ポケモン剣盾小話ログ


タイトル 本 文
年末だしダソを出られない部屋に閉じ込めるのにうってつけの季節じゃないですか?(突然の提案)(フォロワーさんの提案)  ガラル地方では、木々や町並みを飾り付けてウィンターホリデーの到来を待ちわびる。それは気の滅入るような長く暗い冬を乗り越えようとする人々の知恵だ。
 飾りを取りに行こうとして、ダンデは幼馴染と二人、閉じ込められた。牧場の物置は人の出入りが少なく、扉が壊れていたことに気付かなかったのだ。
「参ったな」
「ドアに体当たりして外に出ようだなんて考えないでよ」
「分かってるさ。バイウールーのとっしんにも耐えられる頑丈なやつだからな」
 ソニアの忠告を受けて、ダンデは肩をすくめた。チャンピオン級の身体能力を誇る彼でも、ポケモンと対等に張り合えるわけではない。
「誰かに工具箱を持ってきてもらおう」
 ダンデの指が、ポケットの裏地を撫でた。スマホロトムをリビングに置いてきたことを思い出す。暖炉の前では彼の相棒が、ワンパチとともに昼寝をしていることだろう。
「オレのスマホロトムは家だ。ソニア、代わりに連絡を頼む」
「わたしもバッグに入れたままだよ」
「バッグは?」
「ソファの上。ここでロトムを呼んでも聞こえないだろうな」
 二人は顔を見合わせた。どちらともなく表情が緩み、笑い声がこぼれる。
「研究所の代表がそんなことでいいのか。キミの知恵を借りたい人は多いだろうに」
「ダンデくんだって、ポケモンリーグの委員長でしょう。バトルタワーだって営業してるんじゃないの?」
 スマホロトムを手放して、休暇に仕事を持ち込まないという姿勢を示した二人だが、実際のところは単なる不注意だ。幼馴染ならばスマホロトムを持っているだろうという油断がなかったとは言えない。
「仕方がない。ウールーが通りがかったら、助けを呼んでもらおう」
「そんなことできるのは、ダンデくんぐらいだって」
 でもホップにもできそう。思考を巡らせるソニアの顔に、こみあげて来るものがある。彼女はガラル地方の誰もが認めるポケモン博士だ。ダンデもチャンピオンの地位を退いたものの、勝負の世界に立ち続けている。
 休暇中に呼び出されるような責任ある地位に就いても、牧場を駆け回った幼い日が自分たちの原点なのだ。ジムチャレンジを経て、進む道が大きく離れた二人だが、今では長期休暇を互いの家や研究所で共に過ごしている。
 たまには、何もない時間を二人きりで過ごすのも悪くはないだろう。
「ここに毛布はないんだな」
 ウールーの鳴き声を聞きながら、ダンデは一歩分だけソニアに体を近づけた。
食育は大事です  ブルーベリー学園のエネルギー豊富な学食メニューには、勝負を重視する校風が反映されている。
 海底ドームという特殊な環境に耐えうる人材を育てる学園で、食事の好き嫌いは贅沢だろう。食べ盛りの学生にとって、安価で腹を満たせることの重要さも理解はできる。だが、人間の体はカロリーだけでは動かないし、余った分を他の栄養素に変換することもできない。
 栄養の偏りは、心身の不調を招く。
 休み明けに一人の生徒の素行が荒れ、職員会議の議題となったばかりか、他校の生徒を巻き込む騒動となった。学業や人間関係だけではなく、学園の食生活に原因があったと私は考えている。思春期のメンタルは繊細だ。皿からカロリーとエネルギーが溢れ出る定食やピザではなく、遠い故郷の味に癒やされることもある。
 とはいえ、一個人のケースから学園の食糧事情を変えることなど不可能だ。だが、生徒の大半が栄養の偏った食事を摂った挙げ句、食育の機会を得られずに卒業する現状を、放ってはおけない。
 そこで私が目を付けたのは、ブルレクだった。サンドイッチ作りというミッションは比較的難易度が低く、BP目当てに挑戦する生徒も多い。ポケモンのために食事を作る経験から、学べることがあるはずだ。
 生徒たちミッション達成状況をチェックする私の視界を、ヤバチャが通り過ぎた。ヤバソチャを連れている生徒は、学園の高カロリー高脂質の食事に適応している。人とポケモンが共存する時代においては、ポケモンの力が健康の鍵を握っているのかもしれない。
#冬のダンソニお題ガチャ
射場手のダンソニへのお題は
・雪のWAで暁を見る
・暖かなスープの味を思い出した
・雪だるまの記憶
です。
 狭い空間で肩を寄せ合いながら、マグカップを手に夜明けの光を浴びているというのに、二人のあいだに恋愛映画のようなムードは欠片も存在しなかった。
