憧れるキスシーン20のお題

1.振り向いたとき
2.背伸び
3.手を引かれて
4.押し倒されて
5.目を瞑って
6.雰囲気
7.二人きり
8.結婚式
9.深いキス(ディープキス)
10.告白の後
11.やさしく
12.見上げたとき
13.かがんで
14.あいさつがわり
15.おやすみ
16.おねだり
17.微笑みあって
18.口移し
19.レモン味
20.抱きしめて

某所で入手した これらのお題を決行しようとパルスィが思いついたのは昨夜のこと。
ひたすらにタイミングを見計らっているうちにあっさりと一日は過ぎ去り、各自がそれぞれ夕食後の寛ぎを堪能していた。
なぜにこんな馬鹿げたことを思いついたのか、いっそ早いうちに諦めてしまえばよかったのに、一日中妄想に踊り続けた思考は落ち着きを取り戻してはくれなさそうだった。
すっかりしわくちゃになってしまった書き付けた靭皮紙を握りしめて深呼吸を繰り返す。
そう、簡単なものから行けばいいのだ。
「そうよ、まずはえっと、”目を瞑って”とか?ってアイツそもそも目隠してるし」
そう、簡単なものからいけばいいのだ、間違っても押したおされてとか、結婚とかでっ、ディープキスとか見るから躊躇してしまうのだ。
訳の分からない結論を出して、そろりそろりと忍び寄る。
雛は食後の後片付け、師範とメディが食後の軽い運動にでている今がチャンスだ
ターゲットである忍者は未だちゃぶ台の前でゴロゴロしている、日頃効率効率とうるさいくせに結構だらしが無い所もあるのだ。
平常心を装って隣に座る
「お茶もってきたから冷めないうちに飲みなさいよ」
部屋にはいってきた段階でコイツには私の忍び足なんて全く意味を為していなかったんだろう。
無言のままのそりと起き上がり、こちらを見向きもしないまま湯呑みを手に取りずずずとすすり始める
「これちょっと熱すぎやしねぇか?」
「私はこれくらいが好きなのよ、この程度の緑茶で音をあげるなんてお燐以下の猫舌ね、百夜の騎士ならすかさず9杯飲んでみせるでしょうに」
「そんなところで勝っても嬉しくねーよ」
狭い6畳間に二人きり、たちまちお題の一つはクリアできたと妙な達成感を感じるが、本来は「二人きりシチュでのキス」がお題である。
忍者を見れば湯呑みにふぅふぅと息を吹きかけている
すこし尖らした唇は自分のそれとは違い薄くて広い。
触ってみたらどんな感触なのだろう、
「おい」
「ぱりゅっ!」
無意識のうちに立て膝をついて覗き込んでいた。
「飲みにくいだろ、なにやってんだ」
「湯呑みが妬ましいのよ」
これは半分本当
「そろそろ無機物を妬むのはやめとけ、非生産的すぎて勿体無ぇ」
そう言いながらも忍者は随分と近づいてしまったパルスィを押しのけようとはしなかった
これは受け入れてくれているということなのだろうか

水橋がまた下らないことを考えているのは分かっていた。
ふわふわとした少女の容貌の中には激情の女の固まりが詰まっている。
時折見せるやたらと色気ある仕草はそのせいで、今も妙に誘うような視線と体制ですり寄ってきているのも本能みたいなもので、別に発情している訳じゃねぇ

なのに なんで俺は動けない?
しっとりとしたパルスイの手が湯呑みをつかむ忍者のそれに添えられ、ひんやりとしたその感触にぞくりとする
「私も冷ますのを手伝ってあげる」
瞳が潤んで見えるのは湯気のせいだ、絶対。
湯呑みを挟んだお互いの距離はもう10センチ
水面に映った瞳 から目が離せない、

かさりと、乾いた音で我に返る。靭皮紙を蹴飛ばしてしまったようで、失敗した紙兵の成れの果てか、膝のあたりに握りつ ぶされた半紙が落ちている
「お前また失敗したのか」
なんとか絞り出した声は、カラカラに涸れていた
目の前に茶はあるというのに、動けない。
「失敗?」
気怠げに視線を追ったパルスィの動きが、止まった
「!!」
それまでのゆっくりとした動きが覚醒したかのように湯呑みごと飛び退く。
「熱っー」
「おい、バカなにやってんだ」
溢れた緑茶が畳と二人を濡らす。多少冷めていたとはいえ入れたての緑茶をモロにかぶったのだ、どこか火傷しているかもしれない。
忍者のほうは乱波装束もあり、それほどの被害はないがパスルィのほうは見事にシャツもスカートもびしょ濡れだ
「鍵山ー!手拭もってこい!手拭!」
ぐしぐしとマフラーでパルスィの顔を拭きつつ奥の水場で洗いものをしているであろう雛を呼ぶ
軽い足音がぱたぱたと響き言われたままに手拭を持参してきた雛はパルスィの惨状をみて驚いた顔をした
「火傷、ですか。冷やしますから忍者さん水を汲んできていただけますか」
忍者が言われるよりも早く部屋でる。
「2、3枚ほど絞ってくればいい か?」
「はい」
廊下のほうからの問いに答えて、雛がパルスィへと向き直す
胸の辺りがすこし赤みがかっているが、これなら冷やしておけば問題はなさそうだ

「すまないわね」
「いいえ、無事でよかったです、念のためケアルをかけておきますね」
上着を脱いで、ワンピース1枚になったパルスィの胸にそっと手を当てると白魔法の詠唱を開始した。
じんわりと温かな感触が広がる
「これで大丈夫です、上着と マフラーは洗っておきますね」
「うん、ありがとう、畳は自分で拭いておくから」
「お茶ですから、自然乾燥でもいいかと、ここは地熱で暖かいですし」
濡れた畳に目をやるとパルスィがくしゃくしゃになった靭皮紙を握りしめているに気が付く。
「これで拭くのは難しいかもですよ?」
そう言うと自然な動きで止める暇もなく靭皮紙をするりと抜き取った。
「あ、それは!」
抜き取った相手が雛以外だったらそのまま捨ててしまっていたかもしれないが、雛にとって靭皮紙はなによりも大切な生活必需品である、几帳面に畳み直そうとし広げたところでそれがただの靭皮紙では無いことに気がついた。
「憧れるキ…」
「アーアーアーー音読はやめて音読は!」

「水橋さん」
「…ハイ」
怖 くて雛の顔が見れない。
「楽しそうなもの持ってますね」
「ハイ?」
恐る恐る見てみれば、案の定満面の笑みで雛がこちらを見下ろしていた。
「妄想見られた…妬ましい…死にたい」
とっておきの甲賀手裏剣を持ち出して喉首にあてるよりも早く、ダークモール+1がその間に滑り込む
「いえ、とっても素敵ですよ」
「素敵?」
「ええ」
「私だって夢見る乙女ですから、殿方との接吻にはいろいろ憧れます」
今にも砕け落ちそうだったパルスィが羨望の眼差しで雛を見上げた。
ダークモールを握りしめ、明後日の方角を熱く見つめる雛の姿は、それはそれは…
…それはそれは神々しく見えたのだ、パルスィには。

「それで、何から挑戦するつもりだったんです?」
その 場にしゃがみこんだ雛が声のトーンを落として耳打ちする
「まずはこの”二人きり”とかが無難かなーーーとか思うんだけど…」
リストをみつ める二人の表情はどこまでも真剣だ
「でも最終的にはやっぱり”結婚”とか”ディープキス”とか」
「でぃーぷ…」
「鍵山さんは経験 あるの?」