それは、水のほとりで出会った二人の、ありきたりな恋物語――

「私はアキラ。水の民、白の部族、そしてこの湖の女神に仕える巫女の一人。あなたは?」
「……レン=ジ」
「ジ? 聞いたことのない肩名だけど、森の言葉? それとも山の言葉?」
「……山だ。意味は――いや。特に無い」

 神話と現実の区別を人々がつけるようになり、巫女が民の導き手ではなくただの象徴となり、そして長の息子に自由な振る舞いなど許されなくなりつつある時代――

「アキラは恐くないの? あんな獣の血が混じったような連中が」
「そんなことはないって。見た目は確かに水の男衆と違うけれど、話してみればちゃんと頷いてくれるし、笑ってくれる。言葉が少ないだけで、中身は私達と全く同じだよ」
「はー流石は次の巫女姫様。あたしらとは違うわ」

 どちらかがただの男ならば良かった。継ぐべき名などない一人の女ならば良かった。せめて部族は違えど民が同じならば、もしくはどちらかが生まれ育った世界を捨てられるほど、周りがろくでもない人間ばかりならば――


「好きにしなよ。君は誰もが認める次の長だ。でも、同時に一人の男なんだからさ」
「タカ……」
「後悔だけはするなよ。それが乳兄弟として、君に言ってあげられるちょっとした忠告だ」



――いや、いっそ。いっそ二人が出会うことさえなければ――


「馬鹿野郎。どうしてそう簡単に自分を犠牲にする!」
「母さんは俺に命をくれた。――自分の死と引き換えに」
「それは……」
「大叔父は、まだ生まれてさえいなかった俺と母さんを守って死んだ。飢えた小リューンの群に襲われた時、割って入ってくれたのはヤマジの爺さんとクズハの従兄弟。クズハの従兄弟は死に、爺さんは右足を失った」
「あれは、あのときあそこにいた俺達全員が助けられたんだ。お前一人が背負うようなことじゃ――」
「違う」
「違ってるものか! 誰もそんな風に押し付けるために君を助けたわけじゃないんだぞ」
「知ってる。違うというのは、背負い込んでいるわけじゃないということだ」
「……レン」
「何かを捨てているわけでも犠牲になっているのでもない。俺が、自分で、ただ決めたんだ。――こう、生きようと」




「――クッ」
 レンは唐突に、口内のものを床板へと吐き出した。
「口にするなっ。これはクレの実じゃない」
「知っています」
「……アキ、ラ?」 
 細い指が紅褐色の実を静かに摘まむと、そっと口元へ運ぶ。白い喉筋が、嚥下と共に微かに上下した
「これはザイの若実。クレの実に似ていますが、葉の形が全く違うので私達水の民が間違えることは、まず絶対にありません。
 ザイの若実には一時ですが人の心を狂わせる効果があります。御酒よりも強く、人を獣に戻す力が――」
「……アキラ」
「クレの実と間違えてザイの実を出したのは私です。今宵一夜、獣と化すのは、ザイのせい。そう、全てはただの過ち。悪いのは私。ですから――」
 汚れなど知らぬ少女のように純粋に、アキラは微笑む。
「――どうか、そうだとただ頷いては下さりませんか」




そして、舞台は宇宙(ソラ)へ――

「おい、ちょっと待て」

宇宙(ソラ)へ――

「だから待てって言ってんだろ! 水のほとりの恋愛物語はどうしたっ」

ああ、あれ飽きた。




「なんでよ、俺達『紅』が宇宙「海賊」って呼ばれてんのか、今こそ見せてやるぜっ」

「ただの宅配船だと思って、甘く見ないで欲しいよね。――いくよ錬児。十秒後に強制射出するから、ロックされてる第一隔壁はそのままぶち抜いちゃって」
「……なあ、高志。どうしてお前は順応できてるんだ?」
「んー多分脇役だからじゃない?」


「加代ちゃん。私の服だけ同じなんだけど?」
「ちっちっちっ。解ってないねーあきらは。一切の無駄を省いたリアルなSFだからこそ、そういう昔っぽい服装が引き立つんじゃない。贅沢言わないの、お・ひ・め・さ・まっ」
「うー」
「拗ねない唸らない。何かいるものがあれば、指輪でもイヤリングでもネックレスでも、何でも用意してあげるからさ」
「じゃ、お酒。それから高振動ロングブレードにマガジン付きのガン」
「――忘れてた。あんたそういう子だったわね……」




守られるだけで戦わない少女をヒロインとは呼ばない。
気合いで物理法則ぐらい捻じ曲げられなきゃ男の子じゃない。
銀河に渦巻く陰謀。唸るレールガン。謎の武闘派宇宙海賊は、果たして敵か味方か――



「でもさ。御姫様は親衛隊の先頭に立って快進撃、宇宙海賊は事情も過去も無い愉快犯。じゃあ、高志君達は一体何のために戦うの?」
「そりゃあ、勿論」
「勿論?」
「好きな子をベットどころかデートにも誘えない、うぶな友人のためさ」
「高志ィッ!!」
「――ああ、なるほどね」



孤独な絶対零度の星の海で、今、少年少女達の熱い冒険が始まる。

近未来SF冒険アドベンチャー(アルコール度数5%未満)

『白い焔の首飾り』

乞う、御期待!




<撮影終了直後の、打ち上げ現場より>

「酒ーッ」
「おさけぇー」
「麦酒ーぅ」
「ほら、錬児君が乾杯の音頭をとってくれなきゃ」

「お前等全員未成年だーッ!」
「「「「いぇーッ!」」」」