「グローバル経済策
     が必要」


      龍谷大学教授 法雲俊邑 


 アダム・スミスの「富国論」には、人間は元来怠け 者であって、自己に利益の可能性が無い時は効率良く 働かないし、逆に自己の利益につながる時に個人の能 力は最大限に発揮されると書かれている。そして彼の 経済学は自由放任に徹し、無理な規制や制度を設ける ことなく、自由に競争する時に最大の経済効率を生み 出し国の富は増大するという原理に立った。そして、 自由主義経済諸国はこの論理をもとに200年来発 展してきた。
 しかし、スミスの自由放任主義による経済活動は 、貧富の格差を生じさせることになり、増大した貧富 の格差はやがて経済活力をも低下させた。これに対し て、ケインズは「一般論」で、社会現象としてある程 度の格差はあるべきものだが、大きくなりすぎるのは 良くないし、生まれながら貧乏で一生チャンスが無い のは社会的活力を失う。これをコントロ−ルする方法 として、唯一、利率引き下げだけを行なうのみで、再 投資増加とその結果としての雇用増大、賃金上昇によ り克服できることを実証した。
 しかしながら今日のグロ−バル化した国際経 済をコントロ−ルするには、これらの論理だ けではどうにもならない状況にある。勿論、 理想としてのマルクス主義もスミスに言わせ れば、崩壊は当然の結果であるというだろう 。急激な円高に突入後、ようやく百円台に落 ち着いたが、わが国経済は失速寸前の状態ま でいったことは間違いない。
 今後もこのままの状態が続けば、国内の賃金は海外に 比べて高いため国内で生産した製品の割高感は続く ことになる。  輸出製品を値上げして経営できる企業は未だしも、 値上げすれば競争力を失う企業は危機多難である。
 一方、輸入製品が値下がりし、海外旅行が割 安になることは結構なことであるが、輸入製 品の増加は長期的に見れば、国内労働者の失 業増大と産業空洞化が危惧される。大胆なリ ストラをきらい「和を重んじる」日本型忍従 策は、優れた「前川レポ−ト」も無にしたが 再考する必要があるのではないだろうか。