空虚

自分の身体がいきなり塵になりかける。
そんな今までにない状況に、俺はカードを取り出した。
目の前で起こる、異変。

「終わりだ」
ゲームマスターの声が響いた。


脅すような真似をしなくても。
彼女のことならいくらでも探す。
あたりまえのことだろうに。

あたりまえ…

それさえ、もう…
…あの男には通じないのか。


躍りかかるモンスターから、自分たちの身を守ることで手一杯になる。
今まであたりまえのように行ってきた戦い。
それを失えば、たやすく死は目の先にある。

手の中のカードに、翼を持った獣の姿はない。

逃げまどう俺たちの姿を、あいつは眺めているのだろうか。
むざむざ他の獣に俺がやられるのを、見ているつもりか。


こんな「終わり」は考えていなかった。
俺たちを弄ぶなら、
その手のひらの上で、最後まで踊らせろ。







目の前で起きた……惨劇……


人は…変わらない…
少なくともあの男は…
しばらくともにいたからわかる。
モンスターと同じ目をしたあの男は…
変えられないんだ。


俺は、戦う。


普通に生きていれば、考えもつかない状況。
いつの間にか俺には、何も背負わず、何も纏わぬことが普通ではなくなっていた。
空のカードをつかんだときの…空虚。


人を
あざ笑う
悪意の渦の中で。

俺はもがくようにカードを抜き出す。

そこに、浮かぶ、力。
俺のものではない、
だが、俺に与えられる力。


まだ、終われない。

もう少し…
つきあってくれ。

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RYUKI