シャワーで絆創膏がはがれたんだな」 こともなげにダンデは笑ったが、彼の背中が傷つけられる瞬間を想像したオニオンは、仮面の下で表情を強張らせた。 「バッ……! オマエ、子どもに見せる物じゃねぇだろう」 大判のバスタオルを投げつけたキバナの声が、彼らしからぬ動揺に揺れている。それに反応したのは、着替えを終えたビートだった。 「お言葉ですが、ぼくたちはジムリーダーです。ポケモンが人を傷つける可能性は、言われるまでもなく充分に理解していますが」 「ゴーストポケモンだって、そういう事故はあります……」 ポケモンは人間の良きパートナーであると同時に、脅威にもなりうる。ダイマックスの仕組みが解明されてもなお、ガラル地方の人々からポケモンへの畏れが消えることはないのだ。 「オニオンくんには心配をかけてしまったが、見た目ほど深い傷じゃないんだ。仲が良い証拠だと思ってくれればいい」 「仲が良い」 「証拠」 オニオンはビートと顔を見合わせたため、ダンデやキバナの顔が視界に入ってはいなかった。大人たちの表情を見ていれば、彼は違った感情を抱いていたかもしれない。 「新しいポケモンですか?」 リザードンやオノノクスの鋭い爪は、ダンデの傷とは明らかに形が違う。仲間になったばかりのポケモンとの触れ合っているうちに事故が起きたと考えるのが自然だろう。迷いなく問いただすビートの姿を、オニオンは驚きと尊敬の入り交じった思いで見つめた。 「ようやくオレのものになったんだ。頑張り屋で無邪気で陽気で、見た目の割に図太いところがある」 「なるほど。手の内を明かす気はないということですね」 ポケモンの性格が成長に影響を与えることは、トレーナーの常識だ。ダンデは性格からポケモンのタイプが分析されることがないように、言葉を選んでいるのだろう。 「辛抱強くて、好奇心も強い。ちょっと強情なところがあるが、そこがとても可愛いんだ」 オニオンが物心つく前からガラル地方のポケモンリーグで戦い続け、現在もなおポケモンバトルの世界に身を置いている人間とは思えないほど、ダンデの表情は柔らかかった。 「……ダンデさんは、幸せなんですね」 「ああ、そうだな」 傷の痛みさえも幸福だと笑うダンデの心境が、オニオンには想像ができない。だが、ダンデが真実を口にしていることと、男が穏やかさの中から新たな強さを得たことだけは、理解できたような気がした。 「ただのノロケだ。適当に聞き流せ」 キョダイマックスマホイップの高カロリークリームを喉元まで詰め込んだような顔で、キバナが短く呟いた。 |