 満天の星空をもってしても、甘い雰囲気とは縁がないのが雪のワイルドエリアというものだ。だが、小さなミスや油断が大きな事故に繋がりかねない場所だからこそ、ダンデがボディガードという名目でソニアの調査に同行できたことは否定できない。
「ワイルドエリアの雪には慣れてるつもりだが、今日は一段と冷えるぜ」
「冬だから仕方ないわよね。夏の雪とは寒さの質が違うもの」
 紅茶の湯気を受けながら、ソニアが苦笑する。吹雪のなかでパワースポットを観測していた姿は頼もしいが、血の気が感じられない肌が不安をかき立てた。
「着込んでいるのに、体が内側から冷やされているような気がするな」
 ストーブの上で、ケトルが音を立て始めた。インスタントスープに湯を注いだ瞬間、マトマの実の匂いがテントに広がる。
「確か、記憶は香りと結びついてるんだったな。ジムチャレンジのことを思い出すぜ」
 ソニアの目の輝きは、幼いころから変わらない。好奇心に満ちていて、ダンデの世界を広げてくれる。
「ワイルドエリアは見るものすべてが新鮮でワクワクして、雪が降っていた」
「隣り合うエリアなのに、まるで天気が違うんだものね」
 ハロンタウンやブラッシータウンでは、雪が降っても積もることは少ない。二人は心ゆくまで雪遊びを楽しみ、雪だるまの隣に立てたテントで夜を過ごすことにした。
「夕飯の後で、キミが星が見たいと言いだしたんだ」
「……それは、冬のワイルドエリアは空気が澄んでいて星がきれいだって、本に書いてあったから。雪の日でも同じじゃないかって思って」
 当時を思い出したのか、ソニアが力なく首を振る。運が良ければ、ねがいぼしが落ちてくるのではないかと期待しながら二人はテントを出たのだ。
「雪の夜だったからな。寒かったことしか覚えてなくて、肝心の星空を見た記憶がないんだ」
「わたしも、ワンパチに抱きついて暖まろうとしたことしか覚えてないよ」
 自然の厳しさを身に受けた二人は、慌ててテントに引き返した。カレーを食べて満たされていたはずの体に、インスタントスープが染みた。
「やっぱり、マトマのスープは辛いな」
「体を温めるのにはいいんだけどね。口直しにスモアでも作る?」
 魅力のある申し出に、ダンデはソニアの髪に頬を埋める。テントの小さな窓から入ってくる暁の光を受けて、白い手は血色を取り戻しつつあった。
#dnsn版深夜の60分一本勝負
『あなた程じゃない』
『封筒』
「キミは本当にソニアが好きだな」
「あら、あなた程じゃないわよ?」
 ポケモンリーグの委員長とジムリーダー。公人として振る舞っていたダンデとルリナは、デスクに置かれていた一冊の本を前に、プライベートをさらけ出した。
「あなた、本だけじゃなくて、ツテを頼って博士論文まで手に入れたんでしょう。進学する気?」
 ペーパーバックに巻かれた帯には、一躍『時の人』となった若き研究者の写真が掲載されている。長年の目標を叶えたソニアの顔は、メイクや照明に頼るまでもなく晴れやかだった。
「オレはただポケモンについて知りたいだけだ。そのためなら、論文だって読むぜ」
 論文を書いたことはないが、ダンデはガラル地方屈指のポケモンバトル専門家だ。ポケモンリーグに残る記録は、彼の研究成果とも言える。
「とんでもないトレーナーを生み出したわよね、ソニアは」
 ルリナはもちろん、新チャンピオンにも、ダンデの真似はできない。個人の能力や適性に加えて、環境が異なるからだ。
 未来のポケモン博士の個人指導は、四倍どころの効果ではなかったらしい。
「その意味では、ホップじゃなくてオレこそがソニアの一番弟子かもしれないな」
 ガラルスタートーナメントの招待状を手に、ダンデはどこか誇らしげに笑った。
カボチャプリン  ブラッシータウンのポケモン研究所では、子どもを対象にしたイベントの際に、飲み物と菓子を用意するのが慣例である。もちろん、費用は会費に含まれており、参加者のアレルギーの有無も確認している。
「今年は警察署からお知らせが来たんだよね」
 薄い紙を手に、ソニアは長いため息をついた。イベントで配布する食料品は、個包装された市販品に限る。子どもやポケモンを狙った外国の事件を受けて、ガラルの警察は手作り菓子の配布を禁止したのだった。おそらく町のスクールでは、見知らぬ相手からもらった食料品を食べないように注意が呼びかけられているのだろう。
「マグノリア博士のビスケットが食べられないって、近所の子たちがガッカリしてたぞ」
 ポケモン博士が作る素朴な味わいの焼き菓子は、ホップに代表されるブラッシータウンの子どもにとって、「勉強をがんばったご褒美」だ。菓子目当てで研究所に顔を出していた子どもが、いつしか学問に興味を抱き、教師を目指したケースもある。
