西多事務所では、毎日、事業所様からたくさんの相談をいただいています。今回は最近の相談事例の中からいくつかをご紹介しましょう。


■(事例1) 当社では、従業員の能力向上のため、毎週木曜日の終業時間後、社長以下全員参加で約30分の勉強会を行っています。「仕事」ではなくあくまで「勉強」ですから、この時間に対する給料は払っていません。ところが、従業員から「残業扱いにするべきでは?」との指摘がありました。

→ 「勉強なんていうものは、自発的に自分でお金を払ってでもやるものだ。それをお金をもらって勉強しようなんて、最近の若い者は! ワシの若い頃なら×××」という社長さんの嘆きが聞こえてきそうですね。
 確かに、勉強会は本来の業務そのものではありません。しかし、結論から言うと、この事例では、お給料の支払が必要と考えられます。

賃金を払わなくてはならないかは、その時間が「労働時間」かどうかということがポイントとなります。労働基準法では、「労働時間」の定義づけはされていませんが、厚生労働省からは、「労働時間とは、使用者の指揮命令下におかれる時間」という見解が示されています。
この事例では、社長の命令により、強制参加で勉強会を行っており、従業員は完全に会社の指揮監督下におかれています。そうなると、本来の業務ではないけれども「労働時間」ということになり、賃金の支払いが必要になってくるのです。終業時間後に行われていることから、従業員さんの指摘どおり、残業扱いにすべきといえるでしょう。早急に対応していただかないと、「残業手当の不払い」として、労働基準監督署から厳しく取り締まられることになるかもしれません。

 ちなみに、この勉強会が、強制参加ではなく、また不参加だからといって特に不利益を受けることもないような性質のものであれば、「労働時間」とはいえず、賃金の支払いも不要と考えられます。


(参考)
 では、次のようなケースは、「労働時間=賃金の支払いが必要な時間」でしょうか。
@ 始業前の掃除当番やお茶汲み
 → 従業員が自発的に早く出勤し、自分の机の整理をするようなケースは「労働時間」ではないと考えられますが、例えば社長や上司の命令で、「輪番で始業15分前に出勤し、掃除とお茶の準備をすること」としているのであれば、当然、「労働時間」となり、その時間分の賃金の支払いが必要になってきます。

A 出勤後、制服に着替える時間や、会社の入り口から職場までの歩行時間
 → これらについては、参考になる判例があります。それによると、「入門後職場までの歩行や着替え、靴の履き替えは、それが作業開始に不可欠のものであっても労働力提供のための準備行為であって、労働力の提供そのものではない。よって、労働時間ではない」とされています。(日野自動車事件、最高裁一小判決、昭和59・10・18)


■(事例2) 週4日勤務のパートタイマーより、「2週間後に退職したい。有給休暇が14日残っているので、退職日までの14日間すべてを有給休暇に当てたい。」との申し出がありました。これを拒むことはできますか?


→ 労働基準法では、雇い入れから6ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対し、10日間、その後は勤続年数に応じて定められた日数の「年次有給休暇」(以下「有休」という)を与えなければならない旨が規定されています。
 この休暇は、労働者が安心して休み、心身の疲労を回復できるよう、賃金が減額されることなく、労働の義務が免除されるという性質のものです。「労働の義務が免除される」ためには、そもそもその日が「労働日」であることが前提条件です。
 この事例のパートさんは、週4日勤務の契約ですから、労働の義務があるのは、週4日だけ、つまり有休を取得できるのは、本来出勤予定日であった4日間だけということになります。この場合、退職まで2週間ありますから、最大でも4日×2週間で8日間しか取れないことになります。
 では、残った6日間の有休はどうなるのでしょうか。退職後に与えなければならないのでしょうか。退職日以降の日は、「労働の義務のある日」ではありませんから、当然ながら退職日以降の日に有休を取得することはできません。

 ところで、このような事例の場合、「引継ぎや後任者の手配もできないまま、有休を取得されては非常に困る。その8日間さえ取得を認めたくない」というのが、事業主さんや上司の方のホンネではないでしょうか。退職前の有休一括取得、果たして拒むことはできるのでしょうか。
 答えは、残念ながら「ノー」です。「従業員の請求した日に有休を与えることが、事業の正常な運営を妨げる場合は、別の日に与えることができる」という、「時期変更権」が事業主には認められています。しかし、他に変更して有休を付与できる日があってこそ行使できる権利です。このケースのように、退職日までのすべての日が有休で埋められている場合、もはや変更すべき余地が残っておらず、時期変更権は行使できないのです。



