嫌悪

うえも
したも
みぎも
ひだりも
なにも
わからない

おれのからだがどこにあるかわからなくて
ただぐるぐるとたよりなく
はきそうになって、ようやくめがさめた。

しばらくはただ、あたりをながめていた。

おれは
いままでなにをしていた。
おれは
これからなにをすればいい。

いろいろなやつらがめにうつる。
つののはえたやつ。
しっぽのながいやつ。
あしのみじかいやつ。
くびのながいやつ。

やつらは、おれをみない。
こちらをむいても、おれをみない。
だれも、おれをしらない。

おれは、どこへいけばいい。

なにもわからないまま、おれのからだは、
じぶんのかげがのびるほうがくをめざしていた。


ふ、と。
ねむるまえのかんじがよみがえった。
なにかが
いとのようにからみつき
おれをしばろうとする。

おれは、たたかわなくてもよくなったんじゃないのか。

じわじわとからむなにかが、おれをひきずる。

おれはとんだ。
なにかにむかって。

うみから、やまへ。

とちゅうで、おれのなかみがひきずりだされるようなかんかくにおそわれ
おれはもうすこしで、たににころげおちそうになった。
ようやっともちなおし、つばさをはためかせる。

やはり
くろいにんげんがいた。
かわをかぶっていた。

あかいかわのにんげんも
みどりのかわのにんげんも
むらさきのかわのにんげんも

みたことのないような、きみのわるいやつも。

くろいにんげんがおれをよんだ。
おれはそこへいくしかない。
おれのつばさがそくどをました。

やつがもとめる
おれがたたかうことを。
やつのこえがおれのなかにひびきわたる。
おれのからだがかわっていく。
もとめるなら
かわるしかない
たたかうしかない。

なれたのだろうか
いまは、それほどくるしくない。

やつのこえのひびきが…
すこし…かわったか?


えいのやつと、ちからをぶつけあったあと
やつはかわをぬぎ、むこうがわへいってしまった。
おれはあとをおう。

じぶんがどこへいけばいいか、わからなかったから。




やつがしろいおおきなはこにはいる。

おれもなんどか…ここにきたことがある。

よこたわる…にんげんのめす。
やつが…ふるえるようにしてみつめる。

ああ、おもいだした。

…思い出した。

奴が俺を憎む理由を。

俺が奴のつがいの片割れを、喰らいかけたから。

自分では息も出来ないあの雌の身体を
ニンゲンたちは後生大事にしまっておいた。
あのしかばね同様の雌のために、
奴は命を賭け、俺を縛り上げようとした。
なんとも馬鹿馬鹿しく、くだらない。

俺がほんのわずか、牙をひらめかせれば…
いや、なにもしなくても、今にもほんものの屍になりそうだ。
そうなったら、どうする。
今度こそ、俺の命を根こそぎ奪い取るか。
カードで縛られた俺とお前、諸共に、砕け散るだけだ。
愚かしい…。

author's note
RYUKI