既視

黒と赤の「ライダー」が、体に金色を交えて、得物を打ち合わせる。
悔しいが、どうしても腕力では押し負ける。
カードを使え。
俺に技を使わせろ。
だが、先にカードを取り出したのは赤と金の「ライダー」。
体勢を崩した奴は、馬鹿のようにそれを眺めている。
何をしている。

妙に間抜けた時が流れる。
赤い「ライダー」は、ついにカードを取り落とす。

そいつは、やっと戦う気になったんじゃなかったのか。
ともかく、反撃だ。

だが、奴は変わらず見つめるだけ。

やがて二匹の輪郭が滲み始める。

その時、同じ貌をしたやつらがまたも湧いて出て、
奴は赤い「ライダー」を抱きかかえるようにして、
ともに「向こう側」へ戻っていく。


なぜ、戦わない。
倒さなければ、お前がやられるんだぞ。
あの死にかけの雌をどうする。

なぜ、赤い「ライダー」を助ける。
…それが「ニンゲン」だとでも…いうのか…


奴ら二匹はあの「イモウト」の待つ巣に帰っていく。
龍との契約者が、なぜだか知らないニンゲンに見えた。







奴が「イモウト」と連れ立って出かけた、
あの建物に何故か俺は近づきたくない。

やがて、奴らが移動した先に、
龍との契約者が顔をひきつらせながら、ふらついている。
ニンゲン二匹がひとしきりわめき合い…。

「こちら側」に飛び込んできた。

白い「ライダー」と契約していた白い虎が
ニンゲンの血の臭いを濃密にまとわりつかせ、
うめいていた。

白い「ライダー」は…
倒れたのか。

《タリナイ…
 タリナイ…
 マダ、タリナイ…》

むせかえる血の臭いを吐き散らすほどニンゲンを腹に収めながら、
飢えに苛まれるとは、
契約相手を喰らい損ねたらしい。

一度契約をしてしまえば、
心底喰らいたいのは、ただ
契約相手だけ。
他にはもう何も…
望めなくなる。


赤と金の「ライダー」が龍の力を借りて白い虎を砕く。

奴がもし、蛇もどきのように「契約」のカードを何枚も持っていたなら。
あのみじめな白い虎を自分の力とすることができただろうに。



体に金色を交えた黒と赤の「ライダー」が、ゆっくりと向かい合う。


もし、俺が赤い「ライダー」と差し違えれば。
空になった「契約」のカードで
自由になった赤い龍を縛り、
奴はより大きな力を手に入れることができる…

奴の望みをかなえるための力を。


もし
奴に
望みをかなえる気があるなら…


戦え。
戦わせてくれ。


激しい衝撃を受けて、風巻く金の力が吹き散らされる瞬間、
いまだうまく動けない自分に怒りが湧く。

赤い「ライダー」が奴に向けて得物を振り上げる。

奴は、動かず見上げる。

赤い「ライダー」の手から得物が落ちる。


以前、似た光景を見た。
黒い「ライダー」が得物を振り下ろさず、
皮を脱ぎ、地を叩き、啼きわめいた。


こういう…ものなのか、
ニンゲンというやつは。

軽々と他愛無げに、
相手をつぶす「ライダー」もいるというのに。


もう、立ち止まっている時間はないのに。


「こちら側」のどこかで、
何かを軋ませる低い唸り声が響くのを感じながら、
俺はニンゲンたちを眺めていた。

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RYUKI