「ポケモンを凶暴化させる薬なんてものを使わなくても、その気になれば悪いことはできるもんだ。だからオレは、ファンの手作り品は食べないし、食べられない」
 出所の分からない食品の恐ろしさを、ダンデは知り尽くしている。敵意や悪意だけではなく、善意や好意が、呪いとしか表現できない代物を作り上げることも。
「オレも聞いたことがあるぞ。差し入れのお菓子に、ラブカスのウロコが詰まってたんだろう?」
「恋のおまじないだか何だか知らないけど、そんなことするぐらいなら、ファンレターにラブカスの写真でも入れておけばよかったのに」
「さすがはソニアだ、よく分かってるな」
 ダンデが満面の笑みを浮かべた。付き合いの長さと深さのおかげが、ソニアは男の嗜好を知り尽くしている。
「わざわざ今日のお茶の時間を狙って、研究所に来た理由も想像できるわ。ダンデくん、ここは会員制のカフェじゃないんだよ?」
「でも、キミのお菓子が食べられるだろう?」
「味も手間も気にしないくせに!」
 軽口を叩きながら、ソニアは冷蔵庫に手を掛ける。バケッチャを模した容器の中で、カボチャプリンが冷やされていた。
11月1日は紅茶の日  ポケモンのことばかりではなく、紅茶の種類も知っておくこと。
 マグノリア博士の忠告を、ダンデは事あるごとに思い返している。ポケモンリーグの委員長は、ポケモンの知識だけでこなせる仕事ではなく、ほんの短い雑談でさえも、教養やユーモアが問われるのだ。
「博士は幅広い知識を持つことの大切さを教えてくれていたんですね。もしかして、オレがローズ委員長の後を継ぐことを、予想しておられたんですか?」
 湯気を受けながら、博士は優しげに微笑んだ。
「まさか。ただ、あなたには紅茶の種類を知っておいてほしいだけですよ。冷めないうちに召し上がれ」
 勧められるまま、ダンデは小さなティーカップを丁寧に持ち上げた。手つきを見守る視線は柔らかいが、試験を受けているような心地がする。
「この香りは、オレンの実に似てますね」
 持ち前の観察力と木の実の知識を総動員して、ダンデは感想を口にした。
「よく分かりましたね。この紅茶は、オレンの実で香りを付けているのですよ」
 ダンデの吐息に確かな安堵がこもる。好成績は期待できないが、落第でもなさそうだ。
「紅茶というのは、喉を潤すためだけのものではないのですよ。季節や気分に応じて、たくさんの楽しみ方があるものです」
 柔らかな口調が、ダンデをハロンタウンの少年に引き戻す。彼の隣には幼馴染が座っていて、視界には常にポケモンがいたものだ。
「あなたも、紅茶を淹れる練習をなさいな。眠気覚ましには、濃い目の一杯がおすすめですよ」
 思わずダンデは目を見開く。本と植物に囲まれた邸宅は、彼を懐かしい気分にさせてくれるが、そこに宿題は求めていない。
「練習だなんて。博士は、オレをティーマスターにでもしたいんですか?」
「そうね。バトルタワーでおいしい紅茶が出れば、ソニアやホップは喜ぶでしょうけれども」
 皺だらけの手が、自家製のビスケットを取り上げた。
「わたしは孫に、美味しいアーリーモーニングティーを淹れられる人を選んで欲しいのですよ」
12月12日はクイーン・デー  ガラル地方の歴史には、幾人もの女王が登場する。国を支え、民を守った女性たちは、王室の権威が失われた現在も、多くの人々の尊敬を集めていた。
 アマージョとバディを組んだ幼馴染は、歴史書に記録が残る女王というよりも、児童書に登場する女王のように振る舞っている。彼女らしからぬ高笑いを聞いていると、ダンデの頬は自然と緩む。
 叡智と慈愛によって、ガラルの歴史を変えたソニアならば、学究の世界を導く女王にもなれるだろう。壮大な未来に比べれば、ダンデの願いは小さく、個人的なものだ。
 彼の国の共同統治者に。そして、自分だけの女王に。
 小脇に抱えた紙製のボックスでは、バラの花を象ったチョコレートが出番を待っていた。
みついりりんごをゲットせよ!  観光客を呼びこむためか、キタカミの里は各地でのプロモーションに力を入れている。シュートシティの高級デパートが、里の特産品の販売を始め、ライスとりんごが即日完売したというニュースは、ガラル地方の人々、とりわけポケモントレーナーの注目を集めた。
「みついりりんごか。甘くも酸っぱくもないりんごが、カジッチュを進化させるんじゃないかってソニアの仮説は正しかったんだな」
 自宅のソファに腰掛けるダンデに、誇らしさが滲んでいた。ジムチャレンジに参加した時から、ソニアは彼のポケモン博士だったのだ。彼女の実力が認められ、活躍することを、兄は本人以上に信じていたのではないかと、ホップは考えることがある。
