エスニック

ツェッターフェルト



飛べ!ハングライダー娘

朝食までの時間、朝もやの高原を散策した。今は牧場だが、冬になると山一帯が広いゲレンデなるらしい。山小屋の辺りから、クワッドリフトが山頂の方へ伸びているのが見える。きっと反対側にも降りられるのだろう。海外らしくスケールの大きいゲレンデだ。

「冬にまた来るから、いっしょにどうですか?」とThomasに誘われた。「いいですねぇ」と曖昧に答えた。来られるもんなら、来たいに決まってるさぁ…

 さあ、ハイキングに出かけましょう


朝食を済ませると、全員でハイキングに出かけた。少し雲が出ているが、怪しい天気ではない。ただし、気温はグッと下がっているので、グリねこはセーターにパーカーの完全防備だ。

とりあえず、リフトに乗って上へ行く。降りたところには、今日ハングライダーをする予定の6人が、すでにインストラクターと待機していた。

トップバッターはナミちゃん。パラシュートを着けてインストラクターと密着して立っている。彼女は昨年もここへ来て、ハングライダーに挑戦したのだが、途中で風の状態が怪しくなって中止になってしまい、順番が最後だったためひとりだけ飛べなかったのだ。彼女にとって、これが2年越しの挑戦となる。

 スタンバイするナミちゃん


インストラクターの合図で、ふたりは走り出した。坂を転がるように降りていって、ふわっと浮かび上がった。あ、飛んだ飛んだ!空中に赤い羽を広げて、右に左にゆっくり旋回しながら降りていくのを、みんなで見送った。真下にはリエンツの街が広がっていた。

ナミちゃんが行ってしまうと、次はKフリさんの番だ。ハングライダー用のスーツが一着しかないのか、彼女はかわいそうに自分の服のままパラシュートを背負っていた。今でもけっこう寒いのに、空中で大丈夫かなと思ったけど、これから飛ぶ興奮で、彼女は気にも止めていないようだった。

Kフリさんとインストラクターの男性が、立ちっぱなしで風を待っている。リボンをつけたストックを地面に刺して、その動きで風を読んでいるのだ。しかし、いつまでたってもいい風は立たず、リボンはうなだれたままだった。

長い時間待っていたが、急にインストラクターたちがKフリさんのパラシュートをカチャカチャはずしはじめた。どうしたのかと思っていたら、今日はこれから天気が悪くなるので中止だという。危険を伴うスポーツなので、その辺は慎重なのだ。残念だが、後の5人は飛べずじまいだった。彼女らは、また来年リベンジするのだろうか。

 遥かな下界

はめられて登山

みんなで一列になって、登山道を進む。あたりは荒涼し、草木は見当たらず高山特有の景色だ。この岩ゴロゴロの険しい道は、ウネウネと山頂のほうへと続いている。グリねこはみんなに遅れをとらないよう、ゼエゼエと歩を進めていた。前方に切り立った崖のような岩山が見えて気が重くなる。

 来し方を降りかえれば・・


たしかThomasはみんなでハイキングに行きましょうと言っていた。またしても、Thomasにしてやられた。Thomas、あんたの日本語は間違っている。これはハイキングではなくて、本格的な登山なのだ。

1時間ほどかかって、かなり高いところにある平地にたどりついた。池のような水貯まりと、大きなケルンがあった。ここで写真を撮ったり水を飲んだり、ワリと長い休憩を取ったので、もしかしたらここが最終目的地なのかとちょっとホッとした。

 つかの間のくつろぎ・・・


学生たちは池のほとりへ降りていって、水に触ってはしゃいでいる。グリねこも、大きな岩に腰掛けてペットの水を飲んだ。そして、Thomasは?と見まわすと、何とひとり山頂へ続く絶壁のような道を登っていくではないか。やつめ、みんなを出しぬいて先に行くつもりだなと、グリねこも後を追う。学生達も続々と続く。

最初、Thomasにどこまで登るの?と聞いたとき、「あそこまで」と言って指差す山頂は、まるで崖のように切り立っていたので、冗談だと思っていた。しかし、彼は本気なのだ。本気であの上まで登る気だ。尖った山頂には、白い十字架が立っている。めざすはあの十字架だ。

 ケルンの向こうには、めざす山頂


めざすは山頂、白い十字架

登山道はやがて道ではなくなり、ただの急な岩肌となった。道しるべとして、数メートルおきに赤と白のペンキに塗られた石がある。たぶん、オーストリアの国旗を意味するのだろう。その石に沿って、ジグザグに急な坂を上る。

 紅白の道しるべ


先頭きって岩だらけの尾根に到達したコバが、うわ〜!と叫んでいる。「女の子には無理や〜!」ん?なになに?いったいどんな絶壁が向こう側に見えるのだろう。急にワクワクして。早く上に行きたいと焦る。

やっと岩の上に這いあがり、その上に立って下を覗き込むと、目もくらむような断崖絶壁だった。ひとつ間違えば一巻の終わり、バーチカルリミットかクリフハンガーの世界だ。その岩の上にたって、グリねこは「ヒュ〜!かっこい〜!」と雄たけびを上げた。

