咆吼

あの「こちら側」の生き物と同じ目をしたニンゲンと
奴は行動をともにしはじめた。
奴がニンゲンの姿でいるときに何をしようと、俺には関係ない。
呼ばれたときに駆け付けられる距離にいるだけだ。

そう、そして奴が「ライダー」として「こちら側」に来れば、奴の指示に従うだけ。
今までなにかとつるむことが多かった赤い「ライダー」を俺の技で苦しめることくらい朝飯前だ。


奴と他の「ライダー」たちが皮を脱ぎ、何やら話をし、また二手に分かれる。
奴はまた、あの蛇もどきとともにいる。
俺は遠目に奴を追う。
俺もずいぶんと飢えに苛まれているが、奴もいつの間にかひどく痩せている。
食いでのないやつと思っていたが、ますます酷くなった。
チッ
あの蛇もどきではないが、イライラする。

そして俺は
俺たちを追う気配に気付いていた。
契約相手を失った犀が、しつこく追いかけてきている。
俺にも奴にも関係のないことだが。


追ってきたのは犀だけではなかった。
あの赤い「ライダー」になるニンゲン…龍との契約者が奴の前にあらわれた。
そいつは、まっすぐ奴の顔を見て口をきいた。
かつて奴が俺にそうしたように。
奴がカードを取り出しかけたとき、蛇もどきが割って入った。
そいつは龍との契約者を傷つけ、しらりと「こちら側」へやってきた。

蛇もどきは紫の「ライダー」となり、赤い「ライダー」を嬲り続ける。
奴は「こちら側」を黙って見つめていた。
ふいにちらと視線が動く。
そうだ、俺はここにいる。
奴はかすかにうなずく。
奴は静かにカードを取り出した。
黒い皮をまとったその姿は、久々に軽やかで、力強かった。

奴の翼となって「こちら側」に降り立つ。
さあ、ゲームの始まりだ。
奴がせっかくその気になってるんだ、決めさせてもらう。

だが、そこに闖入者があらわれた。
あいつ、あの犀が呻り声を上げる。
紫の「ライダー」は一枚のカードを取り出した。
ぞわり、と俺の体を悪寒が走る。
あの憎々しい紙切れ。
我々を縛り付ける忌々しい『力』。
低い笑いとともにそれが掲げられた。


犀の声にならぬ咆吼が俺を貫き、刹那その意識が流れ込んできた。

怒りと
憎しみと
悲しみと
悔しさと
おのれを失うことへの恐怖と
『力』に身をゆだねる安堵感と

一呼吸の間にすべては消え去り

犀のやつは、新たな契約相手と同じ色の目をして、こちらを向いていた。

違う。
これは
俺たちの契約とは違う。

俺は
俺の意思で
奴と枷を交わしあったのだ。


蛇との契約者によって犀の力の技が放たれる。
俺の翼が奴を包み込む。

違う
違う
違う

ちりちりと体を焼かれながら、
俺の中をそれだけが渦巻いていた。

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RYUKI