健康保険、厚生年金・国民年金、労災保険、雇用保険(失業保険)には、さまざまな給付の制度があり、それぞれ「どういう人がどういうときにもらえるか」という支給要件が決まっています。当然ながら、その要件に少しでも該当しない場合はもらえません。例えば、退職日が1日ずれるだけで、もらえるかもらえないかが変わってしまう給付金もあります。
あらかじめ知っていたら、退職日を決める際、適切な日を選ぶことができますよね。
今回の「事務所だより」では、そういった「知らないと損をするかも?ちょっとした違いで大きな差が出る事例」をいくつかご紹介したいと思います。

 ●●● 病気退職・・・いつ退職するかで「傷病手当金」が受給できるか明暗が分かれる! ●●●

 Aさんはこのところ体調が悪く病院に行ったところ、しばらく入院が必要で、その後も今の仕事を続けていくのは無理、と言われました。長年勤めた会社でしたが、2週間後に予定されている入院の前日をもって退職することを決意しました。本当はすぐにも安静が必要でしたが、責任感の強いAさんは、「会社に迷惑をかけてはいけない」と思い、その後も無理をして出勤し、退職日前の3日間だけ休みました。


 健康保険の「傷病手当金」は、「私傷病により4日以上仕事ができず、そのため給料が支払われないとき」に、お給料(標準報酬)の3分の2が支給され
るという給付金ですが、退職後でももらえる場合があります。要件は次の通りです。
 @ 退職までに連続して1年以上健康保険に加入していたこと
 A 退職時に現に「傷病手当金」をもらっているか、もらう要件を満たしていること


 Aさんは、退職後「傷病手当金」をもらうことができません。なぜなら、「傷病手当金」の支給要件を満たす前に退職してしまったからです。
 では、Aさんは、どうすれば「傷病手当金」をもらえたのでしょうか。上記支給要件の「4日以上仕事ができず」という部分をもう少し詳しく言うと、「3日間連続して休み、その後も休んだときに、4日目に傷病手当金をもらう資格ができる(4日目は連続していなくてもOK)」ということです。つまり、Aさんは、もう1日早く休み始めるか、あるいは退職日を1日後ろにずらしていれば、「傷病手当金」をもらう資格ができ、退職後ももらえたことになります。なお、この休みは、必ずしも「欠勤」である必要はなく、日曜・祝日などの公休日や有給休暇でも構いません。(給付金が出るのは4日目以降の分となります。)

 ●●● パートさんご注意!…時給100円アップのせいで30万円の負担増?! ●●●

 Bさんは、時給1,400円、1日5時間、月15日の契約でパート薬剤師として働いています。年収は126万円。健康保険はご主人の扶養に入っています。先日、Bさんの時給が1,500円にアップしました。喜んだBさんが早速その晩、ご主人に報告すると…「1,500円×5時間×15日×12ヶ月=1,350,000円。年収でいうと9万円のアップか…。でも、ちょっと待てよ。会社の人事部から、年収130万円以上だと健康保険の扶養に入れないと聞いているよ。どうなるんだろう…」ご主人は困った顔です。

 
ご主人の言うとおり、健康保険の扶養家族になるには、年収見込が130万円未満(60歳以上の方や障害者は180万円未満)であることが条件です。Bさんは年収見込が135万円となったため、昇給した時点でご主人の扶養から外れて、市町村の国民健康保険に加入しなければなりません。また、国民年金の第3号被保険者(サラリーマンの被扶養配偶者は保険料を払わなくても納付したものとして扱ってもらえる制度)も外れるため、月々の国民年金保険料を負担していかなければなりません。国民年金保険料は、現在1ヶ月14,410円ですが、毎年値上がりしていく予定です。国民健康保険料は前年の所得や資産に
応じて、各市町村の決めた率で計算されます。仮に月1万円だとすると、
国民年金と合わせて年間約30万円の負担となります。


