空白

 ほかの「ライダー」たちと関わりだしてまもなく。
 ずいぶんととんでもないやつに行きあってしまった。
 由緒正しき「この世界」の住人である俺からすれば、あんなカラクリ仕掛けとの合いの子のような輩なんぞ、鼻持ちならない新参者なのだが…。
 そいつは馬鹿馬鹿しく強かった。ニンゲンどもの武器を取り入れた攻撃で、見事に街に大穴をあけてみせた。
 やりたい放題すると、さっさと行ってしまったが、会わずに済むなら当分顔を合わせたくないものだ。

 ともあれ。

 奴が初めて俺の前で意識を失った。
 今まで、どれだけ痛手をくらっても、無駄に赤い血を流しても、必死で己を保とうとしていた。理由は俺に隙を見せないためだろう。
 それが、今度ばかりはあっさり意識を手放して。
 目覚めても、俺の方に目も呉れない。
 俺の視線を感じて常に背に漲らせている緊張感がすっぱりと抜け落ちて、いつでも喰えと言わんばかりだ。
 奴の周りのニンゲンに対する態度などから察するに、どうやら奴は俺のことも契約のこともみな忘れてしまったらしい。
 契約そのものを忘れるなど、立派な不履行だ。
 もはや従う必要もない。
 …だが、これで奴を喰ってしまうのはつまらん。
 全力を使い果たしてなお届かなかったという徒労感と絶望と、死への恐怖に奴の顔が歪むのをこの目で見ないことには。

 情けない背を晒しながら、奴が街を駆けずり始める。
 くだらぬニンゲンどもと顔をつきあわせば、何か思い出すとでもいうのか。
 まあ、いい。待っていてやる。
 いつまでも阿呆面を晒すな。
 さっさと己を取り戻すがいい。

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RYUKI