ゲームの仕掛け人が「ライダー」たちを呼び集め
あと三日だと告げた。
思ったよりも、長く続けてきたけれど。
とうとう、終わり、だ。
なにもかも。
奴が倒されれば、俺が奴を喰う。
そして、そのうち俺は餓死するだろう。
俺が先に倒れれば、奴は力のほとんどを失い
瞬く間に他の連中の餌食になるだろう。
急いで他のやつと契約しなおさない限り。
首尾良く最後の一匹になれたなら、
望みをかなえ、すべてを片づけた後、
…奴は俺に得物を振るうだろう。
俺はニンゲンのいうところの、奴の「カタキ」なのだから。
何をどうしたところで、俺は終わるしかない。
その期限が切られた。
…ただ、それだけのこと。
奴は戦おうとする。
仕掛け人がいうところの、奴の「欲望」のために。
何度となく繰り返してきた、「ライダー」同士の渡り合いに…
今度こそ、ケリがつくとでもいうのか。
つかなければ「終わり」だと、仕掛け人は言った。
望みをかなえず生き長らえたとしても…たぶん奴は終わる…。
せいぜい…がんばるしかなかろう。
叩きつける雨の中で
ゲームの仕掛け人の「イモウト」という雌が
取り出す、小さな箱。
目をそむけても…。
その雌が語る声はいやでも俺の耳に入ってくる。
水が幾筋も俺の身体の上を滑り落ちていく。
どうやって俺が生まれたかなんて
そんなこと俺は知らない。
なぜニンゲンの命を求めるかなんて
そんな理屈はわからない。
気が付けば俺は俺で
腹が減るからニンゲンを喰った。
それだけだ。
いつの間にか、少しずつ雨は収まり…
奴の節くれ立った指がつかんでいる紙切れが
俺の姿だと気付いたとき
俺ののどに何かがつかえた。
息苦しくて、目を瞑ると
例えようのない異様な気配が届いた。
奴も、龍との契約者も、顔色を変えて駆け出す。
残された雌がゆっくりと顔を歪めていく。
細く細く…だがとぎれなく
嫌な音が、いや気配が響き続けている。
何かが、崩れかけている。
わらわらと湧き出る、同じ貌をしたやつら。
空を飛ぶやつらと戦うには、他の連中より奴の方が有利だ。
俺は奴の翼となり、奴の思うまま、自在に動いてみせる。
目の前にどちらかの死が待ちかまえているとしても、
ほんのわずかでも先へと生き延びるために。
よく見知った姿の、
まったく見知らぬ「ライダー」がゆらりと、そこに立っていた。
奴は、愚かしいほど、狼狽している。
「向こう側」のものでもなく
「こちら側」のものでもない
なにものでもない、そいつの姿に
奴はただ怯えていた。
俺の方は簡単にやられてやるつもりはない。
この翼を使うことでせめて
せいぜいあがいてみせる。
突然、響き渡る音。
きしみ、ねじれ、悲鳴を上げ…
何かが、崩れ去った。
ああ…。
俺は飲み込んだ。
ついに終わりが訪れたのだ。
もう「先」は無い。
「こちら側」と「向こう側」の通り道はすべて砕け散っていた。
奴は皮を脱ぎ捨てて走った。
俺と奴が出会った場所に。
ゲームに引きずり込まれた場所に。
すべては終わっていた。
俺を生んだという雌も
すべてを仕組んだニンゲンも
もう、いない。
やがて始まった二匹の「ライダー」のぶつかり合いを、奴はただ腑抜けたように見つめていた。
もう、ゲームは終わった。
ゲームそのものが壊れて消えた。
ルールも契約もなにもかも、もう、ない。
崩れた世界を、消し去るために
同じ貌をしたやつらの姿が雲と湧く。
奴が、龍との契約者に向かって、戦う意思を告げる。
ただ戦い続けてきた俺と奴に
残されたのは、戦うこと。
もうゲームの仕掛け人もいないのに、
カードが消えず
その戒めが切れていないことが不思議だった。
奴は青い風巻く姿となり
俺の背に飛び乗った。
力を与えていたのは俺のはずだったのに。
今、お前が俺に変わる力を与えている。
戦いだけで結びついてきた俺たち。
まだ身体が動いて、まだ命が砕けていないなら…。
一瞬でも先へ。
そして、
同時に終わるのも…
悪くない…。