インターネットの普及により、ちょっと調べれば、簡単にあらゆる情報を手に入れられる時代になりました。例えば、「サービス残業」とキーワードを入れれば、たちまち、「サービス残業とは何か?」から「残業手当の正しい計算の仕方」、「サービス残業代を会社に払わせる方法」まで、誰でもあっという間に知識を仕入れることができます。社長や人事労務担当者様よりもその手の情報に詳しくなった従業員がある日突然、会社に対して、「法違反だ!」と訴えてきたり、労働基準監督署などの役所に申告に行くという話も珍しくなくなってきました。
 そんなときに慌てずうまく対処し、大トラブルに発展するのを阻止するためには、社長や人事・労務担当者様自身が正しい法律知識を持っておく必要があります。
 そこで今回は、ほんの一部ではありますが、日頃よく受ける質問の中から、労働時間や残業手当に関する問題を取り上げて解説させていただきます。

● 【Q1】 我が社は、8時30分から17時30分までの1日8時間労働(休憩1時間)です。従業員のАさんは、今週月曜日に寝坊して1時間も遅刻してきました。そのせいもあって、今週中に仕上げないといけない仕事が間に合わず、金曜日に1時間の残業をしました。月曜日の遅刻と金曜日の残業を相殺して差し引き0になるので、Аさんへの残業手当はいりませんよね?兼業は禁止できるか?
 
⇒ 結論から言うと、この場合は相殺できません。労働基準法では、「1日8時間」を超えて労働させた場合に、割増賃金を支払うことになっています。このケースの場合、金曜日に8時間を超えて働かせていますので、1時間分の割増賃金(1.25倍)を支払わなければなりません。別の日に遅刻をしたからといって、これは変わりません。
ただし、月曜日に遅刻した1時間分のお給料をカットすることはできます。
 
仮にАさんのお給料が時給単価1,000円だとすると、
・月曜日の給料  ・・・ 1時間遅刻のため、1,000円カット。
・金曜日の残業手当・・・ 1,000円×1.25= 1,250円支給


ということで、本人は普通に働くより
250円も得したことになり、逆にいうと会社は250円も余分なお金がかかったことになります。どうも納得いかないことなのですが、法律上はそのようになっているのです。

「遅刻して、別の日に残業をした方が得」なんてことになれば、遅刻が蔓延することになりかねないし、他のまじめな従業員もやってられない…ということで、遅刻や欠勤などのない従業員には、「皆勤手当」を支給して差をつけるという方法は、多くの会社で取り入れているところですが、他にもこのような方法があります。

就業規則に、「遅刻をした場合は、1回○円の減給処分とする。」といった懲戒規定を設けるのです。遅刻した時間分の賃金カットとは別に、ペナルティとしていくらかの減給をすることができます。
このとき気をつけないといけないのは、懲戒処分としての「減給」については労働基準法で上限が定められていることです。

「1事案につき平均賃金の1日分の半額以内」 かつ「複数の事案があったときは、総額が賃金支払期における賃金総額の10分の1以内」
となっています。

 **ちょっとこぼれ話**
1時間遅刻をした当日に1時間残業をした場合はどうなるでしょうか。これは割増賃金を支払う義務はありません。労働基準法では、「1日8時間を超えて労働した場合に割増賃金を支払う」と規定しているので、1時間遅刻して1時間残業した場合、この日のトータルの労働時間は8時間なので、割増賃金は発生しないのです。

               
●【Q2】 タイムカードどおりに「残業手当」の計算をするのは大変!毎日15分未満は切り捨てています。これくらいは許されますよね?
 
⇒ 結論から言うと、これもダメということになります。1ヶ月の時間外労働の時間数を合計して、1時間未満の端数が出たときは、30分未満は切り捨て、30分以上は1時間に切り上げる、という方法は認められていますが、毎日の時間を切り捨てることは認められていません。毎日1分単位で計算するのが大変な事業所様は、次のような方法はいかがでしょうか。

@「残業承認簿」等により残業手当を計算する
 残業は原則として上司の指示命令があったときのみとし、もし、自己判断で残業が必要とするならば、あらかじめ何のために何時間必要かということを「残業承認簿」等で申請させます。また実際の残業時間が予定と異なったときは、実時間を記入させ、これにより残業時間を把握するということを、就業規則等でルール化します。
このとき、「15分未満は切り捨てて記入すること」といった規定を設けることはできませんが、人間というもの、大概「キリのいい」ことが好きなので、「今日は33分間残業をします」とか「33分の予定でしたが、実際は42分間しました」といった残業の仕方はしないのではないでしょうか。そうなると、タイムカードを見て1分単位で計算するよりは随分と楽になります。また、業務終了後、ひとしきり同僚とおしゃべりしてからタイムカードを押す、ということがあったときに、おしゃべりの時間にまで残業手当を支払わなくて済むことにもなります。そして何より、無用なダラダラ残業を抑止することもできます。

A 残業手当を定額で支払う
労働基準法で定められている正しい割増賃金の計算方法で算出した額以上のものであれば、残業手当を定額で支払うことは違法ではありません。ただし、次のようなことに気をつける必要があります。

