最近のニュースや報道でも盛んに取り上げられる「裁判員、裁判員候補者(以下、「裁判員等」と言う)」ですが、目的・選ばれる人など裁判員制度そのものに関することが多く、事業所としてどのように対応していくかは、ほとんど触れられていません。
そこで、今回は事業所が裁判員制度の実施に対して労務管理上、どのように対応すべきか解説していきます。

●はじめに●・・・・「裁判員」制度の基礎知識

1、裁判員は刑事裁判に参加し、裁判官と一緒になって被告人が有罪か無罪か、有罪の場合はどのような刑になるのかを決めます。

2、死刑又は無期懲役、禁錮になるような重大な犯罪(殺人、強盗致死傷等)・年間3,000件程度が対象です。

3、今後、毎年秋に翌年1年分の裁判員候補者(全国で約30万人)が選ばれます。

4、裁判員等は、20歳以上の有権者の中からくじで選ばれます。

5、候補者に選ばれると、担当事件の6週間前までに呼出状が送られてきて、該当日に裁判所へ出頭することになります。
来年は、平成21年5月21日に裁判員制度がスタートするため、裁判所に行くのは早くても7月下旬以降の予定です。

6、裁判員等は、原則として住所地を管轄する地方裁判所に行くことになります。

7、審理の日程は、通常3日程度、長くても5日程度で、連続で行われる予定です。

8、1事件につき50〜100名の候補者が呼出を受け、裁判長の質問手続を経て、最終的に裁判に参加する6名の裁判員が選ばれます。

9、裁判員等の住所や名前は非公開です。また、判決書も裁判官は、署名・押印しますが、裁判員が判決書に署名・押印することはありません

10、裁判員等には、日当(候補者8,000円以内、裁判員10,000円以内)や交通費が支給されます。

 ●その1● 裁判員等は守秘義務があるが事業所は、従業員より裁判員等に選ばれたと聞いたり、裁判所からの書類を見せてもらうことは構わないか?

 従業員が、裁判員等に選ばれたことの報告を上司や同僚が聞くのは問題ありません。
また、裁判所からの期日のお知らせ(呼出状)などを見せてもらうことも問題ありません。
ただし、従業員が裁判員になったことを、事業所や上司等が公にすることは法律で禁止されていますので注意が必要です。


 ●その2●仕事が忙しい場合、辞退(させることが)できるか?

 まず、事業所が辞退をさせることは、認められません(労働基準法第7条)。また裁判員として仕事を休んだことを理由に、解雇などの不利益な扱いをすることは法律が禁止しています(裁判員法第100条)。
なお、従業員自身が仕事の都合で急遽、裁判員を辞退したいという場合は、
下記のCCに該当するかどうかになってきますが、単に忙しいだけではダメで、「事業所の現状・他の従業員で代替可能か?日時の変更で対応可能か?」などの観点から総合的に判断され、安易に認められません。最終的には裁判所が辞退を  認めるかどうか、その都度判断することとなります。また、「裁判審理中に賃金が出なくて生活に支障がでるから辞退したい。」といった理由も認められません。


@、70歳以上の人
A、5年以内に裁判員や検察審査員などの職務に従事した人
B、1年以内に裁判員候補者として裁判員選任手続の期日に出頭した人
C、以下のような一定のやむを得ない理由がある人
A 重い病気又はケガ
B 親族・同居人の介護・養育
C 事業上の重要な用務を自分で処理しないと著しい損害が生じるおそれがある
D 父母の葬式への出席など社会生活上の重要な用務がある
E 妊娠中又は出産の日から8週間を経過していない
F 重病又はケガの治療を受ける親族・同居人の通院・入退院に付き添う必要がある
G 妻・娘の出産に立ち会い、又はこれに伴う入退院に付き添う必要がある


 ●その3●裁判員等の休暇、賃金・賞与等はどのように取り扱うべきか?

1、従業員が、裁判員等の仕事のために必要な休みをとることは法律で認められています。しかし、事業所が特別有給休暇制度を設けることや賃金を支払うことは義務付けられていません。したがって、各事業所がどのように取り決めをしているかによります。

2、通常の年次有給休暇の使用により裁判員業務に従事してもらうことは、何ら問題がありません。その際、 裁判員等が年次有給休暇を取って裁判に参加した場合、裁判所からの日当と事業所からの給与の両方を受け取ることになります。
しかし、日当の性格は、そもそも裁判員等の職務に対する報酬ではありません。あくまでも裁判員等として職務を行うことによって生じる損失を一定限度内で補償することが目的となっています。
したがって、二重払いという発想にはならず、従業員が年次有給休暇を取って裁判に参加しても、日当を受け取ることに問題はありません。

3、裁判員等として仕事を休んだことを理由に、解雇などの不利益な扱いをすることは法律が禁止しています(裁判員法第100条)。
よって、解雇、降職降格、昇給停止、懲戒処分などは直接的な不利益取り扱いとして禁止されることは当然です。
また、給料のカットに関しては先に触れたように裁判員等として出頭する日について、使用者が有給にしなければならないとは義務付けていませんし、国からも日当が支給されることから無給で構いません。次に賞与や皆勤手当などの減額や不支給ですが、目的、趣旨、不利益の程度からして裁判員等として参加することが抑制されると判断されれば無効となるし、その程度ではないと考えられれば有効と思われます。 


  ●その4●会社を休むために提出が必要な場合、証明書はもらえる?
裁判員等として裁判員等選任手続の期日に出向いたり、勤務した場合は、申出があれば、本人に対し証明書が発行されることになっています。
裁判員候補者の方は、呼出状の一部に設けられる出頭証明書欄に証明スタンプを押印してもらえますし、裁判員として職務に従事した方は、別途証明書が発行されるので、会社より提出を求められた場合、それらを提出することで証明書となります。


  ●その5●裁判員等が事故にあった場合の労災保険や通勤災害との関係は?
1、裁判所と自宅の間を行き帰りする途中で事故にあった場合や裁判員等  の仕事中にケガを負った場合は、常勤の裁判所職員と同様に国家公務員災害補償法の適用となり、通勤災害や公務災害として補償を受けることが出来ます。

2、裁判所より事業所へ戻る途中で事故にあった場合は、自宅に帰らず会社に戻ろうとする場合なので、国家公務員災害補償法の通勤災害とはなりません。ただし、労災保険法では2つ以上の勤務先を掛け持ちしている場合に1つの事業所から他の事業所への移動の過程で事故にあった場合は、通勤災害として認められることになっています。よって現段階でははっきりと見解が出されていませんが、裁判所から事業所までに移動する場合の事故も労災保険の通勤災害として補償されることになると考えられます。

  ●参考法律条文
労働基準法
(公民権行使の保障)
第7条 使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。
裁判員法
(不利益取扱いの禁止)
第100条 労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得したことその他裁判員、補充裁判員、選任予定裁判員若しくは裁判員候補者であること又はこれらの者であったことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。