抵抗

ザザザ、と波を蹴立てる音がする。
強い風が、とぎれなく俺の身体をなぶる。
頭の上には隠す物のない星。
俺は海の上を走る大きな鉄のかたまりのてっぺんに留まっていた。

奴が「車」や「単車」で移動するのには何度も付き合っていたが、この「船」という代物は初めてだ。
俺の翼なら宙を飛んで後を追うのもたやすいことだが、戦いが待ちかまえているとわかっていて無駄に力を使う必要もない。

少し離れたところで、赤い龍のやつもとぐろを巻いている。

そして、俺の耳は、他にもいくつかの気配を聞き取っていた。
俺は翼を畳んだまま、風になぶられ続けた。
奴は今、「向こう側」の船の下の方で寝ているはずだ。
どうせ、夜が明ければすべて動き出す。
騒ぐのはそれからでいい。



強い日の光の下で、龍との契約者と奴は「こちら側」の連中の気配を求めてうろつきはじめたようだ。
俺は「こちら側」で相変わらずてっぺんに留まっていた。俺が「向こう側」に近づけば、気配が混じってしまう。

不意に騒がしくなる。
蜂のやつらが、次々とニンゲンをこっちに引きずり込みはじめた。巣に持ち帰って貯めておくつもりだろう。

そして、
紫の「ライダー」と契約している連中が、唸りを上げている。
やつら…飢えている。
一時の俺と同じように、ニンゲンを喰うこともできず、勝手に他のやつを襲うこともできず、「力」を求めてうめいている。


ようやく奴が蜂どもに気付いたようだ。
赤い「ライダー」とともに、皮を被って飛び込んできたが…
おそらく獲物狩りに来ている紫の「ライダー」に邪魔される。

結局、獲物に逃げられて。



あの様子だと
やつら、限界は近そうだ。
うっかりと機会を逃した俺と違って
3匹もいれば、そのうち首尾良く契約相手を襲えるはずだ。

あの場に満ちていた、苛立ちと、憎しみの空気。
そして、力に服させられたことへの屈辱。
さっさと喰らって、枷から逃れるのも良い。
あいつらなら、その道もありそうだ。


「ライダー」が減ることは、奴には都合いいだろう。
俺1匹相手でも幾度か契約違反しかけた奴のことだ、
3匹相手に維持する難しさには楽に思い至るのだろう。
兵糧攻めをする気だ。

蜂どもが目をつけているらしい、幼いニンゲンの雌のところへ赴く。
まったく、こいつは上物だ。
まだ肉は薄いが、みずみずしく張りがあり、いかにも柔らかげ。
これを喰い損ねれば、惜しくなるのも無理はない。

案の定、ほどなく蜂どもがやってきた。

ずっと待ちかまえていたらしい紫の「ライダー」と奴、
そしていつのまにやってきたのか、緑の「ライダー」とで一気に叩きつぶす。

宙に浮く、三つの力。
蛇にエイ、犀が慌てて口を開けるが、俺は身軽に飛び回り、邪魔をしてやる。
と、
いきなり衝撃を受け、俺は軽く弾き飛ばされた。
見れば、赤い龍のやつが宙に身をうねらせている。
その間に、力は3匹の腹に収まる。
…少なくとも、一つは俺に権利があるはずだが。

その場に満ちていた殺気が、すっと退いていく。
あの紫のやつは命拾いしたようだ。
この先何度も似たようなことが起こりそうだが、少なくとも今の間は。

赤い「ライダー」がうなだれている。
奴は吐息を一つついただけで、何も言おうとはしなかった。
ゲームの規則に従おうとしない、訳の分からないニンゲンだが、
…少なくともそいつがいなければ、あの時、奴はまともに戦えるようにならなかった。

食い物の恨みは恐ろしいからな。覚えておけよ。

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RYUKI