 「せっかく私の頑張りが認められて昇給したのに、かえって手取りが
減るなんて納得できない!」と憤慨するBさん。どうすれば損なく働けるのでしょうか。
 1つは、勤務時間を少し減らして、年収130万円未満になるよう調整すること。そしてもう1つの方法は、逆に勤務時間を増やして、自分の勤務先で社会保険(健康保険と厚生年金)に加入することです。社会保険に加入する要件は、「1日の勤務時間と1ヶ月(又は1週間)の勤務日数が、その会社の正社員の概ね4分の3以上であること」です。「1日8時間、月21日」の会社なら、概ね「1日6時間、1ヶ月16日」の勤務なら社会保険に加入することになります。
 Dさんがこの契約で働くと月収は144,000円、この場合の健康保険料(介護保険含む)は6,624円、厚生年金保険料は10,898円になり、なんと国民健康保険料と国民年金保険料より安くてすむことになります。しかも、将来の年金も、国民年金より厚生年金の方が充実していますし、健康保険も、「傷病手当金」など国民健康保険にはない制度があるので、同じ保険料を払うなら、こちらの方が断然有利といえるでしょう。


 ●●● 年金受給者も働き方にご注意…こうすれば年金は満額もらえる!●●●

 Cさんは定年後も嘱託社員として会社に残り、フルタイムで働いてきた63歳。このところ少し疲れやすく、そろそろ引退を考え始めました。社長に相談してみたところ、「ベテランのCさんに辞められては困る。勤務時間を減らしても構わないから是非会社に残って欲しい」とのことでした。Cさんも、勤務時間を減らしてもらえるならもう少し仕事を続けたいと思い、1日8時間のところを6時間勤務にしてもらうようお願いしました。


 老齢厚生年金は、在職中(厚生年金加入中)はお給料や賞与の額に応じて減額されます。お給料や賞与の額が多いほど、年金の減額は大きくなり、一定以上になると全額停止になります。Cさんも今まで、年金は全額停止になっていました。今回勤務時間を減らし、お給料が減ることによって、年金は一部もらえるようになる見込みです。
 しかし、勤務時間をもう少し変えることによって、年金を満額もらうことが出来るのです。在職中であっても、厚生年金に加入さえしていなければ、お給料や賞与をいくらもらっても年金は減額されません。厚生年金に加入しないで済む方法…ヒントは前記のBさんの例の中にあります。「社会保険の加入要件」をもう一度ご覧ください。「1日の勤務時間と1ヶ月(又は1週間)の勤務日数が、その会社の正社員の概ね4分の3以上であること」です。Cさんも、1日6時間ではなく、例えば5時間にすれば、社会保険(厚生年金・健康保険)から脱退することになり、お給料の多寡にかかわらず、年金は全額もらえることになります。
 ただし、厚生年金・健康保険を脱退することにはデメリットもあります。個人個人の状況に合わせて有利な方を選ぶとよいでしょう。


■健康保険・厚生年金を脱退するメリット

@ 年金が減額されず満額もらえる。
A 年金保険料の負担がなくなる。(国民年金は原則60歳までなので、年金保険料はもう払う必要なし)


■健康保険・厚生年金を脱退するデメリット

@ 加入年数が長いほど年金は増える。脱退してしまうと年金はこれ以上増えない。
A 健康保険は、国民健康保険か、今まで加入していた健康保険の「任意継続被保険者」にならなければならない。今までの健康保険料より高くなる場合もある。
B 60歳未満の被扶養配偶者がいる場合、その配偶者は今まで「第3号被保険者」として国民年金保険料を払わなくてよかったが、「第3号被保険者」ではなくなるため、国民年金保険料を払わなくてはならなくなる。(現在、月額14,410円)


年金の金額や、お給料に応じた減額がどの程度になるかなどは、人によって異なるため、どういう方法が最も有利なるかは、一概には言えません。西多事務所では、年金シュミレーションシステムを使って、その方専用のシュミレーションをし、有利な方法の選択のお手伝いをさせていただきますので、是非ご相談ください。


いかがでしたでしょうか。「たった1日の差でもらえなくなる」、「たった100円の昇給で数十万円の負担が増える」「たった1時間の差で支給額が何十万も増える」という事例をご紹介しましたが、これはほんの一例です。他にも同様のケースはたくさんあります。そのほとんどが、「制度をよく知っていたら有利になるように調整できたのに…」というケースです。「知っているのと知らないのでは、大きな損得が生じる」ということです。
 西多事務所では、これからもこういった情報を常に皆様に発信し、事業主様や従業員様が知らない間に損をしてしまわれることがないよう、お役に立っていきたいと考えています。