昨年、「宙に浮いた年金、5000万件」問題が発覚して以来、連日のように社会保険庁や社会保険事務所のミス・不適切な対応などが報道され、年金制度、ひいては社会保険制度全般に対する国民の不信感や不安感は高まるばかり…。われわれ社労士のもとにも、「こんな制度、入っていて大丈夫?年金って本当に将来ちゃんともらえるの?」とか「保険料が高すぎ。やめられるものならやめたい」いった声が届いてきます。
 
 確かに、保険料の負担は重いです。制度の不備や役所の対応のまずさもあると思います。でも、ちょっと待ってください。それらを批判する世間の風潮に流されて、社会保険制度の悪い部分にばかり目がいってませんか?

 今回は、「社会保険に加入していて本当によかった」という体験をされたAさんの事例をご紹介します。(プライバシー保護のため、実際の複数の事例を元に設定を多少変えています)

 ●●●〜 まさかの病気、入院・手術… 収入が途絶える間の生活費は?治療費は?治ってからの生活は? 〜●●●

 Aさんは40代後半の働き盛り。専業主婦の奥様と高校生のお子様がいらっしゃいます。会社の健康診断で異常が見つかり、再検査を受けたところ、直腸に腫瘍があることがわかりました。すぐに入院・手術が必要で、会社も当分の間休職することに。その間の給料はストップします。Aさんにとって、病気のことももちろん心配ですが、自分が休んでいる間、収入の途絶えることや、高額になるであろう治療費のことを考えると、目の前が真っ暗になる気持ちでした。そこで我々は、健康保険から次の2つの給付金が受けられることをAさんにご案内しました。

 @ 「傷病手当金」

 これは、病気やケガで4日以上仕事を休み、その間のお給料が受けられないとき、その方のお給料のおよそ3分の2が支給されるという健康保険の制度です。入院期間だけでなく、自宅療養期間についても支給されます。最長で1年半受けられますので、安心して治療に専念できます。Aさんの場合、月給はおよそ44万円ですので、1ヶ月当たり30万円弱の「傷病手当金」がもらえることになりました。


 A 「高額療養費」

 これも健康保険の制度で、高額の医療費がかかった場合、一定額を超えた部分が払い戻してもらえるというものです。以前は、事後の申請しかできず、しかも支給までに3〜4ヶ月かかっていましたが、平成19年4月以降は、事前に社会保険事務所(10月以降は健康保険協会に変わります)に申請し、「健康保険限度額適用認定証」を発行してもらって、それを病院に提示すると、窓口で一定額以上の支払をしなくてすむようになりました。早速その手続を行い、Aさんは病院での支払を最小限に済ますことができました。


さて、Aさんの手術は無事成功しました。しかし、人工肛門の造設を余儀なくされました。そのことを耳にした我々は、Aさんに次のような給付が受けられることをお伝えしました。


 B 「障害厚生年金」

厚生年金加入中に初診日があり、一定の保険料納付要件を満たしており、障害認定日において国の定める障害等級に該当する場合に支給される年金です。障害認定日は、原則初診日から1年半後ですが、人工肛門の場合は、造設した日が障害認定日となり、通常「3級」として認定されます。
 Aさんの体調がある程度安定された頃を見計らって、「障害厚生年金」の請求手続をさせていただきました。決定までに3ヶ月程度かかりましたが、無事、「3級」の障害厚生年金が決定されました。金額は、厚生年金加入中の報酬の平均額・加入期間の長短・障害の重さ(1級から3級)によって異なります。Aさんの場合は年間約70万円がもらえることになりました。

 
Aさんは順調に快復し、仕事にも復帰されました。ただ、体への負担を考えて、もう少し自分のペースでできる仕事に転職することも考えておられます。当然、お給料は大幅に減ることは覚悟されています。しかし、「障害厚生年金が、減収のいくらかを穴埋めしてくれるから安心」と前向きに頑張っておられます。


「健康保険」といえば「病院にかかったとき保険証を使う」、「年金」といえば「老後の備え」ということしか頭に浮かばない方も多いかと思います。しかし、本来「社会保険」とは、多人数が集まり、共通準備財産を作ることにより、生活を脅かす「もしものこと」が起こったときに、その生活を守るものです。健康保険制度では、病気やケガ、分娩、死亡についての給付があります。年金制度には、老齢、障害、死亡についての給付があります。
 今回は触れられませんでしたが、労災保険制度では、業務上や通勤途上の病気やケガ、障害、死亡等について、また雇用保険制度では、失業、育児、介護等に関する給付があります。まさに私たちの生活のいろいろな場面で、私たちを守ってくれる制度といえます。