平成18年4月の高齢者雇用安定法の改正により、原則として事業所には 従業員の65歳までの雇用継続が義務付けられています。改正法施行当時は、景気もそこそこ良く、人手不足感などもありスムーズに60歳以降の定年延長や再雇用が実施されていた感がありました。しかし、その後の世界同時不況などで事業所が厳しい経営状況に置かれ、団塊世代の大量定年による人材の余剰感などからここにきて、「再雇用拒否や60歳定年での雇止め」などトラブルになるケースが増えています。当事務所にも、再雇用制度に関する相談が非常に増えてきています。  そこで、今回は見直しに成功したケースや重要と思われるポイントについて説明します。

■ 【はじめに】 高齢者雇用安定法とは?

 高齢者雇用安定法第9条により、次の3つの措置(これを「高齢者雇用確保措置」といいます。)のうち、いずれかを講じなければいけないとされています。


高齢者雇用確保措置
@65歳までの定年引上げ、 A再雇用(継続雇用)制度の導入、B定年の定めの廃止

@、Bは解説するまでもなく、65歳定年や、定年を無くすケースです。Aは、定年が60歳のままであっても、従業員が希望する時は、定年後65歳まで嘱託や契約社員などとして、再雇用する制度を設ければよい方法のことです。
また、この再雇用制度には例外があります。原則、希望する従業員全員を再雇用する必要があるのですが、労使協定により選定基準を設けた場合、その基準に該当する従業員のみを再雇用すればよいことになります。選定基準は、恣意的でないことが求められており、例えば以下のようなものが挙げられます。


選定基準の例
・定年時における人事考課で3年連続B以上
・定年前の3年間の出勤率が95%以上
・直近の健康診断で、業務の遂行に支障がないこと・・・など


上記のいずれかの高齢者雇用確保措置が事業所には義務付けられていることから、事業所の一方的判断で、「60歳定年だから・・、景気が悪くなったから・・」などという理由で従業員を退職させることは出来ません。

■ 【事例1】 年金などの公的給付を活用し、再雇用者の人件費の50%削減に成功したケース

 
A社の場合、取引先からの大幅な受注減により、現役社員さえ賃金カットを実施せざるを得ない状況でした。そこで、60歳定年を迎える従業員とよく話し合った上で、なるべく事業所側の負担を減らしつつ、再雇用者にとっても大きな収入減とならないように考え、在職老齢年金と高年齢雇用継続給付金を活用する方法を取りました。


●在職老齢年金とは?
年金受給者が厚生年金に加入している場合、在職中に賃金の額に応じて、年金の一部または全部が支給される制度。

●高年齢雇用継続給付金とは?
雇用保険に加入している60歳以上の従業員の賃金が一定以上引き下げられた場合、雇用保険の保険給付が支給される制度。

 
 
年金賃金シュミレーションの結果、給料40万円を半額の20万円にしても、  年金7.8万円と高年齢継続給付金3万円を受給することで、手取額で定年前の8割強の収入が確保できることが分かり、労使双方満足のできる労働条件となりました。

(従業員・・・定年60歳時:給料40万円→ 再雇用後:給料20万円、年金額月額10万円)のケース
               


ポイント!

 再雇用者一人ひとり、給料・年金額が違うためその都度、賃金年金シュミレーションをすることが必要です。顧問先様については、無料で賃金年金シュミレーションをさせていただきますので、必要な場合はお申出下さい!


■ 【事例2】 再雇用制度の選定基準を見直し、人件費削減に成功したケース

 B社の場合、再雇用制度を導入し、労使協定で選定基準も設けていました。しかし、条件が誰でもクリアできる程度のものであったためこれまでは実質、希望者全員が再雇用される状況でした。しかし、この不況のため本当に必要な者のみ再雇用する制度へ変更することが必要になりました。そこで、「毎年過去1年の営業成績が現役社員も含めた中で平均点以上であること」という選定基準を労使協定で新たに締結しました。結果、再雇用の選定基準が厳格になったことで、再雇用の割合が100%から70%に減少することになり、人件費削減が達成できました。


 ポイント!