その後、続々とたどりついた女の子たちも一様に恐がる風でもなく、平気で下を覗いては何事もないように巨石が並んだ尾根の上を、どんどんと進んでいった。

コバの女の子に対するイメージはもろくも崩れさり、彼女たちはとうとう、宙に浮いたようにせり出した岩の先端にある十字架を占拠した。

 天空に突き出す十字架


トップ集団の10人ほどが十字架に到達したところで、にわかにあたり一面白い霧に覆われてきた。Thomasが早く戻るように叫んだ。まるで滝が流れるように、白い霧が山の上からどんどん流れてくるのだ。まだ頂上に到達していない子もたくさんいたが、危険を感じて全員速やかに下山した。


びしょ濡れの日本人

インストラクターが言っていたとおり、本当にお天気が崩れて、まもなく雨まで降り出した。グリねこは、朝の太陽を見てまさか雨など降るまいと思って、雨具を部屋に置いてきてしまっていた。しかたないので、パーカーのフードをかぶってしのぐ。気温はたぶん一ケタ台だろう。

登山道ですれ違う人たちは、皆スキーウエアのような防寒のスーツを着て、足には登山靴、手にはステッキと完ぺきなスタイルだ。それにひきかえ我が同胞は、ジャージやトレーナーで部屋で寝転がっているときとさして変わらないような軽装なのだ。

 雨に濡れて・・


防水効果もなにもない服を着て、冷たい雨にぐっしょり濡れているのを見ると、風邪をひかないかと心配になるが、それは杞憂というものだった。彼らは、冬のようなドイツで夏服でいようが、湖に服のまま落ちようが、冷たい谷川の水を裸足で渡ろうが、ビクともしないほど強い子たちだったのだ。

びしょ濡れのグリねこたちが、転がるように山小屋に駆け込んでいくと、オーナーの奥さんは驚いて、部屋の暖炉に薪をくべてくれた。パチパチと音を立てて、赤い炎が揺らめく。

 やっと帰ってきた〜


お昼ご飯は、皇帝お気に入りのパンケーキ、カイザーシュマレンだった。ご飯と言うよりお菓子に近い。ミッチーは待っている間、肉食いてー、肉食いてーとうわ言のように言っていたので、残念そうだったけど、それでもカイザーシュマレンをたらふく食べたようだ。

グリねこは、カイザーシュマレンは甘すぎて苦手である。でも、マユミさんに塩かけると美味しいよと教えられて、試してみると別の味になってけっこうイケた。さすがマユミさんはオーストリアに精通しているのだ。

 ズッペで温まる


なつかしいリエンツ

山を下りてリエンツの街へ出た。オーストリア最高峰グロースグロックナーの玄関口として、小さいながらも発展している。駅前から街の中心を貫通する通りは、商店街がずっと続いている。場所柄、登山用品を扱う店が多い。以前この街へ来たときに、方位磁石を買ったことを思い出した。

 かわいいリエンツの街


そういえば、あの時も雨だった。雨上がりのカフェの中庭で、ツタの絡まる壁を眺めながらコーヒーを飲んだのだ。あのカフェはこの辺だったかな、と路地を覗きながら歩く。

街の中心の広場のとなりに、大きなショッピングセンターができていた。以前は、たしかなかったはずだ。駅の近くには、巨大スーパーができていたし、この歴史ある素朴な街も着実に、大型店進出の波が押し寄せているようだ。

 2階は大きな雑貨店


5時台の電車に乗ろうと駅へ行くと、ホームで見覚えのある車掌さんとバッタリ会った。クラーゲンフルトに行く朝、ベルクから乗った電車に乗車していた若い車掌さんだった。彼も、グリねこを見て、あっと気がついて「また、シュピタールに行くの?」と聞いた。

グリねこが、笑いながら頷くと、「じゃあ、あっちのホームですよ」と、2番線を指差した。彼は、今はシュピタールとは逆方向に行く電車に乗車していて、前と後ろを指差し、出発確認をすると電車に乗って行ってしまった。同じ電車ならまた話ができたのに、残念だった。

教えられた電車に乗ると、同じ車両にThomasや女子学生たちがすでに何人か乗っていた。Thomasはともかく、学生はもっと遅くまでリエンツにいるものだと思っていたので、意外だった。グリねこは、彼女たちとまとめて切符をグループ購入した。人が何人か集まれば、割引価格になるのだ。

車掌さんとグリねこたちのやり取りを、さっきからThomasがニヤニヤしながら見ている。グリねこのドイツ語がそんなにおもしろいのか?ふ〜んだ、笑ったって平気だもんね〜と無視していると、Thomasが笑いをこらえるように、「グリねこさん、ドアを開けるときはあれを引っ張るんですね」と、赤いフックを指差して言った。Thomasの隣りで、マユミさんもニヤニヤしている。

し・しまった…やつはその事を言いたくてウズウズしていたのか。「そうそう、あれを引っ張るんですよ」とグリねこは、すまして答えた。

 前菜はパテ

 子羊ちゃんと、きのこソース

 クッキーの入ったアイス






エスニック