臨戦

ニンゲンが言葉を交わす小さな機械を耳に当て、
奴が珍しく大声を出して。

奴と、龍との契約者が駆け付けた先。

仕掛け人の「イモウト」が倒れていた。

「ライダー」が「こちら側」に長く居すぎたときのように、
体がちりちりと滲んでいる。

慌てふためく2匹の雄。


あの「イモウト」の様子がおかしいとは、以前から知っていた。
「イモウト」がいなくなったと、奴と赤い「ライダー」が
「こちら側」を探し回っていたときも、
俺は、本当は、その気配に気付いていた。

だが、俺は、近づきたくなかったのだ。

慣れたはずの、その気配とともに
遠くからでも総毛立つ、異様な存在感。

その傍に引きずられそうになる俺と、
ただ逃げ出したい俺がいた。

幸か不幸か、奴は「イモウト」に出会わないまま、いったん事は収まったようだった。


「イモウト」の体が塵となるのが治まって、奴らが一息入れると、「こちら側」のやつらの気配が響いた。
すぐ飛び込んでくる「ライダー」たち。
低い声をあげ、わらわらと、同じ貌をしたやつらが寄ってくる。
倒しても、倒しても、気配は続く。
俺は…こいつらを知っていたか?
本当にその目に何かを映しているのか、定かでない、
虚ろな声をあげる連中のことを。
ぞわり、とした違和感が巣くう。

いや、今はただ倒す。
倒して、喰らい、力を得て、また倒す。

今までの連中とどこか違うとしても、獲物は獲物だ。
おぞましくても、喰らう。


一区切りつけて、奴と龍との契約者が「向こう側」に行くと、
「イモウト」が消えていた。

俺が「イモウト」を視界に入れたとき、
そこには金の羽根の存在と、仕掛け人がいた。
奴と、龍との契約者は、ただ突っ立っていた。
「こちら側」の気配をまとわりつかせ、仕掛け人が「イモウト」に触れる。
吸い込まれるように、その気配は「イモウト」の中へ消える。

何かが…俺の中に浮かびかけて…消えた。
知らない、俺は。
知らない。
わからない。

漂う血の臭いの間を抜けて、俺は「こちら側」に逃げ帰った。





奴と、
龍との契約者が
言葉を交わす。

やがて離れるとき、
龍との契約者は顔を歪め、
奴の背には、隙ができる。


そしてまた、同じ事の繰り返し。


ニンゲンの語ることなど、俺は知らない。


奴はかつて俺に、
あんな背は見せていなかった。





三色の「ライダー」が集まった。
今度こそ、何か変わるというのか。

だが、そこに、あの同じ貌をしたやつらが湧いて出た。

ただ、相手をする。

気付けば他の「ライダー」たちとは離れてしまった。

奴の黒い体が滲み始めるまで戦い続け。

「向こう側」へ転がり出た奴の後を追う。
両手両膝を地に着き、息を荒げる奴の周りを旋回する。
先ほどから胸焼けするほど喰らっているせいで、
俺の翼も爪も、まだ使える。
じりじりと、こちらを取りまくやつらに、高く啼いてみせる。

奴が立ち上がり、再び黒い皮をまとい、「こちら側」に飛び込む。

一体何が起こっているのか、考えている暇はない。
得体の知れないやつらに、奴を喰わせるわけにはいかない。


ようやく、終わりが見えてくる。

急降下して、まとめて叩き潰した。
と次の瞬間、背後から飛びかかられる。
しまったと思う間もなく、火球が走る。

残る連中を一掃したのは、龍の力。
赤い「ライダー」が立っていた。



赤い「ライダー」と奴が向き合う。
静かに、まっすぐに。

…そうか、
戦うんだな。

奴の背が、ほんのわずか揺らぎ、
再び張りつめる。

俺は、お前に従うだけだ。


二色の「ライダー」がカードを掲げる。
湧き起こる風と炎がぶつかり合う。
俺の姿も青と金に変わる。
赤と金の姿の龍が俺を睨む。

相手が戦うと決めて、
奴が戦うと決めたなら、
俺はただ…
蓄えた力すべてを…

author's note
RYUKI