 対策としては、「これだ!」という万能の方法はないのですが、次のようなことが考えられます。
 
@ 就業規則に、「従業員が退職する場合は、退職日までに業務の引継ぎを完全に終了させなければならない。」といった規定を設ける。

このような規定を設けたとしても、「引継ぎが完了していないから」という理由で、いったん申請の出された有休の一括取得を一方的に拒否することはできません。しかし、日頃からこの条文を周知させ、「退職の申し出は余裕をもってしなければならない」「退職時は、責任を持って引継ぎをしなければならない」という意識を従業員に根付かせることによって、引き継ぎもない状態での有休の一括申請という行為を予防する効果は、ある程度期待できるでしょう。
 
A 退職により使えなかった有休の買い取りを提案してみる。

 先に述べたとおり、有休は、労働者の心身の疲労の回復を目的としていますから、有休の買い上げを予約し、それにより有休を与えないという行為は認められていません。しかし、退職により消滅してしまった有休の残日数を恩恵的に買い上げることは、法違反でないとされています。
 一方的・強制的に「買い上げてやるから休むな」ということはできませんが、本人との話し合いで、本人納得の上、有休は取得せず出勤してもらい、消滅した日数を買い上げるというのなら認められるということです。



■(事例3) 通常はマイカーで通勤している従業員が、マイカーの急な故障のため、バスと電車を乗り継いで出勤しようとしたところ、駅の階段で足を踏み外して転倒。足を捻挫してしまいました。この従業員は、会社への「通勤経路届」には、マイカー使用としてその経路を届け出ており、通勤手当についても、その届に基づいてガソリン代を支給しています。このような場合でも、通勤災害として労災保険の給付が受けられますか?

  → 労災保険法では、通勤災害として給付の対象となる「通勤」の範囲について、「労働者が就業に際し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復することをいう」とされています。
 ここでいう「合理的な経路」とは、「乗車定期券に表示され、あるいは、会社に届け出ているような、鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに交替することが考えられる経路等が合理的な経路となる」との通達が出ています。また、「合理的な方法」とは、「鉄道、バス等の公共交通機関を利用し、自動車、自転車等を本来の用法に従って使用する場合、徒歩の場合等、通常用いられる交通方法は、当該労働者が平常用いているか否かにかかわらず、一般的に合理的な方法と認められる」とされています。
 ご相談のケースでは、会社に届け出ている経路・方法ではありませんでしたが、バスと電車を乗り継いで会社へ行くことは、それに代わる経路・方法として妥当なものであったようですので、通勤災害として、労災保険の給付が受けられると考えられます。


■(事例4) 当社では、正社員には採用時の健康診断と、年1回の定期健康診断を行っていますが、数名いるパートタイマーには実施していませんでした。パートにも健康診断は実施しないといけませんか? 中には、「受けたくない」と言っている者もいますが、希望者のみ実施してもいいですか? 


 →「労働安全衛生法」では、事業主に対し、いくつかの健康診断の実施を義務付けています。代表的なものは次の通りです。

@ 雇入れ時の健康診断・・・常時使用する労働者を雇入れるとき実施する
A 定期健康診断・・・常時使用する労働者について1年に1回(深夜業等特定の業務については6ヶ月に1回)実施する

 パートタイマーであっても、次の2つの要件を満たしている場合は、「常時使用する労働者」として健康診断を実施しなければならないこととされています。

ア、雇用期間の定めのない者(雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上使用される予定の者、雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上引き続き使用されている者を含む)
イ、1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であるとき
  ※なお、所定労働時間が2分の1以上の者については「実施することが望ましい」とされています。
 
 さて、パートさんの中に、健康診断を受けたくないという方がいるとのことですが、健康診断は、事業主に実施義務を課していると同時に、労働者にも受診義務を課しています。
ですから、上記の要件を満たしている限り、本人が「受けたくない」と言ったとしても、受けさせなくてはなりません。
ただし、会社の指定する病院での受診がどうしても嫌な場合、本人が別の医師による健康診断を受け、その結果を会社に提出した場合は、会社で行わなくてもよいことになっています。

 
健康診断を適切に実施しているかどうかは、労働基準監督署の調査でも必ずチェックされる項目の1つです。その費用は決して安いものではなく、事業主さんにとっては、大きな負担かと思いますが、健康保険協会の「生活習慣病予防健診」(健診費用の補助制度)などを上手に利用し、正しく実施したいものです。