選定基準は事業所側で一方的に制定できるわけでなく、以下の手順で確実に行い、労働者過半数の信任を得た真の労働者代表と適正に労使協定を締結することなどが重要です。

★手順
@選定基準の現状確認 → A選定基準の分析・検討 → B労使間協議 → C労使協定締結 → D就業規則・諸規程の変更

■ 【事例3】 職種変更や、雇用区分・勤務時間等を変更しパート・アルバイトでの短時間勤務で成功したケース

 C社では再雇用制度を導入し60歳定年後は、正社員と同時間勤務で嘱託従業員として雇用していましたが、景気の悪化により、業務量も減っていたところ、本人からも体力的にフルタイム勤務を続けることが困難との申出を受けたため、1日5時間の短時間勤務や週3日の隔日勤務を導入し、また再雇用者であっても必要に応じて別部署への人事異動も行うことにしました。これにより、再雇用者の勤務も軽減され、年金を全額受給し高年齢雇用継続給付金も受給することで、週3日の勤務でありながら、手取り収入は定年前の6割強(20万円強)となり、事業所も人件費の軽減及び人員の適正配置ができました。



(従業員・・・定年60歳時:給料40万円→ 再雇用後:給料10万円、年金額月額10万円)のケース

                 


 ポイント!

再雇用者がフルタイム勤務すると厚生年金へ加入する義務が生じ、年金がカットされます。しかし、週5日勤務の会社なら、4分の3未満になる週3日勤務にすれば厚生年金に加入しないので、年金はカットされません。また、1週20時間以上勤務のときは雇用保険に加入することになります。そこで、週3日(1週20時間以上〜30時間未満で)勤務にすることにより、年金が全額(満額)支給され、高年齢雇用継続給付金が受給可能となります。また、高齢者雇用安定法が事業所に求めているのは、再雇用等での雇用確保措置を講ずることであり、定年退職者の希望に応じた労働条件で雇用することを求めているものではありません。したがって、定年を境に事務から現場への人事異動などを命じ、結果として従業員がそのような労働条件での再雇用を拒否したとしても法違反にはなりません。


■ 【事例4】 65歳定年制から再雇用制度への変更を行い成功したケース再雇用制度の選定基準を見直し、人件費削減に成功したケース

 D社は今から10年前の当時、65歳定年を導入することで事業所が助成金を受給できる制度があったこともあり、いち早く65歳定年を実施していました。そのため60歳になっても従業員の賃金は現状と変わらないといった状況でした。しかしここに来て、団塊世代が多い職場だったため、定年となる方が多く、今後の技術の伝承を考えると若手の新規採用が本来必要なはずですが、現状の人件費でさえ苦しいため、採用もままならない状況でした。また60歳になった従業員の中には、65歳まで正社員で勤務するのは体力・精神的にも苦痛だと言う者もいました。そこで、労使で協議を行い、次代を担う新入社員を採用するためにも65歳定年制を廃止し、「60歳定年→65歳までの再雇用」へと高齢者雇用確保措置を変更しました。これにより、事業所は労働条件を柔軟に決定することも可能になり、人件費の負荷を軽減することに成功しました。また従業員側も健康確保や、仕事と生活の調和を図ることができるようになりました。



 ポイント!

この事例の場合も、事例2と同様、事業所側で一方的に65歳定年を廃止し、60歳定年に戻すことは避けるべきです。いわゆる不利益変更にも該当すると考えられるので、労使で協議し、従業員にもよく理解してもらい後でトラブルならない慎重さが求められます。選定基準は事業所側で一方的に制定できるわけでなく、以下の手順で確実に行い、労働者過半数の信任を得た真の労働者代表と適正に労使協定を締結することなどが重要です。


■ 【まとめ】

 今回紹介した事例は全て事前に綿密な打合せや、従業員との話合いの上、理解してもらえたので成功しています。したがって、安易な方針で事業所が強行的に制度変更などを行うと、下記のようなトラブルになり最悪、訴訟に発展する可能性もあります。気になった顧問先様には、最善の対応策を提案させていただくつもりです。今すぐ西多事務所までご相談ください。