「よくそんなの覚えてたわね。あの時は確か、苦いりんごと渋いりんごを探して、ターフタウンの農園に行ったんだよ。結局、カジッチュには食べてもらえなかったんだけど」
 テレビからダンデに視線を移し、ソニアが笑った。隣のユウリが大きく首を振る。
「それはそうですよ。どっちもおいしそうには思えないもの」
「カジッチュが進化したってことは、みついりりんごが気に入ったんだろうな」
 テレビに視線を戻し、ホップは二度、瞬きした。ユウリの目と口が、大きく見開かれているのを認め、見間違いではないことを確信する。
「近くの市場で売ってるりんごとは、ゼロの数が違うぞ……」
「りんごにしては高いかもしれないが、ポケモンを進化させる道具なんだから、あれぐらいは普通だろう」
「それはそうだけど、今のところはカジッチュ育てる予定もないし、あの値段じゃ手が出せないよ」
 ダンデはチャンピオンを退いた後も勝負の世界で生きている男だ。ポケモンを鍛えるための出費は惜しまない金銭感覚は、弟のホップだけではなく、現チャンピオンのユウリともかけ離れている。
「トレーナーがみんな、ダンデくんみたいにポケモンにお金を使えるわけじゃないからね。あのりんごは、値段の桁が一つぐらい違っても、気にならないような人がターゲットなのかも」
「キタカミの里のりんごって、セレブ御用達の高級ブランドなんだ……」
 納得したユウリの声に、ホップも息を吐いた。個性的な髪型の兄弟が、銀のカトラリーを巧みに操ってりんごを食べる姿が、やけにはっきりと想像できる。
「みついりりんごはもっと安く手に入れたいなら、キタカミの里に行けばいいんじゃないか。きれいな景色に見たこともないポケモン、勝負の作法も違うらしいな」
 どことなく弾んだ兄の声に、ホップの眉がわずかに上がる。チャンピオン時代のダンデにとって、長期のバカンスはハロンタウンの実家で過ごすものだった。旅行という発想が生まれたのは、ポケモンリーグ委員長やバトルタワーのオーナーという、海外に赴くことも珍しくはない立場の影響かもしれない。
「なあソニア、キタカミの里に調査に行く予定はないか?」
 軽く顎を上げ、ソニアはダンデを見据えた。
「ダンデくん、そうやってわたしに道案内させるつもりでしょう? キタカミの里は起伏が激しいんだから、迷子になってリザードンを困らせないように、地図アプリをインストールしておいてよね」
「ああ、分かった」
 ダンデの返事を聞きながら、ホップは無言でユウリと視線を交わす。ソニアはダンデの方向音痴に苦情は訴えたものの、キタカミの里行きを断らなかった。共に行くことが、二人にとっては当然なのだ。
「ダンデさん、ポケモンリーグがキタカミの里の視察に行くなら、あたしたちも参加させてくださいね」
 あたしたち。次のバカンスは、キタカミの里で過ごすことになるのかもしれない。
1月22日はカレーの日  レトルトカレーの共同開発。
 ポケモン博士が世間に求められるものの大きさに、ソニアはホップと顔を見合わせたものである。食事に手間をかけられない時はもちろん、アウトドアでも活躍できる、人間とポケモンが一緒に食べられる料理というのが、開発コンセプトらしい。
「このカレー、正確にはワンパチが監修したようなものなんだよね。だから味は保証できるんだけど」
 食品メーカーから送られてきた完成品のパッケージには、ワンパチを抱いたソニアの写真が印刷されている。栄養や料理の専門的な知識を持たない彼女の分まで意見を出して商品開発を成功に導いたのは、くいしんぼうの相棒だった。
「相変わらず、ワンパチはすごいんだぞ。それで、ソニアはどんなことを言ったんだ?」
「早食いができないようにして欲しいって」
 人間もポケモンも、早食いによって健康を損なう可能性が高い。水で流しこむことなく、一度でも多く噛んで食べられるように、ソニアと研究員が試行錯誤した結果が、銀色のパウチには封入されているのだ。
「中身を吸って食べられないように、パウチの形も工夫したかったんだけどね。そんなことするのはアゲハントぐらいですって言われちゃった」
 肩をすくめてソニアは苦笑する。彼女が早食いを案じるのは、足下の相棒だけではないのだった。
「今まで、アニキに食べ物関係の仕事が少なかった理由が、分かった気がするんだぞ……」
 レトルトパウチ食品を吸いこむ人間に心当たりがあるホップが、沈痛な面持ちで目を伏せた。


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