ばたばたと行き交う看護士たち。
目の前の光景が、悪い夢のようで、
俺はただ立ち尽くすしかない。
…私のせいだ…という横からのか細い声に、
俺は自分を取り戻す。
あの日の光景が
あの日の悪夢が
だれかのためのものだとしても
そのだれかに、これほどの重荷を持たせる必要がどこにある。
キン、と耳に響く感覚に、俺は背を向ける。
俺がそばにいることで、ほんの少しでも彼女の役に立つのなら
いつまでだってここにいる。
だが、ここで俺の出来ることは何もないから。
俺が彼女のためにすべきことは、別にあるから。
俺は彼女に背を向ける。
「キイ」
不意にあいつの声が聞こえる。
冷笑を含んでいるとしか思えないあの声。
そういえば、もうずいぶんの間、聞いていなかった。
振り返っても、あいつの姿はもうどこにもなかった。
変身して、
戦って。
彼女が持ち直したと確認して。
変な子どもにまとわりつかれて。
部屋に入って寝台に倒れ込んだとたん、
己の身体の重さに動きが取れなくなる。
もしかすると、今日、彼女を失ったかもしれなかった。
すべて終わったかも…しれなかった。
細い糸にすがりつき、たぐりよせても
…間に合わないかもしれないのに
嗤うしかないかもしれないが…
俺にはほかに何もできないから。