・「ウチの会社では、残業代は基本給に含まれている!」…という主張は通用しない!
割増賃金とそれ以外の賃金が明確に区別されており、また従業員にそれを明示していないといけません。基本給20万円、残業手当5万円(○時間分)というように…

・「残業が多い月と少ない月があるので、年間通せばトントン」…は通用しない!
賃金は毎月、全額を支払うことが労働基準法で定められています。「今月の不足分を来月の余りで補う」という発想は許されません。定額で払う残業手当だけでは不足する月があれば、不足分をその月に支払う必要があります。
結局、不足が出ていないか毎月チェックして不足があれば追加で支払うか、残業が多い月でも絶対不足が出ないような多い目の定額残業代とするか、などの対策が必要となることになります。
 また、忙しさとお給料が連動せず、いつも同じ額となると、従業員さんの意欲をそぐこともあるかもしれません。このようにメリット・デメリットがありますので、導入をお考えの事業所様はご相談ください。
 



 **ちょっとこぼれ話**
ちなみに、労働基準監督署の調査を受ける場合、「正しく割増賃金を支払っているか」という点は、近年最も詳しく調べられる項目の一つですが、我々社労士が調査を受けた経験から言うと、終業時刻が17時30分の会社で、タイムカードの打刻が17時39分の場合、さすがに「9分ぶんの残業手当を払え」とまでは言われません。業務終了後にトイレに行ったり、帰る支度をしたり、タイムカード設置場所まで移動したり…といった時間に10分程度はかかるだろうということです。

  


【Q3】 当社では、従業員数が10人以下なので、就業規則の作成・届出はしていませんが、休日は土曜・日曜としています。今までこれらの日に勤務させたことはありませんでしたが、今回初めて土曜に勤務してもらいました。「休日」に労働させた場合は、1.35倍の割増賃金を支払わなくてはならないのですよね?

⇒ このケースでは、1.35倍の割増賃金は支払う必要はありません。確かに、労働基準法では、「休日」に労働させた場合は、1.35倍の割増賃金を支払うよう規定しています。しかし、その「休日」とは、会社で定めた「所定休日」のことではないのです。労働基準法では、休日は最低でも「毎週1回」または「4週に4回」与えるよう決められています。この最低限の「休日」を「法定休日」といい、その日に働かせたとき、1.35倍の割増賃金を支払うこととなっているのです。
上記のケースですと、この週は、土曜日に勤務をしましたが日曜は休みました。「1週に1回」の最低限の休日は確保されています。よって、土曜日の勤務は、労働基準法でいう「休日出勤」ではないということになるのです。
 ただし、労働基準法では、労働時間は原則として、「1日8時間以内、1週40時間以内」としなければならないという別のルールがあります。この会社が1日8時間労働だとすると、月曜から金曜日までですでに40時間となっていますので、土曜日の勤務は「時間外労働」となり、1.25倍の時間外割増賃金が必要ということになります。
 (この例では、わかりやすくするため、月曜日を1週間の起算日として書いています。)

 ただし、就業規則の記載は気をつける必要があります。
 もし、「会社の所定休日に勤務させた場合は、1.35倍の休日勤務手当を支払う」などと規定した場合は、上記の例でいうと、土曜も日曜も1.35倍の割増賃金が必要になってくるからです。もちろん、法律を上回る手当を支払うわけなので、法的には何の問題もないですし、給与計算的にもその方がややこしくないのですが、少しでも人件費を節減したい、ということであれば、「法定休日に勤務させた場合は、1.35倍。法定休日以外の休日に勤務させた場合は1.25倍」とはっきり区別して書いておく必要があります。



 **ちょっとこぼれ話**
 就業規則の書き方次第で、割増賃金の支給額が変わる…という話をもう一つ。
1日の所定労働時間が9時から17時30分、休憩1時間で実働7時間30分の会社があったとします。社内的には、17時30分以降の勤務が「残業」ということになりますが、前にも述べたように、労働基準法で1.25倍の割増賃金の支払が義務付けられているのは、1日8時間を超える部分についてのみです。従って、17時30分から18時までの30分間は、通常の単価での賃金を支払えば法的にはOKということになります。
 これについても、就業規則等で「法内残業(1日8時間の範囲を超えない残業)は1.00倍、法定残業(1日8時間の範囲を超える残業)は1.25倍」と明らかにしておく必要があります。
もし、「所定労働時間は、9時から17時30分までの7時間30分とする。所定労働時間を超えて勤務させた場合は、1.25倍の時間外勤務手当を支払う」と書いてしまうと、17時30分以降の残業をすべて1.25倍にしなければならないことになってしまいます。
 もちろんこれも法律を上回ることなので、問題はありません。給与計算の煩雑さを避けるため、わざと一律1.25倍にしている事業所様もあります…。
 
 このように、労働時間や割増賃金に関することは非常にややこしいのですが、正しい知識を持っておかないと、大きなトラブルに発展しやすいことの一つでもあります。疑問点や気になることのある事業所様は、お早めに西多事務所までご相談ください。