借家のトラブル

春は引っ越しシーズンです。新しい土地で新しい生活が始まる人も多いのではないでしょうか。でも、借家の明け渡しのことでトラブルになっては、新しい生活への期待が台無しです。今回は、借家の明け渡しや、敷金のことについて少し勉強してみましょう。

A君(大学生)先生、これまで4年間お世話になりました。何とか先生のおかげで卒業できました。
X教授:君が卒業できたのは、奇跡に近いかもしれないな。ところで、アパートの明け渡しは、もう済んだのかい?
A君:それが、明け渡しのことでトラブルになっていて・・・。敷金を6ヶ月入れていて、敷引きが3ヶ月ということになっていたのですが、ハウスクリーニングにお金がかかったとかで、敷金が全く返ってこない上に、さらに10万円も請求されているんです。

A君:
先生、敷金とか、敷引きって何ですか。
X教授:敷金というのは、借家人が壁などを壊したり、家賃を滞納したりしたときのための保証金として家主が預かるお金なんだよ。この敷金は、建物を明け渡したときに返ってくるものなんだが、敷引き額が決められていると、その分は返ってこないんだ。また、壁などを壊したりして修繕が必要なときは、その分が差し引かれてしまうんだよ。
A君:最近では、敷金や、敷引きの額も低くなってきたように聞いているのですが・・・。
X教授:そうだね。関西ではこれまで一般的に敷金は家賃の6ヶ月分、敷引きは3ヶ月分と決まっていて、明け渡しの時は、敷金の半分が戻ってくるのが一般的だったけれど、最近では、デフレの影響もあって、低額になってきているね。
A君:敷金から敷引きがされて、それから修繕費用も差し引かれたのでは、戻ってくるお金はなくなってしまうんじゃないですか。
X教授:修繕をすれば何でも敷金から差し引けるというわけじゃないんだ。家主が負担しなければいけないものもある。
A君:借家人が替わるんだから、たたみや壁紙は全部替えるのが当然だといわれているのですが、そうなんですか。
X教授:原則として、借家人が通常使っていても変色してしまうもの、消耗してしまうものは、借家人の負担にはならないんだ。だから、たばこで焦がしたりしない限り、たたみや壁紙を替える必要はないんだ。(表を参照)

どっちの負担?
  借り主の負担

・引っ越し時のひっかき傷
・結露を放置してできたカビ
・くぎ穴、ねじ穴(下地ボードの取り替えが必要な程度)
・天井に直接つけた照明器具の跡
・台所の油汚れ(手入れが悪いために付着したもの)

  家主の負担

・たたみの取り替え(日焼けによる色あせ)
・画びょう、ピン穴(下地ボードの取り替えが不要な程度)
・家具の重みによる床やじゅうたんのへこみ
・ハウスクリーニング ・カギの交換

(旧建設省作成の「原状回復にかかるガイドライン」より)

A君:契約で、「明け渡しの時は畳、ふすまを新品に取り替えること。」と書いてあるのですが・・・。
X教授:過去の判決では、そのような契約の効力が認められず、借家人は交換する義務がない、とされたこともあるから、契約に書いてあるからといって、交換しなければいけないとあきらめてしまうことはないと思うよ。

A君:わかりました。では、薬品をこぼしたり、物を落としたりして床に傷を付けてしまった場合は、床を全部替えないといけないのですか。
X教授:全部替える必要はないよ。傷が付いたところだけを張り替える費用だけ負担すればいい。
A君:でも、先生、家主が修繕の費用に充てたといって、敷金を返してくれなかったらどうしたらいいのですか。
X教授:そういう場合は、簡易裁判所の「少額訴訟手続」を使うといいよ。

A君:でも、裁判って、お金も時間もかかるし、自分ではできないでしょう。
X教授:A君はこの間の私の民事訴訟法の講義をちゃんと聴いていなかったな。「少額訴訟手続」では、費用も安いし、判決もその日のうちに出るんだ。自分一人でも十分やれるよ。
A君:どんな場合でも利用できるのですか。
X教授:残念ながら、30万円以下の請求にしか使えないので、それ以上の場合は、通常の手続になる。また、少額訴訟手続で申し立てをしても、相手方が通常の手続を求めたら、通常の手続に変更される。
A君:そんな場合は、一度、法律相談に行ってみるといいですね。X教授:そうだね。裁判だけじゃなくて、裁判所で第三者入れて話し合う「調停」という制度もあるから、それも考えてみるといいね(これには金額的な制限がありません)。

ところで、A君は、今度またマンションを借りるのかな。A君:そうなんです。今物件をいろいろ探しています。今度のトラブルを教訓にして、いい物件を選んでます。X教授:今は借りてくれる人が少ないから、借りるときにはよく交渉してみるといいと思うよ。家賃や、敷金、敷引きなども、交渉してみると、値引きしてくれることもあるから、不動産屋や、物件をいろいろ比較して、よく検討してみるといいね。不動産屋がとる仲介手数料も、交渉してやすくしてもらうといいと思うよ。
A君:先生、よくわかりました。ありがとうございました。

*借家を明け渡すときにはいろいろなトラブルが生じますが、借家人にもいろいろな権利があることをきちんと勉強して、賢い借家人になりましょう。